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限りなく水に近いポーション 7

「やっぱりな」


 京平が開いたSNSの画面には、穂波の推しキャラが手でバッテンを作るスタンプが表示されていた。


「何がです?」


 目の前で正座している神が訊いてくるが、勿論答える気はない。


「いやまあ、別に構いませんけどね。しかし、帰ってきて早々に正座させられている理由くらいは教えてもらいたいのですが」

「……その、帰ってきてってのが良くないってのが分からないのかよ」


 ため息をつきながら言う京平に、神は心から不思議そうに訊き返す。


「そうは仰いますがね、わたくしの社はここにあるんですよ?帰ってくるに決まっているではないですか?」

「帰ってくること自体には何も言ってねえよ。いや、本当は言いたいけどな。とにかく、何で帰ってくることになってるのかって事が問題な訳よ」

「それは、出かけたからに決まっているじゃないですか」


 胸を張って言う神に、言葉にし難い怒りが湧く京平だったが、グッと飲み込み冷静な口調でさらに尋ねた。


「だから、何で出かけてるのかって訊いてるんだよ。いや、それも大体わかるけどな」


 京平の視線の先には食料品が詰まった買い物袋があった。近くのスーパーの物だ。


「何でって、特売があったからですけれど……何か問題でも?」


 やれやれとばかりに肩を竦め首を振ってみせる神に、さっきより大きなため息をつく羽目になる京平。


「まあ、一万歩くらい譲って出かけるのはいいとしよう。出かける時は鍵かけろ」

「そこはご心配なく。ここに我が社があるという事は、謂わばここは神域。神の力によって守られていると言っても過言ではないのです。鍵など掛けなくても安心、安全、健全、堅実!」

「……お社があれば神域なのかよ」

「当たり前ではないですか!神が住まう地、それ即ち神域!」


 自分に酔っているのか、神は自分に向けられている京平の目が完全に死んだ魚のようになっている事に気付かない。


「神域なら、安心、安全、健全、堅実な訳か」

「それはもう、神の力によって守られている訳ですからね!」

「なら一つ訊きたいんだけどさ……」


 当然、京平の声音に不穏な響きが混ざった事にも気づかない。


「何故、世の中に賽銭泥棒なんてのが存在出来るんだ?」

「それは勿論……」


 何事か言いかけた神だったが、危うく危険なワードを口にしかけていたことに気付き、慌てて口を噤む。


「なあなあ、教えてくれよ。なんで賽銭泥棒に入られる神社があるんだよ」

「……それは……」


 神の額に冷や汗が流れる。事態を打開する方法が全く思いつかない。


「なあ、どうなんだよ」


 当然その事に気付いている京平は、ここぞとばかりに詰めてくる。


「ま、まあ、それはいいじゃないですか。そんな事より合鍵下さい、合鍵。そうすれば鍵を閉めて出かけることが出来て、安心、安全、健全、堅実!」


 結局最後まで何も思いつかなかった神は、諦めて強引に話題を変えようとした。


「は?合鍵持たす方が不安、危険、不健全、無謀だろうが。誰が渡……」


 反射的に拒否しかけた京平だったが、何か思いついたのか急に言葉を切る。


「分かった。渡してもいい」

「何と!本当ですか!」


 小躍りせんばかりに喜ぶ神。そんな神に京平は冷たく付け加える。


「一万転生石な」

「はい?」

「一万転生石だって言ってんだよ」

「えっ?いやいやいや、何の石なんですか!」


 正座したまま器用に全身で抗議の意思を示す神に対し、京平はあっさりと言い放つ。


「デポジットだよ、デポジット。赤の他人に合鍵渡すんだ。一万でも安い位だろうが」

「いやいや、わたくしと京平さんの仲じゃないですか。そこは一つ何とか……」


 揉み手をせんばかりの神だが、京平は相手にしない。


「どんな仲だよ。とにかくデポジット一万転生石で貸してやるって言ってるんだ。勿論、紛失した場合は、別途交換手数料が発生するからな」


 事務的に告げる京平を恨みがましく見る神だったが、そんな視線でひるむ京平ではない。


「……わたくしは別に鍵を掛けなくても……」

「今度は閉め出すぞ」


 なおも小声で文句を言い続けていた神だったが、脅されては黙るしかない。


「……分かりました、分かりましたよ。一万ですね一万。デポジットなんですから、返却の際にはそちらも石をちゃんと返してくださいよ」

「毎度あり。勿論、何なら今すぐにでも返却してくれたっていいんだぜ」

「いや、流石にそれは意味ないでしょ……」


 京平から鍵を受け取った神は、ウキウキしながらキーホルダー代わりの勾玉を付けたのだった。

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