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ゲーム・オブ・ストーンズ 4

「ただいまっ」


 三十日に渡る異世界生活を終えた聖が戻ってきた。見慣れた社は健在だが近くに京平達の姿はなく、返事もない。


「あれ?どこかへ行っているのかな?」


 昼もとっくに過ぎている。二人がいつも通り転生していたとしても不思議ではない。


「神様も居ないのかよ……」


 京平達はともかく、神はダラダラとテレビを見ていてもよさそうなものだが、その姿もない。


「……参ったな……」


 勝手知ったる京平の家ではあるが、流石の聖でも家主がいない状況で好きに過ごすのは気が引ける。

 腕を組み、どうしたものかと思案していると、その耳に台所の方から微かな話し声が聞こえて来た。


「……なんだ。飯でも食ってるのか」


 そう呟きながら台所へ向かうと、そこにはカードゲームに興じる京平と穂波の姿があった。手番が回ってきているのか、穂波が厳しい眼差しで場と手札を見比べている。その姿は聖が声をかけるのを躊躇うほど真剣だ。

 聖が暫く黙って状況を見守っていると、やがて穂波は天を仰ぎ手札を纏めてテーブルに置いた。


「……ダメ。勝ち筋が見えない」


 そして、京平に向かって頭を下げる。


「参りました」


 京平もそれに応じるように頭を下げると、張り詰めていた二人の間の空気が緩んだ。


「いい線いってると思ったんだけどなぁ……どう?京平ならまだ攻めれる?」


 穂波が京平に手札を渡しアドバイスを乞う。


「うーん……一気に押して押し切れなかった感じだな……確かにこれだと厳しいな」


 今度は和やかな空気で感想戦が始まってしまい、またもや聖は声をかけるにかけられない。

 どうしたものかと辺りを見回していると、突っ伏すように床に倒れ伏している神が目に入った。生きているのか死んでいるのか、ピクリとも動かない。


「えっ?」


 驚いた聖が神に近寄ろうとすると、ようやく二人が聖の存在に気付いた。


「あれ?聖じゃん。いつの間に」

「いつの間にって、少し前から居たんだけど……」

「そうなの?……あっ、ホントだ。いつの間にかこんな時間」


 時計を確認した穂波が小さく驚く。


「久しぶりにがっつりゲームしたな」


 京平は大きく伸びをしながら呟く。


「……おっと、異世界帰りの俺には興味ない感じ?」


 軽く無視された感じの聖がおどけてみせる。少しばかり間が悪かったとは思うが、還ってくるタイミングはどうしようもない。


「ごめんごめん。お帰り、お疲れ様。何か飲む?」


 穂波は謝りつつ席を立つと、冷蔵庫へと向かう。


「……お疲れ。で、どうだった?」


 京平は脇に積んでいたプレイ済みゲームを除け、聖が座れるスペースを作りながら尋ねた。


「んー、一言ではなかなか……」


 聖が空いたスペースに座る。もうすっかり神の存在など忘れたかのようだ。


「……痩せた?」


 人数分の缶コーヒーを取ってきた穂波がそれぞれに配りつつ訊いた。その言葉に、京平もまじまじと聖を見つめる。


「と言うか、やつれたんじゃないか?」

「そこは精悍になったとかで良くね?」

「それはどうかなー」


 聖の言葉に京平達は顔を見合わせ首を傾げる。


「マジかー。割と地獄のような日々を過ごしてきたつもりなんだけどなー」


 聖が嘆くが、穂波に感想を取り下げる気はない。


「だって、聖って元々筋肉質じゃん。引退と同時にスパッと運動やめた京平と違って、今でもランニングとか軽くトレーニングは続けてるしさ」

「悪かったな」


 思わぬ流れ弾に京平が顔を顰めると、穂波は追い討ちをかけた。


「完全インドア派が良く三年間続いたもんだと、感心してるのよ」


 それもこれもユキの言葉の力、と沸きあがりかける感情を笑って押し殺す。


「一生分の野球、と言うか運動をやった訳だしな」


 京平がボヤくと、聖がそれに反応した。


「そうだ!野球と言えばさ……」


 不思議そうに言葉を紡ぐ聖の姿に、思い当たる節がある京平がさっと目を逸らす。


「あの人達、何で野球やってんの?」

「あの人達?」


 状況が分からない穂波の質問に、聖が頷きながら答えた。


「ああ。向こうの世界で龍の巫女って呼ばれる人達にお世話になったんだけどさ」

「何それ厨二、素敵」


 龍の巫女と聞いて素敵と言えてしまう穂波の感性は、京平達にすっかり染まっていると言っていいだろう。


「その中の一人、レリーさんっていうパラディンが俺のお師匠で、修行と言う名の冒険に出てたのよ」

「うんうん、それで」


 詳しい話を聞かされていない穂波は、興味津々とばかりに身を乗り出してくる。


「で、その冒険から帰ってきたらさ、何故だか残りの人達で野球やってんの」


 そう言った聖は、今思い出しても腑に落ちないと言った表情をしていた。


「なんかもう、ピッチャーの人はえげつないカーブとか投げてるんだけどさ……更に変化球を教えてくれって言われたりする訳」


 京平の示唆の賜物だが、当の本人はおくびにも出す様子はない。


「気が付けばお師匠も一緒になってバット振ってるし……最後の一週間はパラディンの特訓なのか野球の特訓なのか、よく分からない状況だった」

「そうか」


 白を切り通したい京平だったが、流石に聖が相手とは言えそれは難しい。


「で、何で?」


 重ねて尋ねられ、やむを得ず事の顛末を話す。

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