限りなく水に近いポーション 2
「ところで、神は?」
少しでもいい雰囲気と油断しようものなら、全てをぶち壊す勢いで入ってくる神に台無しにされてきた穂波である。姿が見えなくとも油断は出来ない。
「俺の方が後に還ってきたんだぜ。知る訳ないだろ」
そう言いつつ、辺りを見回して神の不在を確認する京平。
「マジで居ないな」
そう呟くと、他の部屋にでもいるのかと様子を見に行く。程なくして、玄関からうんざりした声が聞こえてきた。
「……鍵開けっ放しで何処か行ってやがる……」
「えっ?そうなの?」
穂波の問いかけに乱暴な施錠の音で返事をした京平は、渋い表情を見せながら戻って来た。
「ったく、不用心にも程がある」
「神の御加護的な何かで守られたりしてるんじゃない?」
穂波が無責任に笑って言うが、京平の表情は渋いままだ。
「いや、あいつにそんな力は無いだろ」
そう言いつつリビングを埋めつくす社へと目を向ける。
「ただまあ、この状況を目にしたら大体の人間は引くだろうしな……そういう意味では御加護とも言えるか……」
確かにリビングを埋め尽くすように鎮座する神社は泥棒除けになるかもしれない。
「かもね」
完全に他人事の穂波はおかしそうに笑っている。
「……しかし、どうするかなぁ……」
手の中の小袋に目を向けた京平が呟く。すぐにでもポーションの効果を確認したいところではあるが、神を締め出してしまうのも具合がよくない。
「どうかした?」
何かに悩み続ける京平に、穂波が尋ねる。
「いや、実はな……」
京平そう言いつつ袋から小瓶を取り出すと、ジェノとのやり取りを説明した。
「へぇ……いいじゃん」
京平から小瓶を一本受け取った穂波は、興味津々と言った様子で光に翳して見たりしている。
「効くかな?」
何気ない感じを装った穂波の言葉だったが、当の本人は祈るような面持ちで小瓶を見つめていた。
「……どうだろうな」
神の言う通りならば、この世界の理に反したアイテムである。効かないと考えるのが妥当だろう。それでも返事を濁したのは、効いて欲しいという京平の願望の表れだった。
「……試してみるしかないよね。流石に毒になるって事はないでしょ」
そんな京平の思いを感じ取ったのか、穂波が小さく笑って言った。
「だな」
京平は頷きつつ、残りの二本も穂波に手渡す。
「えっ?京平は行かないの?」
がっかりしたような、それでいてどこかホッとしたような、複雑な気持ちを垣間見せた穂波だったが、京平は気付かない。
「いや、出かけてる最中に神が帰ってきた時の事を考えるとな……」
「そんなの、閉め出しちゃえばいいじゃん」
あっさり言い放つ穂波に、京平は苦笑しながら流鏑馬の日の出来事を説明した。
「またアレに玄関前で長時間座り込まれてみろ。今度こそご近所さんに何か言われるに決まってる」
「あー……うん」
穂波が虚ろな表情で頷く。自分もファーストコンタクトでは通報寸前までいっているだけに、京平の危惧する気持ちはよく分かった。
「かと言って開けっ放しで出かける訳にもいかないだろ?」
「まあ、そうよね」
そう言う事であれば一人で行くしかないだろう。
「おっけー、分かった。じゃ、行ってくる」
自分自身を納得させるように一度大きく頷いた穂波は、そう言うと勢い良く立ち上がった。
「悪いな」
「別にいいって。京平が悪い訳じゃないし。ま、明日会った時には正座させてやるわよ」
そう笑った穂波は、大事そうに小瓶をしまうと玄関へと向かう。
「……結果出たら連絡するね」
「おう、頼む」
「うん」
穂波は軽く手を振ると、京平の家を後にした。




