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ゲーム・オブ・ストーンズ 3

「……で、今日はどうするんだっけ……」


 その様子を見た穂波が疲れ切った声で京平に尋ねた。自分の事とは言え、朝からこうも感情の起伏が激しくなると精も魂も尽きようと言うものである。


「とりあえず、聖が還ってくるのを待とうかと。なんせ初めての体験延長だからな。手応えとか聞いてみたい」

「そっか。まあ、確かに手応えは気になるよね」


 もし仮に聖がパラディンになれそうであれば、ゴールは一気に近付くに違いない。


「じゃあさ、それまでどうする?」


 時計を見つつ穂波が訊く。予定の時刻までは、まだ時間がある。


「久しぶりにボドゲでもする?」


 色々とゲームを買い込んでいる京平だが、未プレイで放置されている物も多い事は穂波も知っている。


「いいね。確か、最近買ったやつの中に二人用のゲームが……」


 そう言って自室へ向かおうとした京平の背に向かって、神がわざとらしく咳払いをした。


「あっ、私あれがいい。前にやった……」


 それを無視した穂波が京平に話しかけると、神はその声をかき消さんばかりの音量で再度咳払いをする。


「もう!何よ!言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ!」


 無視を決め込みたかった穂波だったが、苛立ちのあまりつい反応してしまう。そんな穂波に対し、神は殊更自分をアピールするかのように胸を張ってみせた。


「何故、二人で遊ぶ前提なのです?ここに第三の神がいるじゃないですか!ゲームをするなら二人より三人!ここ、テストに出ますからしっかり覚えておくように」

「別に二人用にデザインされたゲームなら、二人で十分面白いんだが」


 冷たくあしらわれかけた神は、慌てて京平の脚に縋りついた。


「そんなこと言わないでー、一緒にー、遊んでー、くださいよー」

「やめろ、鬱陶しい」


 京平は神を振り払おうとしつつ、助けを求めるように穂波を見る。


「えーっ……」


 その穂波は嫌そうな表情を隠そうともしていない。事あるごとに京平との間に割って入ってくるのだから、当然と言えば当然だろう。わざとやっているんじゃないかと疑いたくなるくらい、空気が読めていない。


「ふふふ。さては、お二人ともわたくしの腕を恐れているのですね?わたくしには敵わない、と。まあ、そう言う事でしたら、仕方ありませんねぇ」

「はっ?何で私が……」


 反射的に言い返しかけた穂波だったが、すぐに神の意図に気付き冷静さを取り戻す。


「危ない、危ない。何とでも言えばいいわ。あんたなんかにどう思われても平気だし」


 ひきつった笑顔はどう見ても平気ではなさそうだが、挑発には耐えた。神は小さく舌打ちすると、京平に狙いを変える。


「まあ、四国無双のチュートリアルすらクリア出来ないようではねぇ……他のゲームでも推して知るべしって所でしょうか」


 明らかにイラっとした京平だったが、その事に気付いたのは穂波だけだ。神は構わずベラベラ喋り続けている。


「それもむべなるかな。わたくしと京平さんではレベルが違いますからね、レベルが」


 何をどうすればそれだけの自信を持てるのか二人が悩むほどの自信を見せる神。それでも、二人は冷静に神の独白を聞き流している。


「……では、こうしましょう。わたくしはお得石を賭けますっ!」

「石!?」


 だが、焦った神が石と言う単語を口走ると、揃って即座に反応した。


「えっ?石には食いつくんですか……」


 自分で言っておきながら二人の様子に眉を顰める神だったが、今や二人は逆の意味で話を聞いていない。


「お得石って事は購入レートが良くなるって事よね?」


 穂波の身も蓋もない言い方に、神はため息をついた。


「ええ、ええ。分かりやすく言えばそうです」

「分かりにくく言ってもそうだろう」


 京平が突っ込むが、神は神で勝手に喋っている。


「穂波さん達は何も賭けなくても結構ですよ。どうせ、わたくしの全勝で終わるに決まっていますからね」

「いいわ、やってあげる」


 あっさり態度を変えた穂波に、神だけでなく京平も苦笑した。


「いいのかよ、そんなあっさり決めて」

「いいじゃない。こっちは何も賭けなくてもいいんでしょ?」


 その問いかけに、神は自信満々の様子で頷く。


「じゃあ、ノーリスクでお得石吐き出させることが出来る訳よ。乗らない理由がないじゃない」

「それはそうなんだが……」

「だいたい、こっちは既に毎朝毎朝、心を殺してログインしている訳よ。さらに数時間、心を殺して遊ぶなんてこと造作もないわ」


 そう言いつつ遠くを見つめる穂波。


「カッコつけてるところ申し訳ありませんが、せめてそこは参拝と言っていただけませんかね」


 ため息交じりの神のお願いに、穂波は満面の笑みで答えた。


「ロ・グ・イ・ン」

「……」

「L・O・G……I・N!ログイン!」


 この追い討ちには流石の神も少しムッとした表情を見せた。穂波にすれば少し前にやられた事をやり返しただけに過ぎないのだが、神の方はすっかり棚に上げて忘れてしまっているようだ。


「……分かりました。やはりお二人にも賭けてもらいます。私が勝ったら、ログインではなく正確に参拝と言ってください」

「は?そんな後から条件の変更なんて……」

「その代わり、こちらも石のお得度をアップいたします」

「なら、おっけー」


 文句を言いかけていた穂波だったが、神の一言で即座に掌を返す。その鮮やかなまでの変わり身の早さは見事と言うしかない。


「いいんだ……」


 京平の呟きは、呆れているようにも感心しているようにも聞こえた。


「いいじゃない。さっきも言ったように、毎朝心を殺してログインしているのよ。仮に負けたって、さらに心を殺して参拝って言い換えるだけ。ほぼノーリスクでお得石吐き出させることが出来る訳よ。乗らない理由がないわ」

「心を殺しすぎて、大事な人の心を失ってい……」


 余計な一言を口にしかけた神だったが、穂波に冷たい視線を浴びせられ言い切る事は出来なかった。


「何か言った?」


 神は無言で首を横に振る。


「そう。じゃ、始めましょうか」


 京平が持ってきたボードゲームを広げながら、穂波が不敵に笑う。


「吠え面かかせてあげるから」

「それはこちらの台詞ですよ」


 神は立ち上がると穂波の正面に陣取り、その視線を真っ向から受け止める。

 石とプライドを賭けた戦いが、今まさに始まろうとしていた。

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