遺跡の戦い 10
「いや、でも、ホント最初に言っておいてほしかったですよ。あそこで背後から一撃入れてたら大変な事になってましたって」
ホッとした聖が思わず心の内を漏らす。こうも厳しいシチュエーションを与えられ続けたら、恨み言の一つでも言いたくなるのが人間というものだろう。
「それじゃ修行にならないし」
レリーはどこ吹く風といった様子で取り合わないが、メイには思うところがあったらしい。
「ほう。それは妾が背後から斬られる間抜けと、そう言いたいのじゃな?」
語気は鋭いが口元は明らかに笑っている。
「いや、そんな事は全然思っていなくてですね……」
まずいと思った聖が慌てて火消しに走るが、間に合う訳もない。
「そか。じゃ、せっかくだし試してみよ」
レリーが乗っかってきた。聖ですらメイがからかっている事に気付いているのだから、レリーが気付かないはずがない。だが、そんな様子は一切おくびにも出さず、とんでもないことを提案してくる。
「せっかく綺麗にまとまりかけてたんですから、このまま終わりにしましょうよ」
聖が哀願するが、通じる訳がない。
「友好的なメデューサと戦える機会なんて滅多にないよ。せっかくだし戦お」
「そんなせっかくいらないですって。友好的な相手と戦うなんて意味わかんないですよ」
「良いではないか。一度は妾に斬りかかってきた身じゃろう?せっかくだから刃を交えようぞ」
既に乗り気のメイはどこからか取り出した幅広の剣を抜き放ち、剣舞よろしくクルクルと振り回している。
「思ってたのと違う!」
その姿に思わず声を上げる聖。明らかに剣の腕もメイの方が上に見える。
「本気で行っていいのかえ?」
剣先をピタッと聖の眼前で止めたメイがレリーに確認すると、勿論と二つ返事で承諾されてしまう。
「ふむ。それでは……」
聖を促そうとしたメイが首を傾げ動きを止める。
「お主、名は?」
「あ、ああ、聖です。直江聖」
自己紹介しつつ、渋々立ち上がる。
「ヒジリ殿か。それでは、一手お手合わせお願いしようかの」
そう言って一旦間合いを取るように離れるメイを見ながら、聖はため息をつきつつ刀を抜いた。
「ふぁいと。骨は拾ってあげるから、思い切っていこ」
「それもう死んでますよね」
「死なない程度で止めてあげる」
レリーの口調は軽く、どこまで本気か分からない。
「お願いしますよ、ホントに」
そう言いつつ盾を翳し、裏面の鏡にメイが映る体勢をとった。
「……それで戦うつもりかえ?」
メイが呆れたように訊いてくるが、聖は真剣そのものだ。
「本気で来るって事はフードも仮面も脱ぐつもりでしょう?神話ではこれで上手くいくんですよ」
「……なるほど。ペルセウスの逸話じゃな」
納得したように頷いたメイは、同時に口元に意味ありげな笑みを浮かべつつ剣を構えた。




