遺跡の戦い 4
「どしたの?」
レリーはと言うと、壁に凭れかかってすっかりリラックスした様子だ。緊張感なく聖を迎える。
「あの、この仕事の依頼書ってありますか?あと、昨日の魔術師のもあれば見たいんですけど」
「あるけど……」
例の依頼書の束を引っ張り出したレリーは、その中から二枚を聖に手渡した。
「こっちがメデューサの、こっちが昨日の魔術師の」
「ありがとうございます」
依頼書を受け取った聖は、まず昨日の依頼書に目を通す。勿論、文字としては読めないが模様としては認識出来る。
「えっと……デッドオアアライブって書いてあるの、ここで良かったですっけ?」
聖は昨日レリーが指していたであろう場所を見つけると、レリーに確認を取る。
「そだよ」
「ありがとうございます」
もう一度その個所に目を落とす。どれがデッドでどれがオアでどれがアライブかは分からないが、三つのブロックで構成されているのは分かった。
次に今日の依頼書へと目を移す。目を皿のようにして紙面を追うが、目的の模様は見当たらない。
「あの、師匠?」
まさかと言う気持ちを胸に秘めながら、恐る恐るレリーに問いかけた。
「今日の依頼、デッドオアアライブじゃない気がするんですけど……」
「うん。そだね」
あっさりと認めるレリー。まさかが現実だったと、聖は思わず天を仰いだ。
「じゃあ、今日の依頼はいったい何なんですかっ!?」
「調査だよ」
「へっ?」
思いもしない答えに聖の目が点になる。
「だから調査。遺跡にメデューサが住み着いたみたいだから調べてきてってさ」
聖の手から依頼書を取り返したレリーは、わざとらしく依頼を確認するふりをしている。
「そんなこと一言も言ってませんよね?」
「聞かれなかったし」
レリーから返ってきた答えはテンプレそのものだ。
「いや、だって、あの流れならメデューサだって討伐と思うじゃないですかっ!」
「それはヒジリの勝手な思い込み」
今度はレリーの正論に、またもやぐうの音が出なくなる聖。そのまま渋い顔で考え込む。こうなると、気になってくるのはレリーの真意だ。
「……それにしたって、随分煽ってましたよね……」
思い返してみても、遺跡に入る前のレリーの言動は、やれ実戦的な経験だ奇襲だと、まるで討伐の依頼であるかのようだった。わざわざそこまでして討伐依頼と誤解するよう誘導したのだ。きっと、何か意味があるのだろう。
「そっかな」
素っ気なく答えるレリーだったが、どこかわざとらしい。
「そのまま俺が斬りかかってたらどうするつもりだったんですか?」
「別にどもしないよ。勝てたらそれで良し。負けたら死なない程度で助けるつもりだったし。ま、メデューサ相手だから石化する可能性が一番高いかと思ってたけど」
「……勝てない戦いに送り出したわけですね」
「壁は高い方がいいから」
レリーに澄ました顔で答えられ、聖の渋い表情がますます渋くなる。
「それに、報告したらどうせ討伐依頼出るよ。人とモンスターは相容れないもんだし。なら、一足先に倒したって問題ない。何なら一石二鳥」
「えっ?」
聖に動揺が走る。少し会話を交わしただけだが、話が通じない相手では無さそうだった。それをいきなり討伐と言うのは気が引ける。
その事を告げられたレリーは、肩を竦めて問い返した。
「素直だね、ヒジリは。騙されてる可能性はない?頭のいいモンスターは、言葉巧みに騙してくるよ」
「……それは……」
そう言われると自信はない。だが、聖にはメデューサがそんなに悪い存在には思えなかった。
「ま、これはヒジリの仕事だから好きにしてみれば?」
そう言ってレリーは、思い悩んでいる聖の背中をポンと叩いた。聖がハッとした表情でレリーを見ると、柔らかい笑顔が返ってきた。
「そうですね……」
落としどころはさっぱり分からないが、レリーがそう言うのであれば何か手はあるのだろう。そしてそれこそがレリーの狙いに違いない。
「そうと決まればさっさと行く。ほら、私もついて行ってあげるから」
レリーは煮え切らない様子の聖の背中をぐいぐい押して、メデューサの元へと向かわせる。




