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あやしい神ほどよく喋る 10

「何、立とうとしてるんだよ」

「えっ?だって、穂波さん帰られましたし、いいじゃないですか」

「いやいや、神様が女の子を泣かしちゃダメでしょ」


 そう言った京平の後ろで、自分はちゃっかり立ち上がった聖が頷いている。


「いや、でも、説明責任は果たしているわけですし……」

「確実に伝わってなかったけどな」


 さっきの穂波の慌てようを見たら一目瞭然である。


「神様が悪徳業者のような事をしちゃダメだよね」


 聖も乗っかってくる。


「……どちらかと言うと今の京平さん達の方が悪徳業者だと思いますけど」

「ちょっと何言ってるか分からないっす」


 神の恨み節にも聖がすっとぼける。


「神様が女の子を泣かしたというのは事実が、うっかりスサノオ様の耳にでも入ったらどうなるんでしょうねぇ?」

「……恐喝ですよ、それ」

「女の子の涙に対しての誠意、見せてくださいよ」


 京平達は精一杯純真そうな笑顔で神を見つめている。神から見たら、悪魔にしか見えない笑顔だ。


「……だから詫び石出すの嫌だったんですよ。すぐ調子に乗って石要求するようになるんですから」


 ぶつぶつ文句を言っている神だったが、スサノオの名前を出されてはどうしようもない。


「次は屈しませんよ」


 そう言いながら手帳を取り出す。


「屈するも何も、詫び石要求されるような事しなければいいじゃん」


 聖に突っ込まれるが、神は無視した。


「で、どれだけ欲しいんです?」

「そうだなー。とりあえず、穂波が呑んだ分を補填してくれ」


 意外に慎ましい要求に驚く神。


「それでいいんですか?」

「まあ、今回はこっちも同罪みたいなもんだからな。そんなもんだろ」


 それを聞いた神は手帳に何やら書きつける。


「はい、これで元通り、と。いいですねー、京平さん。あなた達とは上手くやっていけそうな気がします。これはもう『おねリン』成功間違いなし」


 そう言って笑う神に対し、京平達は割と嫌そうな表情を見せた。


「……運営側はそう言うよな」


 京平のその言葉に同意するように頷いた聖が、テーブルに並べられた皿に気付く。


「これ、何?」


 聖の問いに、神は待ってましたとばかりに話し始めた。


「お、そうでしたそうでした。お二人ともお腹を空かせて異世界から還ってこられると思いまして、シェフ転生の神として腕によりをかけてディナーを用意させていただきました」


 穂波にやり込められた事など忘れたかのように自信満々な神だったが、聖達の反応は芳しくなかった。


「……精一杯好意的に受け取ってスープが二皿にしか見えないんだが、これ何なんだよ」

「ハッシュドビーフとミネストローネです。遠慮なく召し上がってください」

「……具は?」


 京平は穂波と同じようにスプーンで皿をかき混ぜながら訊く。


「それは、冷蔵庫に食材を入れておいてから言っていただきたいですね。わたくし、転生の神ですから、食材を産み出すなんて芸当出来はしませんよ?」

「何で食材も無いのに料理しようとしてんだよ。それも人の家で、勝手に、だ」

「人の話はちゃんと聞いてください。お二人ともお腹を空かせて異世界から還ってこられると思いましたので、シェフ転生の神としてディナーを用意させていただいたって、さっき言ったじゃないですか。勿論、これはサービスですから石とか必要ありません」


 どうしてここまで大きな態度で話せるのだろう。聖達の胸中に去来する思いは同じだった。


「これで金取るって言ったら訴えられるぞ」

「何故です?神が手ずから作った、謂わばこれぞまさしく神饌と呼ぶべき食事ですよ!」

「分かった分かった。もう神饌でも何でもいいよ。俺達、今から飯食いに行ってくるから、ちゃんと片付けとけよ」


 そう言い捨てた京平は、返事も待たず聖と連れ立って部屋から出ていく。


「えっ?ちょ、ちょっと、それはあんまりじゃ……」


 神の哀れっぽい声がそんな二人の背に追いすがってくるが、京平は容赦なくドアで遮断する。


「何食う?」

「カレー」


 京平の言葉に、即答する聖。


「……まあ、その気持ち分からんではない」


 似て非なるメニューを選択されてはシェフ転生の神も形無しである。


「じゃあ、いつもの店にしよう」


 京平の提案に、聖も間髪入れず頷く。


「おー、鰻屋。いいね、そうしよう」


 鰻屋と言うのは聖達の間の通称である。由来は言うまでもなく、どう見ても鰻屋にしか見えない店構えをしているからだが、看板には堂々とインド料理と書かれているのだ。


「あそこ、美味いんだけど、なんであんなんなんだろうな」

「居抜いたんだろ」

「いや、居抜くにしたって、もうちょっとあるだろうに」


 さらには、暇を持て余した店主がナンを焼く代わりにピザを焼いてみたりと混迷の度合いを深め、先日の土用の丑の日にはとうとう鰻を焼き出し、名実ともに鰻屋になってしまった、そんな店だ。

 そのミスマッチのせいか盛況とはとても言い難い状況であり、聖達が行くと常に貸切状態と言っていい程である。


「早く行こうぜ。この前食った鰻思い出したら腹減ってきた」

「そこはせめてカレーを思い出せよ」


 二人は軽口を叩きながら、鰻屋へと足を速めた。

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