ロード・オブ・ザ・パラディン 12
「生きてる?」
「……何とか」
「そか。で、どんなだった?」
心配するでもなく、淡々と質問を重ねる。
「どんなって……兵士みたいな幽霊でしたけど……それがどうかしましたか?」
質問の意図が分からない聖が怪訝そうに訊き返す。
「斬れた?」
「えっ?いや、ちゃんと斬れたかどうかは別として、倍殴れって言われたからとりあえず斬り続けはしたんですけど……もしかして、斬っちゃ駄目だったんですか?」
不安そうな表情を浮かべた聖に、レリーは微笑みつつ首を横に振った。
「ううん。そんな事はない」
「もう、びっくりさせないで下さいよ。幽霊は斬るんじゃなくて浄化させないとダメ、みたいなこと言われるのかと思いましたよ」
「そうゆうのはクレリックの仕事。私達のじゃない」
そう言って立ち上がったレリーは、傷を治そうと聖に近寄る。
「……ちゃんと成仏してくれたならいいんですけどね」
「ん?」
聖が思わず漏らした呟きに、今度はレリーが首を傾げる。
「ああ、いや、悪霊は祓う事が救いになるなんて言われてたりするんで……不格好ですけど、とりあえず倒せたので、まあ良かったのかなって」
「ふーん。いるかいないか分からないのに、そんな考え方するんだ」
「主にいる派の人の意見ですからね。まあ、俺も今日初めて見て、そうだといいなと思ったんですけど。変ですか?」
聖の問いに、レリーはにっこり笑って答える。
「ううん。ヒジリらしくて私は好きだよ」
「そっすか。なら良かったです。……まあ、アンデッドを感知する事も聖なる一撃も出来なかったんですけど」
結局ひたすら刀で斬り続け、何とか三体のアンデッドを倒した聖である。
「そんなもんだよ。そんなにすぐに出来るようになられたら、他のパラディンの立場がなくなるし」
あっけらかんと言ってのけるレリーに対し、聖は少し眉を顰めて控えめに抗議した。
「……出来ないと思ってたのにあの場へ送り込んだんですね?」
さっきまで戦っていた廃村の方を振り返る。ゴーストを倒しきれない状況でレイスに見つかった時には、死を覚悟したものである。
「私はすぐに出来たから、ヒジリも出来ると思ったんだけど」
不思議そうにつぶやくレリーを前に、聖は大袈裟にため息をついた。
「何で俺が出来ると思ったのか不思議で仕方ないんですけど」」
「んー、私の弟子だから?」
「……すいませんね。不肖の弟子で」
「だいじょぶ。鍛えてあげるから」
今や全く信用出来ないレリーのだいじょぶであるが、今はついていくしかない。
「ホント、お願いしますよ」
傷を癒してもらいながら、懇願するかのように呟く聖。
「任せて」
癒しの力を注ぎ終えたレリーは、そのまま軽く聖の肩をポンポンと叩く。そして村の方へと歩き出した。
「師匠?」
怪訝そうな聖の声を背に、レリーはどんどんと村の中へと進んでいく。
「傷は治ったけど吸われた生気までは回復しないから。今日はここで休んで行こ」
「ここでですか?」
マジかよと言った表情を浮かべた聖だったが、すぐに後を追った。今の今までアンデッドが闊歩していた場所で野営というのはなかなかにぞっとしないが、この場で一人になるのはもっとぞっとしない。
「もう何もいないよ」
警戒なのか恐怖なのか落ち着かない様子の聖を見たレリーがおかしそうに笑う。そう言われても、アンデッドを感じる事の出来ない聖にしてみれば簡単に安心出来るものではない。
「ここでいいかな」
レリーは比較的原形を保っている建物を見つけると、さっさと中に入ってしまった。
「うわぁ……」
レリーは知る由もないが、ゴーストが現れたのがまさにこの建物だったのだ。
「ヒジリ?」
建物の中からレリーが呼ぶ声がする。
「怪談だったら、呼んでるの師匠じゃなかったりするんだよな……」
一緒に入らなかったことを後悔しつつ、覚悟を決めて建物に足を踏み入れた。
小さなランタンが部屋の中央に置かれており、そこから仄かな明かりが隅々まで広がっている。そして、ランタンを挟むようにして寝袋が二つ置かれていた。
レリーは満足気に自分の仕事の成果を眺めている。その姿は間違いなく本人だ。
「どしたの?」
自分の顔を見てホッとした表情を浮かべた聖に、レリーが不思議そうに尋ねた。
「何でもないです」
ありもしない怪談話にビビったとは恥ずかしくて言えない。
「そ」
然程興味もなかったのか、レリーはそれ以上何も言わない。
「じゃ、寝よっか」
そう言って片方の寝袋に潜り込む。
「えっ?見張りとかは……」
レリーがランタンを指す。
「悪しき存在はこの光の中に入ってこれないし、アンデッドが出るような所に人は来ない」
「そういうもんですか」
「うん」
レリーが言うなら問題ないだろうと自分を納得させた聖は、自分の寝袋へと潜り込んだ。一日の疲れが一気に出たのか、すぐに眠気に襲われる。
それでも緊張と興奮からか眠ってしまうことが出来ず暫くうとうとしていると、ふと間近に人の気配を感じた気がした。夢うつつの状態で目を開けると、そこにはレリーの顔がある。
「師匠?」
聖が呼びかけるが、レリーは黙ったまま顔を近づけて来る。そのまま耳元に口を寄せてそっと囁いた。
「ね、ヒジリの精気、吸ってあげようか?」
そして、ふっと耳に息を吹きかける。
「さっきアンデッドに生気吸われて、今師匠に精気吸われたら、多分俺死にますよね」
ぼんやりしたまま聖が答える。
「……明日、後四体モンスターと戦わないとダメなんですよ。せめて生気だけでも回復させておかないと……」
もぞもぞと体を動かし、レリーの顔から耳を離す。
「ヒジリ、嘘でしょ……」
レリーは頬を膨らませて聖を見つめるが、聖は全く気付かない。
「……もう、いいっ!」
ふんっと顔を背け、自分の寝袋に戻る。聖はそんなレリーの姿を見ることなく、そのまま寝返りを打って背を向けてしまった。
「おやすみなさい」
そして今度こそ寝息を立て始める。
「……むぅ……」
振り返ってその寝姿を睨みつけるレリーだったが、聖が気付く訳がない。
「べーっだ」
せめてもの抵抗とばかりに可愛くむくれてみるが、誰に見られる訳でもない。虚しくなったレリーは、ため息をつき自分も眠りにつくのだった。




