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遺跡の戦い 5

「おや……二人で来たという事は、引いてはくれぬという事か……」


 相変わらず背を向けたままのメデューサだったが、二人分の足音を聞きつけ落胆したように呟く。


「いえ、違います違います。ただ、少し話がしたいんです。この人は俺の師匠で、そのお目付け役です」


 ゆらりと立ち上がったメデューサを見た聖は、押しとどめんばかりに両手を突き出した。


「話とな?」


 メデューサは不信感を隠そうともせず訊き返した。とりあえず即座に襲ってくるという事は無さそうだが、警戒を解くつもりもないらしい。油断なくいつでも脱げるようフードに手を添えている。


「して、何用かえ?聞いてやるゆえ、話すがよい」


 メデューサに促された聖がここへ来た目的について話す。依頼についても隠し立てしない。


「ふむ。これは妾が迂闊であったわ。暑さに負けてフードを脱いだところを見られてしまうとはのう……」


 聖の話を聞いたメデューサは、やれやれとばかりに首を振った。


「という事はじゃ、結局のところ、お主達は妾に降りかかる火の粉という事じゃな」


 メデューサの声音に不穏な響きが混ざる。


「いえ、違います。いや、話としては違わないんですけど、出来ればそうならないようにしたいって話です」


 慌てた聖が否定するが、メデューサを説得出来るような言葉ではない。


「これは異な事を申すのう。そもそも何ゆえ妾が討ち滅ぼされなければならぬ?この場所ではおろかこの世界で、ですら妾は誰も手にかけておらぬ。討たれる道理がどこにある?」

「それは……」


 レリーは人とモンスターは相容れないと言っていた。おそらく殆どの場合はそうなのだろう。だが目の前のメデューサとは、完全にとまではいかなくとも、妥協出来る程度には分かり合えるのではないかと思える。


「ククク。すまぬすまぬ。お主が随分と青臭い事を言うので、ついからかってしもうたわ」


 苦悩する聖に、メデューサが肩を震わせる。だが、すぐに落ち着きを取り戻し、静かに言葉を続けた。


「ここでは妾はそう言う存在なのであろう?いや、そう言う存在であるべき、と言うべきかの」


 その冷静な口調には、ある種の諦観があるように聖には感じられた。かける言葉が見つけられない間にも、メデューサの話は進んでいく。


「まあ、それも妾に課せられた罰のうち……今更、討たれることに文句を言うつもりはありゃせんが……」


 そこでメデューサが初めて聖の方へと振り返った。咄嗟に盾を翳して視線を遮ろうとした聖だったが、目にしたメデューサの様相にその手が止まる。その顔の上半分は、ド派手に装飾された仮面で覆われていたのだ。目の部分にあけられている穴は深く暗く、視線がどこへ向いているか判断がつかない。


「ただで討たれるほどお人よしでもありゃせんからの。お主達も、それなりの覚悟は持って来てるのじゃろ?」


 露出している口元に妖艶な笑みを浮かべ、仮面に手をかける。


「待ってくださいって。だから、俺は争いたくないんですよ」


 臨戦態勢に入ろうとするメデューサを何とか止めようとする聖。


「……ならば、どうするのじゃ?妾を見逃してくれるのかえ?」

「それは……」


 例えここで自分が逃がしても、根本的な解決にはならないだろう。別の冒険者が来ることになるだけだ。


「ククク。おかしな奴よのう。こんな妾の為に何ゆえそこまで必死になる。この世の理に従って、妾を討てば良かろうに」

「少なくとも、今は話し合えてるじゃないですか。なのに、モンスターだから討つってのは違うと思うんです」

「……ほう」


 聖の言葉に思う所があったのか、メデューサは仮面に添えていた指を放した。腕組みをし、仮面の虚ろな目を聖へと向ける。


「本当に青臭い事を言う奴じゃな。だが、面白い。事と次第によってはお主の話に乗ってやっても良いぞ。勿論、後ろの恐ろしい戦士殿が赦してくれるならば、じゃがの」

「この件はヒジリに任してるから。ヒジリが死ぬ以外なら何でもいいし」


 メデューサに話を向けられたレリーが淡々と答える。


「なるほどのう。結局、妾の命はお主のアイデア一つにかかっているという訳じゃな」


 メデューサは再び聖へと目を向ける。口元に浮かんだままの笑みは、聖が建設的な意見を出せなければ容赦なく襲い掛かるという意思の表れなのだろう。

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