或る午後の出来事 3
「で、どうなの?パラディンになれそうなの?」
穂波の直球の質問に、聖の視線が宙を彷徨う。
「聖?」
勿論、その程度で穂波の追求から逃れられるはずもない。ひたすら笑顔で見つめ続けてくる穂波に、聖はすぐに根負けしてしまう。
「……剣と盾の使い方は上手くなった、と思う」
「剣と盾は、なのね」
「自分で言うのも何だけど、そこそこ使えるようになったと思う」
穂波に痛い所を突かれるが、聖は気付かないふりで誤魔化そうとする。
「聖なる一撃……守護……癒しの力」
続いて京平がレリー達の使っていたパラディンの能力を一つづつ挙げてきた。そうなると、聖は全てで首を横に振るしかない。
「その他」
何でもいいからという京平の願いを込めた最後の問いにも、聖は力なく首を横に振る。
「……それって戦士じゃん。ただ単に戦士として強くなっただけじゃん」
穂波の身も蓋もないツッコみに一瞬うなだれた聖だったが、一応反論するだけしてみることにした。
「そうは言うけどさ、あの人達のフワッとした説明でどうしろって言うんだよ」
問い一。聖なる一撃の出し方を教えてください。
レリーの回答。やーってやれば出る。
ティファナの回答。どりゃーって感じっすかね。口には出さないっすけど。
マリエラの回答。えいっという感じですわ。勿論、口には出しませんけど。
問い二。守護の力の張り方を教えてください。
レリーの回答。何もしてなくても出てるけど、あえて言うなら、ばんって感じ。
ティファナの回答。おりゃーってやれば何とかなるっす。当然、口には出さないっすけど。
マリエラの回答。はっという感じですわ。無論、口には出しませんけど。
問い三。癒しの力の使い方を教えてください。
レリーの回答。えいってやったら治るよ。
ティファナの回答。うりゃーってやってるっすね。やっぱり、口には出さないっすけど。
マリエラの回答。治ってと祈る感じですわ。たまに、口に出ちゃいますけど。
「それ、本気で言ってるの?」
軽く引き気味の穂波に、聖は力なく頷いた。
「ほとんど掛け声じゃない。えいっ、に至っては被ってるしさ。結局どっちなのよ。ダメージ与えられるの?治せるの?」
「正解は何も起こらない、だよ」
勿論一通り試してきた聖だったが、当然のごとく何一つ発動させることは出来なかった。
「あの人達、感覚でパラディン出来ちゃってんだよなー。その感覚って奴がさっぱり分からないから、マジでどうにもならないんだよ」
完全にお手上げといった様子の聖。
「まあ、そう簡単じゃないとは思ってたけどな……」
京平が呟くが、聖のような悲壮感はそこにない。
元々なれる可能性は限りなく低いと思っていた京平である。そんな京平にしてみれば、寧ろ感覚でパラディンが出来るというのならば、聖にもチャンスがある気がするのだ。
「感覚、か……」
こればかりは他人にどうこう出来るものではないだろう。何とか聖自身に掴んでもらうしかない。




