貴女が私を見つけた日 15
「えっと……この街の事をヴィル姉さんは死者の街って言って、メアリーさんもそう言いましたよね?」
「言ったが、それがどうかしたのかね?」
「その……死者ってどう言う意味ですか?私には皆生きて……」
穂波の言葉をメアリーの笑い声が遮った。微かに狂気を感じさせる、心がぞわっとする、そんな笑い声だ。
「言葉の通りだよ。この街の住人はね、皆ワタシが作った人形さ。かつての仲間を模したね」
そう言えば、作中の混沌の魔物はアニマトロニクスで撮影したと言っていた。
「そんな……」
穂波が顔色を変える。だが、考えてみれば異形の存在をあれほど精巧に作れるのだ。実在した人間を模して作る事など造作もないに違いない。
「言っただろう?滅ぼされたはずの街を復活させるって。なら、当然人だって復活させないといけないじゃないか!まあ、仲間だけでは足りないから、エキストラも混ざってるがね」
「ヴィル姉さんはその事を……」
「勿論、知っているさ。流石にそれすら分からなくなるくらい病んだら、いくらワタシでもお手上げだよ」
軽く言い放つメアリーだったが、穂波の心は晴れない。かつての仲間の姿をした何かで満ちた街で、ヴィルはどういう心境で過ごしているのだろうか。
「さて、そろそろ時間だ」
二人の会話を苦々しげな表情で聞いていたボリスが、話を打ち切ろうとするかのように口を挟んできた。
「あまり待たすと、後が厄介だ」
そう言って億劫そうに立ち上がると、メアリーも後に続いた。
「確かに。あまり気は乗らないんだが……」
そして穂波を誘うかのように手を差し伸べる。
「えっ、いや、私は……」
メアリー達は気にするなと言ったが、ヴィルを落ち込ませたのは自分の不用意な一言であるのは間違いない。今更、どんな顔をして会えばいいのか分からない。
「何、キミが気にすることはないさ。ヴィルの怒りは自分の不甲斐なさに対してだからね」
「その怒りを嬢ちゃんに向けるほど、お嬢もガキじゃねえよ」
「……でも……」
穂波がそれでも迷いを見せていると、ボリスが優し気な声で独り言ちた。
「お嬢のあんな楽しそうな姿を見るのは随分と久しぶりでな。嬢ちゃんならお嬢の心を少しは楽にしてくれるんじゃねぇかと思うのさ。勿論、これは俺の勝手な思いだから、無理強いは出来ないがな」
「確かに。今日と言う日に人間の娘が来たのだからね。キミがここへ来たという事は、ヴィルにとって意味がある事なのかもしれないしな」
メアリーも同意するように頷いている。
「それは……」
本当に自分がヴィルの力になれるなら、自分が憧れていた人の力になれるなら、穂波にとっても願ってもない事である。だが、人知を超えた存在である相手に自分が出来る事などあるのだろうか。
「……いや、ここで悩んでちゃダメなんだよね……」
本当に自分が求められているのだとすれば、応えるしかないだろう。この世界に対する覚悟を決めるなら、それは今しかない。
メアリーの手を取り、立ち上がる。
「分かりました。私も行きます」
あの神のありがたいお言葉に従うようで癪な話だが、この際仕方ない。
「そうか。それは助かる」
どこかホッとしたようなボリスの声。
「じゃ、行くとしようか」
急かすメアリーに穂波が尋ねる。
「どこへですか?」
「決まってるじゃないか、バーさ」




