限りなく水に近いポーション 3
病院への道すがら商店街の和菓子屋に寄った穂波は、結希子の好物である桜餅を買い求めた。
結希子ちゃんによろしく、という馴染みの店主の言葉に笑顔で応えると店を後にする。
「はぁ……」
大きなため息を吐いた穂波が空を見上げる。夏の日はまだ高い。
「はぁ……」
もう一度ため息を吐く穂波。
脳裏を過るのは異世界で見た結希子の姿だ。勿論、結希子本人でない事は分かっているが、いざ一人で会うとなったら、やはり気が重い。
自分の心の弱さは自覚している。自覚しているからこそ、まざまざと見せつけられると心に堪えるのだ。
「……ダメダメだな……私……」
力なく笑う。そして今日もまた、京平が結希子と話をする姿を見ずに済んだ事にホッとしてしまったのだ。
「うー」
頭を抱えた穂波は、ぐちゃぐちゃになりそうな頭の中を何とか整理しようとする。とにかく、今やらなければならないのはポーションの効果を確認することだろう。
「……行くしかないよね」
軽く頬を叩いて気合を入れる。悩んでいたところで始まらない。これは自分の問題。自分の中で折り合いをつければいいだけの話だ。
気持ちも新たに病院へと歩き出す穂波。だが、すぐにその歩みを止めてしまった。
「花っ!花もいるよね、お見舞いなんだから」
そう言い訳がましく独り言ちた穂波は、商店街の花屋に駆け込む。
その後も小一時間程、商店街でウロウロと買い物を続けた穂波は、いつしか両手に大量の買い物袋を下げていた。
「……そりゃ、こうなるよね……」
改めて自分の姿を見直した穂波は、呆れた笑みを浮かべながら呟く。
「さて、そろそろホントに行かないと……」
いい加減言い訳のネタも尽きたし、何より余り遅くなると面会時間が終わってしまう。
「……はぁ……よしっ」
一度大きく息を吐いてから気合を入れ直した穂波は、今度こそ病院へと歩いていくのだった。




