遺跡の戦い 3
「何奴っ!?」
突然の背後の足音にメデューサは素早くフードを被ると、背を向けたまま足音の方へと左腕を突き出した。その動きに、魔法でも飛んでくるのかと、聖は慌てて方向転換する。
「止まれ!それ以上近づくでない!」
だが、飛んできたのは制止の言葉だけだ。刀の間合いまで後一歩と言う所まで迫っていた聖だったが、その言葉に妙な違和感を覚え足を止めてしまう。声こそ鋭いが、敵意が感じられなかったのだ。それでも油断なく盾を構えると裏の鏡にメデューサの姿を映し、本体から視線を逸らした。
「……それで良い。それ以上お主が近付いたら、妾はフードを脱がねばならぬ。じゃが、それはお互いにとって不幸な結果を招く。そうではないかえ?」
聖が足を止めたのを感じ取ったメデューサは、少し声の調子を和らげて言った。だが、こちらも油断なく手はいつでもフードに手を掛け、いつでも脱げるよう準備している。
「お主の目的が何かは知らぬが、出来ればそのまま引き返してくれんかの?」
「……えっ?それって、どういう……」
予想だにしない展開に聖は戸惑いを隠せない。そもそも、なぜメデューサは自分が近付いた時にフードを被ったのか。
「どうと言われても、言葉通りの意味ゆえに困るのじゃが……もしやお主、話が通じないタイプかえ?」
モンスターに話が通じないタイプと言われてしまうのは、なかなかに不本意な話である。とは言え、こうなると有無を言わさず斬りかかる訳にもいかない。
「まあ、穏便に済ませられるならばそれはそれで構わないんですけど……」
とりあえず刀を鞘に納め、一旦は敵意がないことを示す。
「……戦う気は無いって事ですか?」
「なにゆえ妾がお主と戦わねばならんのじゃ」
メデューサからうんざりした口調の答えが返ってきた。
「そもそも、背後から斬り掛かってきたのはお主じゃろ。妾には戦うも何もなかろうて」
「……そうですね。すいません」
メデューサの正論に、聖はぐうの音も出ない。
「ならば、大人しく帰ってくれるかの?断るというのならば、妾とて己の身に降りかかる火の粉は振り払わねばならぬからな」
どうやら本当にメデューサは襲ってくる気はないらしい。争わずに済むのであれば、それはそれでありがたい話である。
「……ちょとだけ時間をもらっていいですか?」
だが、ギルドの依頼には履行の義務を負うとレリーは言っていた。だとすると、このまま帰ってしまうのもまずい気がする。
「別に構わぬよ。時など腐るほどあるゆえ」
その答えに会釈した聖は、踵を返してレリーの元へ戻ろうとしたが、すぐに足を止めメデューサの方を振り返った。、
「念の為、一つ確認させてもらいたいんですけど……メデューサ、ですよね?」
「この世界ではそう呼ばれとるみたいじゃの。まあ、妾にとって呼び名など何でもよい事じゃが」
いかにも面倒そうに答えたメデューサに聖は再度会釈をすると、石壁に隠れたままのレリーの元へと走って行った。




