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no time to help 2

「さて、それじゃ行きましょうか」

「えっ?どこへですか?」


 困惑する穂波を、ヴィルは呆れたように見つめた。


「覚えてない訳ね……貴方、病気の幼馴染の治療方法を探しているんでしょう?なら、世界一の名医に会うしかないじゃない。だから、今から会いに行くのよ」


 そう言えばそんな話も出ていた気がする。だが、世界一の名医と呼ばれる人にそんなに簡単に会えるものだろうか。

 そんな疑問が顔に出てしまっていたのだろう。ヴィルは軽くメアリーを顎で指して言葉を続けた。


「問題ないわ。メアリーが既に手筈を整えてくれているから。そうよね?」


 ヴィルの問いに対し、メアリーはスマホの画面から目を離さず答える。


「勿論だとも。Dr.ホルツマンと言う男なのだがね。数年前までは医療界でスーパードクターなんて呼ばれていた程の腕前さ。だが、何を思ったか今は場末の小さな病院の雇われ医師をやっているらしい」


 そんなメアリーに視線を向けた穂波は、スマホの画面が見た事もないような表示で埋められているのを目にした。おそらくプログラムのコードか何かだろうと予想はつくが、何が行われているかは全く分からない。


「ちょ……」


 思わず抗議の声を上げた穂波だったが、メアリーは別の意味に取ったようで的外れな答えを返す。


「何、心配はいらないよ。Dr.が君の幼馴染の罹った病の第一人者である事には変わりがない。今でも研究は続けているようだからね」

「……いや……もういいです……」


 言っても無駄と悟った穂波が肩を落とす。画面ではメアリーの視線に従って表示が千変万化している。何を言っても手遅れだろう。


「明日、Dr.が懇意にしている製薬会社のMRがアポを取っている。勿論、正規のルートでだ。キミ達はそのMRとしてDr.に会ってもらう」

「はぁ……」

「何、製薬会社はアポがある事すら知らないからね。本物が来る心配はない。存分に話をするがいいさ」


 おそらくメアリーが何かしたのだろうと想像がついた穂波だったが、当然問いただせる訳もない。


「そう言う事。さ、準備しましょ」


 ヴィルがそう言うや否や、部屋の扉がノックされる。ヴィルが返事すると、クリスティナが着替えを持って入ってきた。

 一瞬何か言いたげな視線をメアリーに向けたヴィルだったが、結局ため息をつくにとどめた。クリスティナから何点か着替えを受け取り、品定めをしている。


「では、健闘を祈る。ああ、これは帰って来るまで借りておくよ」


 メアリーはそう言って部屋を出て行った。


「さ、穂波も。クリスティナ、手伝ってあげて」


 メアリーを見送ったヴィルに促された穂波は、慌ててクリスティナから着替えを受け取ろうとしたが、そこでふと自分の今の状態を思い出した。


「あ、あの……」


 今にも着替え始めようとしているヴィルに声を掛けた。


「何?」


 服を脱ぎながら答えるヴィル。


「出来ればシャワーを浴びたいな、なんて思うんですけど……」


 アルコールが染み出てきているんじゃないかと錯覚するほど、じっとりとした汗をかいている。流石にこのままと言うのは気持ち悪い。


「ああ……」


 ヴィルも一目見てそれは分かったのだろう。


「そうね。せっかくだから一緒に入る?」


 悪戯っぽく言っては穂波が全力で首を横に振るのを見て、楽しそうに笑った。


「あら、残念。じゃあ、昨日の部屋を使ってちょうだい。急がないから、ゆっくりでいいわよ。クリスティナ、悪いけど色々面倒見てあげて」


 その言葉に無言で頷いたクリスティナに伴われ、穂波は昨日の部屋に移った。


「あ、あの……」


 すぐにバスルームへと向かいかけた穂波だったが、クリスティナが部屋の隅に控えるのを見て足を止めた。


「お気になさらず。これが私の仕事ですので」


 そう言われてもこんな状況に慣れていない穂波にしてみれば、気になってしまうものである。なおも逡巡する穂波を見たクリスティナは、小さなため息をついた。


「それでは、ご一緒いたしましょうか?」


 言葉こそ丁寧だったが、態度は穂波をからかうヴィルそのもののようだった。


「いや、それは……」


 慌てた穂波の脳裏にメアリーの言葉が蘇る。ヴィルの周りの人形達はどこからどう見ても人間のようになったと。


「それでは、私はこちらでお待ちしていますので」


 今度は有無を言わせぬ口調でそう言った。これ以上言ったところで埒が明かないだろう。穂波は諦めてシャワーを浴びる事にした。

 汗を流してさっぱりした穂波は、さらにバスタブに湯を張るとゆっくりと身を沈めた。


「はぁー、生き返るー」


 全力で全身を伸ばし温かい湯を満喫しながら、現在の状況を整理する。

 自分達の置かれた状況は、概ねヴィル達の知るところとなった。自分で話してしまっているのだから、当然と言えば当然である。酔っていたとはいえ、迂闊だったと言うしかない。相手によってはまずい事態になる事も考えられるな、と反省する。

 とは言え、今回は運良く上手くいっているのだ。そこは素直に喜ぶべきだろう。


「Dr.ホルツマンか……」


 奇しくも京平が会ってみたいと言っていたスーパードクターに先に会う事となった。そのおかしなめぐり合わせに笑みが零れる。


「自慢、出来るかなぁ……」


 治療出来るとなれば、自慢し放題だろう。だが……


「うーん……」


 この世界の技術レベルに思いを馳せる。この街が旧い時代を模しているせいもあるだろうが、自分達の世界よりも格段に進んでいるとは思いづらい。死者の街の住人やヴィルの腕など自分の世界ではあり得ない物も存在するが、それを可能にしているのは突出したメアリーのとんでも技術力だろう。


「会ってみるしかないよね」


 ヴィル達が導き出してくれた最適解である。チャレンジするしかないだろう。


「よしっ!」


 気合を入れて立ち上がる。

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