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要塞研究所 5

 この世界にユキを助ける方法はない事は分かったし、Dr.は助けた。この世界での最低限の仕事は果たしたと言ってもいい。最悪ここで死んでも問題はない。だが……


「せっかくだもん、死にたくないよね」


 思わず呟く。憧れていた人物に会えたのだ。もう少しこの世界に居たいと思うのも当然だろう。

 背もたれに身を預け目を閉じる。ユキの事、『おねリン』の事、ヴィルの事……色々な思いが頭に浮かんでは消える。


「でも、そうそう上手くいくわけないかー……」


 軽く頭を振って雑念を追い払うと、軽く腰を浮かす。廊下の方からは、微かにモーターの音が聞こえてきていた。


「だって、『おねリン』だもんね!」


 身を翻し、ソファーの後ろへと飛び退る。同時に無数の銃弾が扉を打ち破り穂波に襲い掛かった。


「ちょっと、扉は開けて入って来なさいよ!」


 ソファーの背後で身を竦ませた穂波が怒鳴りつけるが、セキュリティロボが聞くはずもない。さらに雨あられと銃弾を浴びせて来る。


「うそうそうそうそ」


 ソファーは瞬く間に粉々になっていき破片を辺りにまき散らしていく。たまらず陰から転げだした穂波は銃撃から逃れるべく走り出すが、一度標的とされた以上そう簡単には逃げられない。無数の銃口が後を追う。


「穂波!どうしたの?」


 ヴィルの心配そうな声が耳に届いた。一瞬ホッとするが、すぐにイヤホンを通しての声と気付き落胆する。


「ロボ、ロボが来た!」


 それだけ叫んで必死で逃げる。一瞬でも気を抜いたら蜂の巣だ。


「ふむ。どうやらロボが一体辿り着いてしまったようだな」


 メアリーは冷静な口調で状況を把握している。


「辿り着いてしまったじゃないでしょう?どうにかならないの?」

「これでも努力はしたのだよ。だが、殺意の塊のようなあれが相手では、セキュリティシステムなど何の役にも立たないさ」

「肝心な時に!」

「キミが折り返すのが一番早い。急ぎたまえ」

「言われなくても」


 二人のやり取りに、穂波は絶望的な気分になった。ヴィルが戻ってくるにはまだ時間がかかるらしい。それまで自分が耐えられるとは到底思えない。


「むりむりむりむり」


 辛うじて弾は避けられているが、銃痕はすぐ後ろまで迫っている。


「そうだ、プレゼントボックス、何か使えるものがあれば……」


 だが、焦りの余り手持ちのアイテムに何があるか思い出せない。


「ねえ、私達って今何持ってるの?」


 溺れる者は藁をもつかむと言うが、穂波にとっては苦渋の決断だった。断腸の思いで神に声を掛ける。


「えーっと、これまでに獲得されたアイテムですか?」


 神はいかにも億劫そうに答えてくる。


「そうよ、こう、バーンと一覧見れたりしないの?」

「えっ?穂波さん、そんな事出来るんですか?」

「はぁ?出来る訳ないでしょ!」

「じゃあ、無理に決まってるじゃないですか。異世界を何だと思ってるんです?」


 流石の穂波も腹を立ててる余裕はない。それでも抑えきれない苛立ちが湧いてくるが、ぐっと飲み込む。


「じゃあ、せめて何持ってるか教えてよ」

「えー、わたくしが読み上げるんですか?面倒ですねぇ」

「面倒だって言うんなら何か分かりやすいシステムでも考えっ」


 結局、神に対する苛立ちを抑えきれなかった穂波。お陰で銃弾を避けきれず、一発が腕を掠めてしまう。


「痛っ!」


 歯を食いしばって痛みに耐える。まだここで倒れる訳にはいかない。


「分かりやすいシステム……そうですねぇ。それでは、神一推しアイテムというのは如何でしょうか?」

「何よそれ」

「読んで字の如くですよ。わたくしがこの局面で一番有効と思われるアイテムをお勧めする機能です。勿論、最善と呼べる物が無い場合もございますが」

「あんたが?」

「はい、わたくし渾身の一品をお勧めさせていただきます」


 この神のお勧めと言うのが最大の難点と言う気がしなくはないが、背に腹は代えられない。


「じゃあ、それ頂戴!」

「では、三百転生石のお納めを」

「三百ね、いいわ!早く頂戴!」


 あっさりと支払いを了承した穂波に、逆に神が戸惑う。


「えっ?あっ?はい。えっ?いいんですか?」

「何がよ!三百なんでしょ!払うって言ってんだからさっさと頂戴よ!」

「いや、穂波さんの事ですから、てっきり三百なんて高いとか仰るんじゃないかと……」

「あんたこっちの状況分かって言ってんの?いいからさっさと寄こしなさいって」


 穂波の体力も限界に近い。これ以上神の戯言に付き合う余裕はない。


「はい、では、そう言う事でしたら。今日の神の一推しアイテム、それは……ドゥンドゥルルルルルル」

「ドラムロールとかいらないから!」


 穂波の抗議は悲鳴に近い。


「ジャン!ちょっといい盾、ですっ!」

「たて?……盾!?もう、何でもいいわ、それ頂戴!」

「はい、喜んでー」


 銃弾が穂波の背に届こうとした瞬間、その背に大きな盾が落ちてきた。まさに間一髪と言うタイミングで現れたその盾は、穂波に襲い掛かった銃弾を全て受け止める。


「うわっ、タワーシールドじゃん」


 激しい音に振り返った穂波は、自分の姿を全て覆い隠せそうな盾に驚きの表情を浮かべた。だが、すぐに気を取り直しその陰に走り込む。そのまま盾を背で支えつつしゃがみ込み、一息つく。


「ふう……」


 背中からは盾が銃撃を止め続けている衝撃が伝わってくるが、暫くは耐えられそうだ。

 とりあえずの安全は確保されたらしい。その事にほっとすると、改めてさっきまでの神の所業に対しての苛立ちが湧き上がってきた。


「とりあえず、正座ね」

「えっ?何故です?」


 とぼけた神の声がまた苛立ちを増幅させる。


「正座、なう!」

「あっ、はい……」


 現世で正座しているかどうかは分からないが、これ以上相手をしている余裕もない。

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