あやしい神ほどよく喋る 7
「……願いを込めてどころか、転生する側が異世界ガチャって言う必要すらないんだな……」
訳も分からず動揺するだけの穂波はお決まりの台詞もポーズもなく、三人の掛け声、と言うか神の一声で無事にどこかへと転生していった。
自分達も異世界ガチャだの異世界アベックガチャだの、神に合わせて掛け声を掛ける必要などなかったに違いない。それを非難される筋合い等なかったはずだ。
当て擦りのような京平のその台詞だったが、神に完全に無視されてしまう。
「でも、勝手に転生させて良かったのか?」
京平のアイデアに乗ったものの、心配そうな様子を見せる聖。
「実際行ってみないと信じられないって。俺なんて二回行っても信じてなかったからな。百聞は一見に如かず、論より証拠、虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ」
「虎穴だった場合、還ってきた時が地獄だな」
自分達のチュートリアルを思い出す。虎穴か虎穴でないかで言えば完全に虎穴だったし、残念な事に虎児は一切得れていない。
「その時はまた正座しよう」
軽く言う京平に、神は本気で嫌がった。
「やめてください。聖さん達が還ってくるまで、ずっと正座させられてたんですよ」
「どうせ昨日みたいに下らない事ばっかり言ってたんだろ」
「心外ですね。まあ、いつも通りやらせていただいた事は否めませんが」
「そこは否めよ」
京平のツッコミを無視して話を続ける神。
「『おねリン』のご説明をしようと思っただけなんですけどねぇ。神、とか、異世界、とか、転生、とかいう度に文句言われるんですよ。何なんです、あの人」
憤慨して見せる神。いつもの調子で説明しようとしていたのだったら、穂波がイライラするのも理解できる。
「穂波の反応の方が普通だぞ」
「えっ?聖さん達が割とすぐに乗ってきたので、大丈夫なものかと思ってましたよ」
そう言うとメモ帳に何やら書き留めている。
「普通はなかなか『おねリン』を信用しないので要注意、と」
「というか、神様的には大丈夫なのか?松永を転生させてしまって」
転生させてしまってから訊くことでもない気がするが、念の為に確認する聖。
「大丈夫ですよ。モルモ……もとい、ひけ……いや、えっと、体験者は多い程いいですからね」
「漏れ出る本心を口に出しかけるのは止めろ」
「サーセン」
京平の非難に、いつも通りの口先だけの謝罪を返す。
「お、そろそろ、ワールドクエストを発表せねば」
例の如く手帳をぺらぺらめくりだす。
「まともな世界に行っていますように」
目の前の神ではない神に祈る聖。
神がワールドクエストの説明をしている。もう少ししたらクエストの発表だ。
「まだ還ってきてないから、少なくとも瞬殺されるような世界じゃなかったみたいだな」
二人はホッとする。穂波がいきなりティラノに喰われたりして戻ってきたとしたら、どんな表情で出迎えていいか分からない。
「それでは、ワールドクエストの発表だ!
一つ、最先端ファッションを身に纏え。報酬、ポケベル。
一つ、新感覚スイーツを味わえ。報酬、秘密のレシピ。
一つ、お立ち台に立て。報酬、高級国産車。
以上、健闘を祈る!」
「えっ?何それ平和」
聖がそう言うのも無理はない。聞いた限り危険のなさそうなクエストばかりだ。
「クプヌヌとか言われないだけで当たりだな」
そう言いつつ安心した表情を見せる京平。この内容なら、穂波も少しは体験しようという気になってくれるかもしれない。
「だな。あれに比べたら、全部クリアできそうなクエストだもん。ファッション、スイーツ、お立ち台。どんな世界だろ」
「ファッション、スイーツ、お立ち台……」
興味はありそうだが考える気のなさそうな聖に対し、京平はブツブツとクエスト内容を繰り返し呟き何事か真剣に考えていた。そして一つの答えを導き出す。
「……バブル?」
「バブル?」
聖にはピンと来てないらしい。
「そう。1980年代後半の日本」
「ああ、あのバブル」
京平に言われ、聖も合点がいったらしい。
「て言うか、京平、今、日本て言ったよな」
「いや、まあ、日本て言ったけどな。もしかしたら凄くバブリーなファンタジー世界かも知れん」
そう言ったものの、バブル景気に沸くファンタジー世界を想像できないでいる京平。
「どんな世界だよ」
それは聖も同じだったらしい。
「クエストだけ聞いたら、ワンレンボディコン、ティラミス、ディスコ、だな」
「松永がボディコン?想像できねぇ」
穂波はショートカットの似合う、スポーティーなイメージの女性だ。ボディコンのような服を着ているところは見たことがない。
「確かに」
笑いながら言った聖に京平も頷く。穂波に知られれば正座させられるであろう光景だ。
「でも、それじゃまんま日本のバブルだもんなー」
「まあ、日本みたいな異世界もあるんじゃね?」
聖はいつも通り深く考える気はないようだ。
「報酬にポケベルや車もあるしさ。案外、日本のバブルそのものかもしれないぜ」
「それじゃ、転生じゃなくて単なるタイムスリップだろ?」
京平はそう言って神の方に目をやる。
「え?あ、はい。出来ますよ。ええ、はい。それも出来ます。どちらでも大丈夫です」
その神は転生先の穂波と何から会話している。
「……意外に順応してる?」
神の受け答えを見る限り、転生先で何かをしようとしているようだ。
「文句も滅茶苦茶言われてるんですけどね」
京平の視線に気づいた神がぼやく。
「まあ、すぐに帰ると言われなくて何よりです」
「すげーな、松永」
素直に感心する聖。あの状況から異世界へ転生させられて、そのままその世界を体験する気になる等、なかなか出来る事ではない。
「やっぱり、日本っぽい世界なのかな」
元の世界とのギャップが少なければ、それだけ受け入れやすいのかもしれない。そう思った京平は自分が転生した先の異世界を思い出す。
「これが引きの強さの差か……」
そのろくでもなさに思わずため息をつく京平。とは言え、日本のバブル時代のような世界も、普通に過ごす分には当たりかもしれないが、結希子を救える世界ではないだろう。
結局、いまだに当たりと言える世界は誰も引けていないという事になる。
「おめでとう!最先端ファッションを身に纏え、クリア!ポケベル、ゲット!」
そんな事を考えていると、早々に神が穂波にクエストクリアを告げた。




