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要塞研究所 9

「ハハハ。まあ、それは否定しないよ。何せ十年ぶりの会敵だ。出来る事なら尻尾を掴んでやりたいからね。だが、今回に限って言えばそれは些末な事さ。今回、一番大事なのはワタシがカノジョに嫌われない事だよ」


 そう言って穂波を指差す。


「へ?私?」


 今度は穂波が目を丸くして自分を指差す。


「そうさ。仮に、ここでワタシがDr.を突き放すような選択をすれば、キミはワタシにいい感情を抱かないだろう?」

「それは、まあ、うん」

「それでは面白くない。折角の異界からの友人、末永く仲良くしたいからね」


 そう言った時のメアリーの笑顔を見た穂波は、きっと実験動物にしか見えてないに違いない、と思い苦笑いを浮かべた。とは言え、メアリーと仲良くすることに異存はない。


「そう言う事か……それなら、こう言う筋書きでお願いしたい」


 状況を把握したDr.は少し考え込み、そして覚悟を決めた表情を見せた。


「私は無事に生き延びて帰り、そして中央の病院に復帰する」


 ジッとメアリーの目を見据える。その予想外の言葉にすぐに内容を把握しきれなかったメアリーだったが、すぐに理解するとおかしそうに笑いだした。


「なるほど、なるほど。そう来たか!」


 挑戦的にDr.を見つめ返す。


「無理だろうか?」


 メアリーの視線を真っ向から受け止めたDr.は、穏やかな口調で尋ねた。


「ククク。誰に物を言っている。その程度の事、ワタシにとっては造作もないよ。いいだろう。その案に乗ってやる。キサマを中央に返し、きっちり守り切ってやるさ」

「よろしく頼む」


 Dr.が深々と頭を下げる。それを見たメアリーは面倒くさそうに頭を掻いた。


「しかし、それにしてもこう来るとはな……これだから人間と言うのは……」


 ぶつぶつと呟きながら宙を睨む。頭を上げたDr.は、穂波へと向き直った。


「……叶うとは限らないが。これからは力の限り努力すると、君に約束しよう」

「えっ?でも、危ないんじゃ……」


 心配そうな穂波に、Dr.は穏やかな笑顔を向ける。


「元々私がやらなければならない事さ。それに、君達に助けられた命だ。せめて君の思いに応えないといけないだろう?」

「でも……」


 なおも言い募ろうとする穂波を、Dr.が軽く手で制した。


「君の仲間が守ってくれるというのだ。大丈夫だろう」

「そっか、そうですよね」


 穂波は宙を睨んだままのメアリーに目をやり、小さく笑った。人となりはともかく、その力は本物だ。


「まあ、雑な感じがするのはご愛嬌よね」


 そして、Dr.に対し頭を下げる。


「よろしくお願いします」

「頭を上げてくれ。頭を下げないといけないのは私の方だ。君が来なければ、きっと私は……」


 そう言ってDr.は穂波の両手を取った。


「本当にありがとう」

「いえ、その、頑張ってください」

「ああ、何せ一度死んだようなものだからね。怖いものなんかないよ」


 そう言って笑顔を見せたDr.の姿に、穂波はホッとした。この人なら、きっといつか本当に治療法を見つけるに違いない。

 そんな和やかな空気を打ち破るように、誰かが走ってくる足音が聞こえてくる。ボリスだ。


「くそっ、人使いが荒すぎんだろうがよ」


 そう毒づきながら持ってきた警官の制服をメアリーに投げつけた。


「お使いは犬の本分でしょ?」

「犬じゃねぇってんだろうが」


 そしてからかってくるヴィルには、息を切らしながらもきっちり答える。


「結局使うんなら最初っから持って行けよ」


 メアリーにはそう毒づくが、相手にされない。


「仕方ないだろう。勝手に筋書きを変える人間共に言ってくれ」


 そう穂波達に向け文句を言うメアリーだったが、その姿はどこか楽しそうだ。


「で、嬢ちゃんの目的は果たせたのかよ」


 座り込みながら聞いたボリスに穂波は黙って首を横に振った。


「そうか、それは……」

「大丈夫。心配しないで」


 言葉に詰まるボリスに、穂波は穏やかな笑顔を向けた。そんな穂波に寄り添うようにヴィルが立つ。


「それで、貴方はどうするの?もう、ここに用は無いのでしょう?」


 穂波はそう言ったヴィルの表情をそっと窺ったが、心の内は読み取れなかった。だが、その声が少し寂しそうだと感じるのは自分の思い上がりだろうか。


「うん、まあ、そうなんだけど。でも、後一週間くらいはここに居れるんだよね」

「そうなの?」

「うん。だから、ギリギリまで観光でもしていこうかなって」

「……いいんじゃない?」


 そっけなく答えたヴィルだったが、その声には隠し切れない嬉しさが混ざっていた。


「うん」

「なら、これを返しておこう。いざと言う時に連絡手段があった方がいいだろう」


 いつの間にか制服に着替えたメアリーが穂波のスマホを投げて返す。


「えっ?でも……」


 戸惑いながら画面に目をやると、確かに圏外の文字は消えてアンテナが立っていた。


「嘘……」


 呆然と呟く穂波。ヴィルは呆れ顔でメアリーを見た。


「また勝手な事を……」

「いいじゃないか。元の機能は何も損なってはいない。ただこの世界でも使えるスマホになったというだけさ。謂わば、スマホの進化だね」

「……壊れてないなら、それでいいです」


 この世界でも使えるだけ、ならいいんだけどと心の中で呟く穂波。もっとも、自分が迂闊にもスマホを渡してしまったのが発端だけに強くは言えない。

 そんな思いが顔に出てしまっていたのだろう。メアリーが弁解するかのように付け加える。


「さっきも言ったじゃないか。キミに嫌われるのは本意でないと。そんなちっぽけな小物一つの改造で嫌われてしまっては元も子もない。そこは信用してくれたまえ」

「まあ、そう言う事にしておきます」

「ああ、ワタシ達の連絡先は登録しておいたから、必要とあらばかけてくるといい」

「……ありがと」


 色々と納得いかない事はあるが、言っても仕方がないと諦めた穂波は渋い表情のままスマホをしまう。


「さて、それでは、ワタシ達は行くとするか」

「まだ何かあるのかよ」


 声を掛けられたボリスだったが、すぐには動こうとしない。


「Dr.を連れて帰れるのは警官だけだからな」

「お前がやればいいじゃないか」

「現場にいたのはキミだよ」

「ちっ」


 舌打ちしつつ立ち上がる。


「で、どうすればいいんだ?」

「差し当たっては、Dr.を連れて帰る。後の事は道中説明してやる」


 そう言うと、メアリー達はDr.を伴い歩き出す。


「ちゃんと考えてるのかよ」

「当り前だよ、ワタシを誰だと思ってる」

「さっきだって適当だったろうがよ」


 言い争いをやめようとしない二人の後ろを、呆れた様子のDr.がついていく。

 そんな三人を見送ったヴィルが穂波に声を掛けた。


「じゃあ、どこへ行く?」

「どこでも!姉さんのおススメの場所がいい!」

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