遺跡の戦い 6
「えっと、その前に幾つか聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
今の時点では案一つ浮かんでいない聖。だが、先のメデューサの話には幾つか引っかかる点があった。それが手掛かりにならないかと、望みをかける。
「妾にか?構わんぞ」
メデューサは鷹揚に頷く。
「さっき、妾に課せられた罰って言ってましたよね?その罰ってどういう事なんですか?」
「言葉の通り、今の妾は罰を受けておるのじゃよ。かつての妾が犯した罪の、な」
そう言ってメデューサは声を立てて笑うが、その姿に罪人の雰囲気はない。
「かつての妾はそれはもう美しかったのじゃ。それはもう、世界に並ぶ者がいない程に」
「はぁ……」
今の顔、それも口元しか見えていない聖には何とも判断のしようがなく、ただ曖昧に頷く。だが、メデューサは構わず楽し気に話を続けている。
「当時、妾はとある国の女王でのう。列強との外交に苦心しておったのだが、何故だか他国の権力者共は揃いも揃って妾の美貌に目を眩ませてくれての」
褐色の手を優雅に天に翳してみせる。その嫋やかな動きに、聖の目が奪われる。
「そう、その目じゃ。妾が動けば男共はすぐ夢中になり、そんな目で妾を見よる。何とも言えぬ快感よ」
聖の視線を操るように細くしなやかな指を動かしていたメデューサだったが、後ろに控えているレリーの瞳が僅かに剣呑な光を帯びている事に気付いた。不満気な視線は聖に向けられているが、殺気は明らかに自分に向けられている。
慌てたメデューサだったが、さりげなく手をマスクに添えるように戻し、何食わぬ顔で話を続けた。
「おかげで我が国は随分と裕福になったものよ。じゃが、我らが神々にとっては面白くなかったみたいでの。最後の審判で呪いをかけられてしもうたんじゃ」
そう言って自分の仮面を指差す。
「あの時、冥府の神は何と言っておったかのう……随分と昔の事ゆえ定かではないが……確か『そんなにも美しさを追い求めるならば、永遠の美を与えてやろう。但し、その美を褒め讃える者はどこにもおらぬ』であったか……」
芝居がかった口調で神を真似る。
「気が付けばこの姿で見も知らぬ世界におったという訳じゃ。お主も知っておろうが、妾の目、蛇の目を見た者は石となる。故に妾の美を褒め讃える者はおらぬ。そしていつかは誰かに討たれ、また違う世界にこの姿で生を受ける。その繰り返しじゃ。メデューサ、蛇神、蛇女、その時々で呼ばれ方は違えど、忌み嫌われる存在であるという事だけは変わらぬな。それが妾の受けておる罰よ」
「まさか、それじゃ……」
思いもしなかったメデューサの話に、聖は驚きを隠せない。
「転生、してるんですか?」
聖の言葉がピンとこなかったのか、メデューサは首を傾げた。
「転生……?そうか……そう言う事になるんじゃろうか……」
そしてしみじみと呟く。
「我が愛しき肉体への再生は叶わず、であるものな」
過去を懐かしむかのように、虚空へと視線を彷徨わせている。その隙にそっと振り返った聖は、レリーに小声で尋ねた。
「師匠。あのメデューサの呪いって解けます?」
「どうだろ。異界の神の呪いだし。どうしてもって言うならジェノに頼んでみれば?」
あまり乗り気ではない様子のレリーだったが、とりあえず答えは返す。
「ジェノさんですか……」
意外とあっさり応じてくれる気もするし、めちゃくちゃ文句を言われる気もする。どちらにせよ解呪は試してくれるに違いない。とにかく、これで手段の目途は立った。後はメデューサと交渉するのみだ。




