或る午後の出来事 4
「で、どうする?そういう事なら、スペシャルガチャで今日も修行しに行くか?」
ようやくパラディンへの道筋が見つかったのだ。一気に突き進むのも悪くないだろう。
だが、その京平の提案に聖はきっぱりと首を横に振った。
「いや、師匠が来んなってさ」
「えっ?ダメなの?何で?」
「正確には、俺の意思で来るのはダメだって」
不思議そうな穂波に、聖が肩を竦めて答える。
「どういうこと?」
「来るべき時が来たら、ランダムだろうが何だろうが来れる。そうでないなら、まだその時じゃない。選ばれた先でこそすべき事があるんだから、そこでやるべき事をやってきなさいってさ」
その言葉に、京平がポンと手を打った。
「ああ。確かにジェノさんも似たような事を言ってたな。無駄に見えようが、理不尽だろうが、神の試練てのはどこかに意味があるもんだって」
三人の視線が倒れ伏している転生の神に集まる。
「いやいやいやいや」
暫くの間、その無残な寝姿を見つめていた三人だったが、やがて揃って苦笑いを浮かべた。
「ないな」
「ないかー」
「ないないないない」
そして、顔を見合わせつつ三者三様に否定する。無残に倒れ伏した姿を晒すこの神が、そこまで考えて行動しているとはとても思えない。
そこで何かに気付いた穂波が、あっと小さな声を上げた。
「てことはさ、スペシャルガチャは使うなって事?五百も石取られるのに?」
その言葉に、これまた肩を竦めて答える聖。
「俺もそれが気になって、師匠に聞いたんだよ。じゃあ、何て返ってきたと思う?使うべき時だと思ったら使えばいいよ、だぜ」
「……どっちなのよ……」
穂波が頭を抱える。
「分かんないだろ?師匠に言わしてみれば、使うべき時が来れば自然と分かるんだってさ」
「ホントに?」
穂波に訊かれるが、聖にも分かるはずがない。困ったように肩を竦めつつ答える。
「分かんないけどさ。ただ、確かに今じゃないとは思う」
「そうなの?」
「多分、すぐに来ても無駄っすよ。ヒジリさん、パラディンになる為の何かが足りてないんすって。それが無い間は、ここ来ても意味ない気がするんすよね。ってティファナさんにも言われたし」
ティファナの口調を真似たつもりの聖だったが、いまいち似ていない。
「師匠もマリエラさんも頷いてたから、多分そういう事なんだと思う」
「パラディンの為の何か、ねぇ……」
現代人たる京平達には皆目見当もつかない話だ。
「師匠に訊かなかったの?」
「愛と覚悟だって」
「あー」
訊いた穂波が分かったような分からなかったような微妙な表情を見せる。
「……なるほど、無いっちゃ無いわね」
「それは酷くね?」
穂波は聖の抗議に耳を貸すことなく、無邪気な笑顔でさらに問いかける。
「あるの?」
「……そう改めて訊かれると……」
「そういうところなんだろうな。そこであるって言い切れるくらいじゃないとパラディンにはなれないんだろうさ」
答えに窮する聖を見た京平が断じる。
「愛と覚悟って言うかさ、どんな時でも自分を貫き通すような信念、みたいなものがいるんじゃないかな。だってさ……」
そう言う京平の脳裏に三人のパラディンの姿が思い浮かぶ。
「あの人達の存在感、異常だろ」
「……それな」
聖も納得の表情を見せる。
「つまり、聖にとってのパラディンとは何ぞやってのを、ちゃんと突き詰めろって事か。『ぱらでぃんおう』とか言うフワフワしたもんじゃなくて」
「だろうな」
穂波の総括に京平も同意する。
「……だよなぁ」
聖にしてみても、何となく口にした『聖騎士王』という言葉にに具体的なイメージが伴っている訳ではない。パラディンへの道筋が見えつつある今、自分がどうなりたいのか考えるべき時が来たのかもしれない。
「それは他の世界でも考えられるって事だな」
同じ世界には三回までしか行くことが出来ない。だとすると、何も掴めぬままレリーの元に赴くのは得策ではないという事だろう。
「選ばれた先でこそすべき事、か……」
穂波の言葉に、三人はそれぞれ訪れた異世界に思いを馳せる。そこで自分はどれほど上手くやれたのだろうか、と。




