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或る午後の出来事 2

「聖はなにしてたのよ?」


 穂波の素朴な質問に、聖は肩を竦めて答えた。


「見てる以外に何か出来るとでも」

「だよね」


 三日で少しは経験を積んだとはいえ、所詮素人に毛が生えたレベルである。下手にジャイアントに突っかかっていこうものなら、返り討ちにあうこと請け合いだ。


「でも、ドラゴンの所も行ったんでしょ?ゲームならクソイベ確定の」


 穂波にしてみれば、そんなレベルの人間をドラゴンの元へ連れて行こうと考える事がそもそも信じられない。だが、聖の話を聞いている間に、さもありなんと思える程度には龍の巫女を理解しつつあった。


「まあ、行くには行ったけど……」


 ドラゴンの所でも何かあったのだろう。聖は少し話しにくそうに口籠った。


「どうだったんだよ?」

「やっぱり凄いの?」


 だが、京平達はそんな聖にお構いなしに食いつく。ドラゴンと言えば、ファンタジー世界の象徴ともいえる存在である。二人が強い関心を示すのも当然だろう。


「いや、まあ、凄いは凄いんだろうけど……」


 相変わらず口籠っていた聖だったが、最終的には興味津々な二人の視線に負けてしまう。


「師匠と並んでる時はそうでもなかったんだけどさ。返して、返さんの後、師匠は一目散にドラゴンに向かって走って行ったんだよ。すると次の瞬間にはマジで無理ってなって、メイさんと一緒に全速力で逃げた」


 その時の事を思い出したのか、聖が大きく体を震わせた。


「京平なら分かってくれると思うけど、クプヌヌって訳分かんねーじゃん。だからまあ、デカくてもそんなに怖くなかったんだけど。ドラゴンはドラゴンなんだよ。マジで白いドラゴンなんだよ。クソデカいアレがマジで動くんだよ。ブレス吐こうと口開けるんだよ。そりゃ無理ってもんだぜ」


 何とか理解してもらおうと、自らの体験をとにかく捲し立てる。クプヌヌを知らない穂波はピンと来ていないが、京平にはそれなりに想像がついた。


「それはまあ、仕方ないな」

「だろ?」


 京平が理解してくれたことに、明らかにホッとする聖。


「つか、メデューサも逃げたんだ」

「これは無理じゃって言いながら走ってた」

「ま、そっか」


 穂波の知る限り、ドラゴンに太刀打ち出来そうな強さのメデューサが出て来るゲームはない。


「じゃ、レリーって人が一人でドラゴン倒したって事?」

「多分ね。なんせ逃げちゃったから倒すところを見てたわけじゃないんだけどさ。逃げてる途中、遠くで冷たって声が聞こえたからブレスは喰らったりはしてたんじゃないかな。その後『夜天絶つ、(ル・フィナーレ・)終焉の疾風(ラファール)』撃つ声が聞こえてきてたけど」

「何それ厨二、素敵」


 『夜天絶つ、(ル・フィナーレ・)終焉の疾風(ラファール)』には穂波も食いつく。


「そんな必殺技みたいなのもあるんだ。異世界感爆発じゃない。いいな、ファンタジー」


 ヴィル達は紛れもなく異世界の住人であったが、異世界感という意味では若干薄い。どうしても羨ましさが滲み出る。


「確かに、あれだったらドラゴンも殺れるか」


 京平は、あんなにも苦労したククネプを大きく穿った一撃を思い出していた。あれが無かったら戦いの行方はどうなっていたか分からない。


「て言うか、ブレス喰らって平気なんだ、あの人……」

「龍の巫女って言うくらいだからな。ドラゴンの攻撃に耐性があったって不思議じゃないだろう?」


 そう言いつつ空ろな視線を交わす聖と京平。レリー達が異常なだけとも思えるが、お互いその点には触れようとしない。


「ま、そんなところかな。後は街に帰って、剣を習ったり野球をしたりだったし」


 気を取り直した聖が、さっと話をまとめてしまった。


「意外にちゃんと師匠をやってくれてたんだな」


 ジェノ達からの散々な言われように、正直どうなる事かと思っていた京平である。だが、話を聞く限りは、それなりに充実した修行生活を送っていたように思える。敵のレベルはともかくとして、聖に必要と思われる試練を与えてくれたらしい。


「これでちゃんとって、どんだけ期待値低かったのよ。こんなの、金槌を鮫のいるプールに突き落としたみたいなもんじゃない。聖じゃなかったら死んでるわよ、きっと」


 そんな京平が感心したように頷く姿を、穂波は呆れたように見ている。


「鮫がいたからこその成長かもしれないだろ」


 所詮他人事とばかりに軽く言い放つ京平に、穂波は益々呆れたとばかりに首を振ってみせた。


「まあ、成長してるんならそれでいいけどね」

「それこそ、異世界での覚悟って奴を考えさせられたみたいだし、なあ?」

「まあなあ」


 実際レリーがどこまで考えていたのかは分からないが、斬れる斬れないの境、そして斬れないならどうすべきか、聖が色々と考えさせられたのは事実だ。

 そうなってくると、俄然気になるのが修行の成果である。

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