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あやしい神ほどよく喋る 8

「マジか」

「ノリノリかよ」


 二人とも驚きを隠せない。


「そうですね。ノリノリ、と言うよりかは、ヤケクソ、と言う感じですけどね」


 穂波の様子を見ている神が教えてくれる。


「はい、はい。えーっと、OKです。はい、承りました」


 どうやら穂波は次の行動へ移ったらしい。


「はい、どんどん。はい、じゃんじゃん」


 穂波はヤケクソかもしれないが、神はノリノリのようだ。


「なに、その椀子蕎麦な台詞」


 調子に乗った神から不穏な空気を感じる京平。


「はい、どんどん。はい、じゃんじゃん」


 神は構わず掛け声を掛け続けている。


「だから、何を延々と供給してるんだよ」


 京平が言葉を続けると、ようやく神が答えを返した。


「えっ?ああ、穂波さんがイタ飯屋でワインをどんどん頼まれてるだけですよ」

「それが何で椀子蕎麦的なノリに繋がるんだ?」


 聖のもっともな質問に、神は何でもない事のように答えた。


「それは、注文されたワインの価格分の現地通貨をお財布に補充させていただいてるんです」


 そう言いつつ悪い笑顔を浮かべる神。


「なん……だと……」


 京平は嫌な予感に身を震わせる。


「ちょっと確認したいことがあるんだけど、いいかな?」

「何ですか?あ、はい、どんどん」


 神が京平に返事する間も、穂波はワインを飲み続けているようだ。


「その現地通貨は、どこから出てる?」


 神は無言で手元の手帳を京平に見せる。そこには聖が詫び石として獲得した転生石の残高が記されていた。既に半分にまで目減りしている。


「おい、勝手に使うなよ。普通、そういうのは別会計だろ!」


 京平の抗議に、神は心外だという表情で答えた。


「こちらとしては別会計でも構いませんけど。御友人でしたら、石とプレゼントボックスに関しては共有の方が宜しいんじゃないですか?」


 その点は神の言う通りである。目的を同じにするなら、わざわざ分けるメリットはない。だが……


「何の説明もせず穂波を転生させた弊害がこんなところに……」


 面白そうという思い付きだけで穂波を転生させた事を後悔する京平。


「石の説明とかした?」

「一応、『おねリン』については一通り説明させていただいていますよ。ずっと文句言われる中のご説明でしたので、理解いただいているかは分かりませんが」


 聖の質問にとぼけた返事を返す神。


「悪徳業者の手口じゃねぇか」


 京平の非難にも、神は悪びれる様子を見せない。


「引き金引いたのは京平さんでしょ」

「あんたもノリノリでレッツ!異世界ガチャって言ってだろうが。どうでもいいから、穂波止めろよ」

「こんなもん素面でやってられる訳ないでしょ、ばかぁ、だそうです」


 止める気もなさそうな神から伝えられた穂波の言葉に、京平は頭を抱えた。


「ダメだ、これはもう止まらねぇ……」


 穂波が呑み始めたら底なしな事は二人ともよく知っていた。最早、神が掛け声をかけ続けるのを呆然と見ているしか出来ない。


「おめでとうございます!新感覚スイーツを味……えっ?いや、そんな事を言われましても……」


 やがて二つ目のクエストクリアを報告しかけた神だったが、何か穂波に言われたのか困惑している。


「どうした?」

「単なるティラミスじゃないかって、激しい抗議を受けています」


 その言葉に、聖達は穂波の転生した先を確信した。


「バブルだ」

「バブルだな」


 この世界のバブルは五年程で弾けた。穂波の転生した先の世界はどうなるのだろう。思わず現実逃避的にそんな事を考えてしまう京平。バブルが永遠に続く世界など存在できるのだろうか。


「一度経験してみたい気もするんだよな、バブル」

「気持ちは分からんでもないけどな。ただ、その為に体験回数一回消費するのもどうかと思うぞ」


 京平に言われた聖は確かに、とばかりに頷く。あくまで高坂を助ける為の異世界転生だ。


「後はお立ち台か。松永、それもやるのかな」

「……わざわざボディコン着たんだろ。じゃあ、やるんじゃないか」


 京平はどこか不機嫌そうに言う。


「そもそも、俺達がボディコンだと思い込んでるだけで、実は違うかもしれないじゃん」

「いや、ボディコンですよ」


 聖の言葉をあっさり否定する神。


「……こいつが見てるってのも何か不愉快だな」

「そうは言われましても、それが仕事ですし。それとも仕事放棄しても構いませんか?」


 京平が無言でテレビをつける。


「こっち見とけって事ですか?」


 無言でリモコンを渡された神は、ブツブツ文句を言いながらも、好みの番組を探し始めた。


「京平さんが見ろって仰ったも同然ですからね。仕事放棄じゃありませんよ」


 そんな二人のやり取りを聖は興味深げに見ている。


「何だよ」


 その視線に気づいた京平が不機嫌そうなまま訊いた。


「いや、別に。ちょっと意外だなって思っただけ」


 聖もそれ以上は何も言わなかった。

 しばらく部屋にはテレビの音だけが空しく流れていたが、やがて神がアッと声を上げた。


「おめでとう!お立ち台に立て、クリア!高級国産車ゲット」


 慌ててクエストクリアを告げる。テレビを見て反応が遅れたらしい。


「はいはい、すいませんすいません」


 恐らくその事について穂波に文句を言われているのだろう。適当に謝っている。


「……なんやかんやで全部クリアしたな」

「本格的に還ってきた時が怖いな」


 ワインをがぶ飲みせざるを得ない程、慣れないボディコンに恥ずかしがっていたのだ。還ってきた途端、その矛先はこっちに向くだろう事は疑いようがない。


「その時は神様に正座してもらおう」

「えっ?わたくしですか?いやいや、普通に考えて騙し討ちにした京平さんが一番悪いと思いますけど」


 聖の提案を一蹴する神。


「だから、あんたもノリノリで穂波を転生させただろうが。同罪だよ同罪」

「京平さん、今、同罪と言いましたね。同罪という事は自らの罪を認めたって事ですよ」


 指を左右に振りながら妙に勝ち誇る神に、京平が食い下がっていき、低レベルな言い争いが始まる。

 聖はただ呆れたようにその様子を見ていた。よくもまあ、毎度毎度言い争えるものだと、ある意味感心する。

 暫く言い争いを続けていた二人だったが、突然神が右手で京平を制した。


「あ、はい。了解です。穂波さんが戻るそうです」


 神がそう言うや否や、穂波が帰還した。

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