ゲーム・オブ・ストーンズ 5
「……野球に食いつくんだ……」
唖然とする穂波に、京平が渋い表情で頷いて見せた。話した本人にしてみても、何故あそこまで興味を持たれたのかは分かっていない
「一応、投げられる変化球は全部教えて来たんだけどさー。フォークとかあっさり投げられるようになるんだぜ、あの人達。自信無くすわー」
「……まあ、根本的に何かが違うんだろうな……仕方がないと言えば仕方がない」
聖の嘆きに京平も同調する。投手の二人、マリエラとティファナが戦う姿を間近で体験しているだけに、その言葉には実感がこもっていた。
「そうよな……そうでも思ってられないとやってられないよな……」
少なくとも野球と言う分野においては相当なレベルにいた聖をここまで凹ませるのだ。彼女達の身体能力、吸収力は相当の物と言えよう。
「そうは言うけどさ。その人達って、龍の巫女とかって呼ばれてる訳でしょ?じゃあ、その世界の英雄だったりするって事じゃないの?そりゃ、パンピーの私達とは出来が違うって話よ」
そんな男二人の余りの落ち込みっぷりに、穂波がフォローに入る。
「ゲームだってそうじゃん。英雄クラスのキャラで遊ぶ時は、普段よりも高い能力値で作るんだし」
「……まあ、そう言われるとそうだよな」
「確かに」
ゲームで例えられたなら納得するしかない。
「えっと……レリーさんだっけ?そんな凄い人が師匠になってくれた訳でしょ?それって、めっちゃラッキーな事じゃん」
良い事のように言う穂波を見た聖は、首を捻りつつ気を取り直すように数回頷いた。
「うんうん、そうだよな、うん、きっとそうだ……」
「何だか歯切れが悪いわね。その師匠と修行したんでしょ?どうだったのよ?」
続けて飛んできた穂波の質問に、聖はすぐにその表情を曇らせた。
「いや、それが……」
「……そういや、さっき気になる事を言ってたな……割と地獄のような日々を過ごしていたとかなんとか……」
京平の言葉に、聖は何かを訴えかけんばかりの勢いで京平の肩を掴んだ。
「そうなんだよ。あの人、絶対に頭おかしいって。マジで何回死ぬかと思ったか!」
「……修行、だったんだよね?」
聖の余りの必死さに少し引きながら穂波が訊く。
「いきなりモンスターの前に連れていかれて、さあタイマンで戦え、だぜ?どう考えたっておかしいだろ?」
「……ファンタジー世界でしょ?そんなもんじゃないの?」
穂波の感想は至極真っ当と言える。だが、レリー達を知っている京平には、何となくその酷い状況を思い浮かべる事が出来た。
「何と戦ったんだよ」
多少の同情を込めて京平が尋ねる。
「聞いてくれるか!聞くも涙、語るも涙な地獄の日々を!」
「ああ、うん……」
聖の勢いに若干引き気味の京平達だったが、話自体には興味がある。苦笑いを浮かべながら顔を見合わせた二人だったが、同時に頷き話を促す。
「そう。あれはクプヌヌを倒して街に帰った翌日……」
「待って!」
早速話し始めた聖だったが、すぐに穂波に止められた。
「何だよ」
いきなり話の腰を折られた聖は少し不服そうだが、穂波は気にしない。
「クプヌヌって何?」
「えっ?」
思わぬ質問に聖と京平が顔を見合わる。
「えっ?じゃないわよ」
続けて穂波が抗議の声を上げると、二人は揃って不思議そうな視線を穂波に向けた。
「だから何で『お前クプヌヌ知らないの?』みたいな顔で見られないといけないのよ」
「お前クプヌヌ知らないの?」
京平が乗ってくる。
「んー、寧ろどうして知ってると思ったか教えてくれる?」
「そりゃ、『おねリン』と言えばクプヌヌ、クプヌヌと言えば『おねリン』と言うくらいメジャーな存在だからな」
適当すぎる京平の答えに、穂波はわざとらしく大きなため息をついた。
「……少なくとも、日本風の世界にはいなかったんだけど?」
「それは引きの弱さ……」
聖が口を挟みかけるが、穂波に軽く睨まれてしまう。
「別にそのクプヌヌとやらに出会うのが目的じゃないんだからいいんだけどさ。何なのかくらいは教えてくれたっていいんじゃない?」
「何って言われるとなあ……」
今度は少し困ったように顔を見合わせる京平達。
「そうだなあ……強いて言えば、異世界の巨大な怪獣、かな」
「怪獣、ねぇ……」
決して納得した訳ではない表情を見せている穂波だったが、それ以上聞く気もなかったらしい。
「まあ、別に何でもいいけど」
「いいのかよ」
聖が小声で突っ込むが、やはり穂波は気にしない。
「それで?続きは?」
雑な感じで聖に続きを話すよう促す。
「あ、ああ。えっと、パラディンになる為の特訓という事で、師匠に連れられて冒険に出る事になったんだけどさ……」
気を取り直した聖は、遠い目をしつつ語り始めた。




