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ロード・オブ・ザ・パラディン 1

 クプヌヌ退治から帰ってきた翌日。

 例によって全身をマジックアイテムで飾り付けられた聖は、レリーに連れられて冒険者ギルドへとやって来ていた。


「依頼取ってくるから。そこで待ってて」


 レリーはそう言うと受付へと歩いていく。残された聖は、手近な椅子に腰掛けると興味深げに辺りを見回した。

 早い時間という事もあるのか、冒険者の姿はほとんどない。その僅かばかりの冒険者達も、ギルドの職員、或いは仲間内で話し込んでいて、聖に興味を払う様子はない。

 こうして座っていると一端の冒険者になった気分だな、等と考えながら異世界の雰囲気を堪能する。想像するだけだった世界を実際に体験できるというのは、やはり楽しい。

 ひとしきりギルドの空気を満喫した聖は、少し遅いなとばかりに受付の方へと目をやる。レリーは何やら真剣な表情で受付カウンターに広げられた数枚の紙に目を通している。これはまだ時間がかかりそうだと大きく伸びをした聖は、ふと自分に向けられた視線を感じた。

 首を傾げつつ、視線の持ち主を探して辺りを見回すと、レリーの相手をしている受付嬢と目が合った。慌ててレリーへと視線を戻した受付嬢だったが、聖を見つめていたその表情は誰が見ても分かる程、心配そうだ。


「えっ、ええっ……」


 その表情に不安を覚えた聖は、レリー達から視線を外すに外せなくなった。受付嬢は平静を装いつつレリーと話をしているが、レリーが紙を指差しながら何か言うたびに、知らず知らずのうちに聖へと視線を向けてしまっている。そしてその視線に含まれる心配の度合いは、加速度的に増していた。


「何が起きてるんだよ……」


 そうは言ってみたものの、聖に出来ることなど何もない。ただ、流れに身を任すしかない。

 やがて受付嬢の心配もピークに達しようかという頃になって、ようやくレリーも満足したのか選び抜いた紙の束をクルクルッと丸めた。


「ありがと、エルザ」


 そう言って受付嬢に手を振ったレリーは、軽やかな足取りで聖の元へ戻って来る。


「じゃ、いこっか」


 不安そうに自分を見る聖の肩をポンと叩いたレリーは、返事も待たずに出口へと向かった。慌てて後を追おうとした聖の背に、エルザの悲壮な声がかけられた。


「あ、あの……死なないで下さいねっ!」


 思わず出てしまったであろうエルザの悲痛な叫びに、ギルド中の好奇の視線が聖に集まる。だが、レリーの連れだと見てとるや否や、その視線は同情へと変化していった。


「死ぬとかそう言うレベルの話なんだな……」


 本当の死ではないとはいえ、死んでしまえば今回のこの世界の転生体験は終わってしまう。せっかくパラディンへの道筋が見えてきたのに、むざむざと終わる訳にはいかない。

 とりあえず、エルザには大丈夫だとアピールするかのように軽くガッツポーズを見せる。安心してもらえるとも思えないが、何もせずに出ていくわけにもいかないだろう。


「あの、本当に……」


 だが、そんな聖を見たエルザは言葉を続けることが出来ない。その姿に、聖はこの先待ち受ける運命の過酷さを感じずにはいられなかった。


「あ、えっと、頑張ります……」


 頑張ってどうこうなるレベルじゃないんだろうと思いつつも、そうエルザに声をかけた聖は小走りでレリーの後を追いギルドを出た。これ以上、エルザの哀し気な視線に耐えられそうにはない。


「おっ、やる気だね」


 魔法の馬を準備していたレリーが感心したように言う。状況を分かっていてからかわれている気もするが、違うと言える訳もない。


「それはもう、パラディンになる為ですしね」


 自分を奮い立たせるように強く言う。聖にしてもやる気がない訳ではない。ただ、ちゃんと段階を踏んで修行をしたいと言うだけだ。


「うんうん。その意気」


 レリーは満足そうに頷くと、少しだけ表情を引き締めた。


「ねえ、ヒジリ。今の君に足りないものって何だと思う?」


 唐突な質問に、京平は思わず普段の調子で答えてしまう。


「えーっと、男の魅力、ですかね」


 次の瞬間、音も無く抜き放たれたレリーの剣が聖の首筋に迫っていた。


「っ!」


 刹那の出来事に声を出すことも出来ずに固まる聖。


「君、ホントにヒジリ?」


 レリーの冷たい声に肝を冷やしながら、聖は刃に触れぬようゆっくりと頷いた。


「……そう。あまりにも下らないことを言うから、てっきりインキュバスにでも憑かれているのかと思った」


 サッと剣を引いたレリーはそのまま静かに鞘に納め、再び聖に尋ねた。


「それで、何が足りないと思う?」


 迂闊な答えを言う訳にはいかなくなった聖は、必死で頭を働かせる。

 今の自分は逆に足りている物があるのかというくらい、足りていないものばかりだ。それはレリーも承知の上だろう。だとすると、それをそのまま答えても正解とはならないに違いない。


「えっと……」


 それは間を繋ごうとした聖が思わず漏らした呟きだったが、レリーはきっちりと反応し先を促すように頷いた。猶予の無くなった聖は、必死で解答を絞り出す。

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