遺跡の戦い 2
「じゃ、行きますね……」
そう言うと森へと足を踏み入れた。出来る限り物音を立てないよう気を付けながら獣道を進む。
「……周囲の警戒も忘れずに」
音を立てずに歩くことに必死な聖を見かねたのか、レリーが小声でアドバイスする。
「あっ、はい」
その声に聖は慌ててキョロキョロと周囲を見回した。今のところ、自分達以外に動く物の気配はない。色鮮やかな樹々の緑と、古びた遺跡の灰色のコントラストだけが目に入る。
「ふぅ……」
安堵の吐息をもらした聖は、再び歩き出した。今度は適度に辺りの様子も窺っている。
「っ!」
どうやらこの森にはそれなりの数の小動物が住んでいるらしい。樹々の間を走る小さな気配に時折驚かされながらも、聖は着実に歩みを進めていく。
やがて、行く手に一際大きな建物が見えてきた。どうやらこの遺跡の中心とも言える神殿の跡のようだ。ここまでメデューサと出会わずに来れたという事は、この中にいる可能性が高いと言えるだろう。それを示すかのように、辿ってきた下草の踏み跡は神殿の入り口まで続いていた。
「さて……」
奇襲するなら入口以外の侵入口を探さなければならない。獣道を外れた聖は、慎重に建物の裏へと回っていく。
幸いにも神殿の裏手も大きく崩れていた。その崩れた石壁の陰に身を潜ませた聖は、そっと首を突き出し中を覗き込んだ。
元は礼拝堂だったのか、崩れた長椅子の並ぶ広間が見える。その椅子の一つに座る人影があった。白いローブを纏ったその姿は神官のようにも見えるが、その頭部には数多の蛇がのたくっている。
「いた」
その姿を確認した聖はすぐに首を引っ込める。こちらに背を向けていたので顔は分からなかったが、頭の蛇が何よりの証拠だろう。
「師匠、あれを」
聖の言葉に、レリーは一枚の盾を取り出した。昨日、街に帰った際に聖に頼まれて手配した一品だ。
「……ホントにこれでやれるの?」
暫く訝しげに盾を見ていたレリーだったが、やがて首を傾げつつ聖に手渡した。
「……まあ、神話では上手くいくんで」
「そっか。じゃあ、だいじょぶかな」
レリーは神話という言葉にあっさり納得した様子を見せる。
「だといいんですけどね」
受け取った盾の裏側を確認した聖は、満足気に一度頷き左腕に嵌めた。そしてレリーに背を向けると、盾を眼前に翳す。裏面に張られた鏡に朧気ながらもレリーの姿が映った。
「おっ、ちゃんと見えてるね」
レリーは鏡に向かって手を振るが、それに応えられる程の余裕は聖にない。
聖は緊張の面持ちで再び中の様子を窺うが、メデューサはまだこちらに気付いていないようだ。
「じゃ、行きます」
「ふぁいと」
例によって心の籠っていないレリーの応援を背に、陰から進み出る。メデューサまでの距離は四十メートルくらいだろうか。慎重に近づくべきかどうか一瞬迷うが、時間をかけても気付かれる可能性が高くなるだけだろう。ならば、と覚悟を決め一気に距離を詰めようと走り出す。




