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遺跡の戦い 7

「あの、メデューサさん?」


 聖が相変わらずどこか遠くを眺めているであろうメデューサに声をかける。


「なんじゃ?」


 メデューサが相変わらず何処を向いているか分からない仮面の目を聖に向けてくる。


「その呪い、解けるかもしれません。そうすれば……」

「何を言っとるんじゃ、お主は」


 聖の説得は、メデューサの呆れたような声によって遮られた。


「何ゆえ、呪いを解かねばばならぬのじゃ」

「えっ?だって、罰を受けてるって……」


 何故断られたのか聖は理解出来ていない。


「お主、妾の話をちゃんと聞いておったのか?神はこう言ったのじゃぞ。『永遠の美を与えてやろう』と。例え幾たび生き死にを繰り返そうと、その度に労せずして美が与えられるのじゃ。ありがたい話ではないか」

「えーっ……」


 思ってもみなかったメデューサの言葉に、聖は困惑を隠せない。


「それじゃ、罰になってないんじゃ……」

「そんな事はないぞ。何せ、妾は自分の顔が見れんからの。我が美貌を愛でることが出来ぬのは、それなりに辛いものよ」


 明るく言い放ったメデューサであったが、ふとトーンを落として言葉を続けた。


「そもそも、今の妾は本当に美しいのかえ?」

「どういう事です?」

「先も言った通り、妾が我が美貌を見れなくなって久しい。一度、頭の蛇で鏡を見ようとしてそれっきりじゃ」


 フード越しに頭にいるであろう蛇を撫でる。


「見れたんですか?」

「一瞬な。美しい、と思う暇もなく蛇が石になってしもうたわ。鏡越しでも視線が合ってしまうと石になってしまうようでの」

「なるほど」

「当時は生きている頃と変わらぬ美しさであったようじゃが、あれから随分と経っておる……神のやる事ゆえ間違いはないと思うのじゃが……」


 仮面越しで正確には分からないが、どうやら真剣に悩んでいるらしい。


「今でも手入れは欠かしておらぬのじゃがな。ほれ、そこにあるじゃろ。香油に、クリームに、入浴剤。どれも妾のお手製じゃ」


 そう言ってメデューサが指し示した先には、古めかしい実験器具や小瓶が並んだテーブルがあった。


「……その材料とかってどうしてるんですか?」

「ここは古き医薬神の神殿だったみたいでの。奥に薬草園があるのじゃが、割と珍しい薬草が採れるんじゃよ。前の道は定期的に隊商が通るゆえ、交換相手には困らぬ」


 自分達もここへ来るまでに行商人とすれ違ったし、それなりに旅人が歩いているのも見た。そこそこ人通りがある道であることは間違いない。それだけに、メデューサがおいそれと交渉に出れる状況とも思えない。

 聖のそんな疑問に、メデューサは笑って自分の仮面を指で叩いた。


「何でも、この世界には仮面の魔導士やら戦士やらがゴロゴロいるそうではないか。どうやら妾もその一員と思われているらしい」


 そう言ってひとしきり笑ったメデューサは、腕組みをして考え込む。


「しかし、メデューサとバレた話が出てしまったとなると……誤魔化しきれんかもしれんのう……」


 暫く悩んでいたが、やがてポンと一つ手を打った。


「そうじゃ!お主、妾の顔を見てくれんか?」

「はっ?俺がですか?」


 急な提案に困った聖は、助けを求めようと背後を振り返る。だが、レリーの姿はそこにない。慌てて辺りを見回すと、レリーはいつの間にか例のテーブルの傍まで移動しており、並べられている小瓶を熱心に見ていた。


「師匠?」

「いいんじゃない?」


 話を聞いていたのかいないのか、心ここにあらずと言った感じで適当に答えるレリー。


「心配には及ばぬよ。目は瞑っておくゆえ石になる事はない」

「はぁ……」

「確認じゃよ、確認。妾は美しいという前提で物事を考えておったが、既に美しくないというのであれば、こんな茶番に付き合う義理もない」

「……すげーメンタル」


 罰を茶番と言い切る精神に唖然とした聖が呟くが、メデューサの耳には入らなかった。


「その場合、お主の解呪の話に乗るのも吝かではないからの。良いかえ?」


 美しかった場合は何一つ状況が変わらない、と心の中で思った聖だったが、体は大人しく頷いていた。拒否をしたところで、状況は変わらない。


「そうか。では、よろしく頼む」


 メデューサが仮面を外す。


「っ!」


 その瞬間、聖が息を呑んだ。そこにあったのはエキゾチックな印象を受ける女性の顔だ。その美しさは本人が世界に並ぶものはないと豪語するだけはある。惜しむらくは目が閉じられている事だが、彼女がメデューサであることを忘れてしまいそうなほどに、聖はその目が明いた姿を見たいと思ってしまった。


「どうかえ?」


 少し不安そうなメデューサの問いに、聖は絞り出すような声で答えた。目は彼女の顔から離すことが出来ない。


「……凄く、綺麗です」

「そうかそうか。それは何よりじゃ」


 メデューサがホッと胸をなでおろす。だが、その様子をレリーがムッとした表情で見ている事には二人とも気付かない。


「であれば、呪いを解くには及ばぬ、と言うことじゃ。さて、どうするかの?」


 仮面を付けながらメデューサが聖に尋ねてくる。素顔が仮面に隠されると、聖は残念そうな表情を浮かべたが、すぐに気を取り直す。

 まるで振り出しに戻ったかのような状況だが、聖は薄っすらと解決の糸口を見つけつつあった。

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