ロード・オブ・ザ・パラディン 10
聖の予想通り、トロルとも早々に遭遇出来た。
「向こうも餌を探してるわけだし」
レリーが事も無げに言う。
「だからって、こんなに早く遭えるとは……」
素直に驚いている聖の目の前で、レリーは髪をかき上げて見せた。
「やはりモンスターも永遠の十七歳の魅力には抗えないという事」
「……それで話が早く進むならそれでいいです」
投げ遣りな聖の言葉に、レリーが少しムッとする。
「何?」
「いや、トロルって俺達を餌として見てるんですよね?」
「そだよ」
「……なら、師匠って相当熟成された肉扱いなんじゃ……」
聖の言葉に、レリーは無言で冷たい視線を浴びせかける。
「あ、その、すいません」
その圧に負けた聖が頭を下げると、レリーは呆れたようにため息をつきトロルを顎で指した。
「再生は対処するから、さっさと倒す」
「了解っす」
刀を構えつつトロルと対峙する聖。ミノタウロスよりかは人に近いが、その凶悪な外見はまだまだ怪物然としている。
自分を落ち着かせるように一度大きく息を吐き、刀を握る手に力を籠めた。
トロルは一声吠えると、牙を剥き出し聖に襲い掛かった。太い腕を振り回し爪で体を切り裂こうとしてくるが、聖はそれを易々と躱すと例のフォームでトロルの体に斬りつける。未だ切れ味が落ちる様子を見せない太郎坊兼光は、その体を綺麗に切り裂いた。トロルの絶叫が辺りに響き渡る。
「ホント、よく斬れる剣だね」
呑気にそう言ったレリーは、いつの間にか手にしていた小瓶を傷口めがけて放り投げた。
「?」
小瓶は狙いを違える事無くトロルの傷口に命中する。小瓶はその衝撃で砕け、中身の液体を傷口にぶちまけた。その瞬間、トロルの叫びが一際大きくなる。
「うわ……」
その様子を見ていた聖が言葉をなくす。液体のかかった傷口が醜く焼けていっているのだ。
「……それって……」
「酸。トロルにはよく効くよ」
確かにレリーの言う通りではあるが、敵の体とは言え目の前で肉が焼け爛れるのを見るのはきついものがあった。
「ヒジリが是非って言ったんだけど」
そう言われると返す言葉もない。敵の体を酸で焼こうが何をしようが、聖が勝つにはそれしかない。
「……是非」
覚悟を決め、改めてレリーにお願いする。
「うん」
レリーが頷くのを見た聖は、改めてトロルに斬りかかった。トロルも爪で反撃を試みるが虚しく空を切るばかりだ。
その間も聖は着実にトロルを切り裂き、レリーが傷口を焼く。こうなってしまってはトロルに為す術はなかった。
ほぼ何も出来ないまま、斬られ、焼かれたのだった。




