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貴女が私を見つけた日 6

「これはまた……どうやったか知らねぇが、派手にやったもんだな」


 人狼は呆れたように車と、それに潰された怪物を交互に見ている。


「これは……さっきと検知したのと同じ空間の歪みだな。俄かには信じがたいが、ここではないどこかからやってきたと言うことか……」


 メアリーは車の方に興味津々の様子だ。二人とも突然現れた車には驚いているが、怪物が女王に襲い掛かろうとしていた事には驚いていない。


「ふむ。と言うことは、だ。この子も同じようにここではないどこかからやって来たと言うことだろうな」


 そう言ってメアリーが穂波に向けた視線は、先程まで車に向けていたものと変わらない好奇心一杯のものだった。その妖しく光る碧眼は、不審げに見られていた時よりも危険に感じる。


「不思議な事もあるものね。人が突然現れるなんて。何にせよ、敵ではないみたいだから良かったわ」


 女王も落ち着いた様子でメアリーに答えている。


「えっ?」


 戸惑いを隠せない様子の穂波に、女王は少し申し訳なさそうな表情を見せた。


「状況が状況だけにね。確信が持てなかったのよ。それで、ね」


 そう言って背後で潰れる怪物に目をやる。


「私が襲われそうになったらどうするのかしらって」

「……ああ」


 納得したように頷く穂波。自分にしてもいきなりこの世界にやって来ていたのだ。女王達にしてみれば怪物を引き連れてきたように見えても仕方がない。

 三人共背後の怪物に気付いていた上で、そんな自分がどう行動するかを見ていたらしい。


「ありがとう。それと、ごめんなさい」

「あ、いえ……」


 これで疑いが晴れたのであれば、それはそれで結果オーライだろう。


「是非、キミにはイロイロと聞かせてもらいたいものだよ」


 メアリーが穂波に向ける瞳は、相変わらず好奇心で爛々と輝いている。


「あっ、はい、私に答えられることであれば……」

「まあ、ほどほどにしてやれよ」

「ふむ。考慮しよう」


 人狼が抑えようと声を掛けてくれるが、メアリーの妖し気な笑顔を見る限りどれ程の効果があるのかは分からない。


「……お嬢、そろそろ……」


 人狼はやれやれと首を振ると腕時計に目をやり、女王に声を掛けた。女王は分かったと一つ頷くと、穂波の前にしゃがみ込みその手を取る。


「さ、行きましょうか」


 そう言って優しく立ち上がるように促した。


「行くって……」

「映画よ、映画。私達の映画。貴方も見た事があるのでしょ?今からそれを見るのよ。せっかくだから、貴方もおいでなさい」

「あっ、はい」


 もう一度見てみたいと思っていた映画が見られるというのだ。穂波に断る理由はない。

 女王の手に掴まり立ち上がる。そんな穂波を見た女王が眉を顰めた。


「貴方、ドロドロじゃない。そんな恰好じゃ駄目よ。着替えないと」


 そう言われた穂波は、改めて自分の姿を確認する。確かに、いつの間にか怪物の返り血や体液を浴びていて大変な事になっている。だが、それを言うならば全力で敵を殴っていた女王の汚れ方は穂波の比ではない。


「……あなたも……」


 恐る恐ると言った様子の穂波に指摘された女王は、自分自身の姿を見て笑い出した。


「それはそうよね。貴方がドロドロになるくらいですもの。私の姿も推して知るべしってところね」


 そして後の二人へと目を向ける。


「貴方達もせっかくの日なんだから、そんな辛気臭い服じゃなくて、ちゃんとした服に着替えて来なさいよ」


 その言葉に驚いたような表情を見せた二人は、顔を見合わせた。そして、お互い仕方ないと言うような表情を浮かべる。


「後、新しい腕もお願いね」

「うむ」

「……分かっているとは思うけど、普通の腕よ、普通の」

「……仕方あるまい」


 メアリーの返事を聞いた女王は、穂波を促し歩き出す。後をついて歩き出した穂波の背に、メアリーが声を掛けた。


「ところで、これはかなり古い日本車のようだが、貰っても構わないかね?」

「えっ?あっ、はい、別に構いませんけど……」


 一度プレゼントボックスから取り出してしまった以上、この世界に置いていくしかない代物である。何故メアリーが欲しがるのかは分からないが、断る理由もない。


「何?珍しい物なの?」


 不思議に思ったのは女王も同じだったらしい。


「いや?別にただの古い車さ。ただ、ナカトミの家のガレージに置くのに丁度良さそうなんでね」

「……こだわるわね」


 呆れたような女王の声だったが、メアリーは気にしていないようだ。


「いいじゃないか。全てワタシの管理下にあるのだから」

「そうね」


 再び女王が歩き出す。慌てて後を追おうとした穂波の目に、信じがたい光景が映った。

 メアリーが軽々と車を持ち上げたのだ。

 言葉を失う穂波だったが、その様子を見ていた人狼に驚いた様子はない。確かに女王も拳一つで怪物を殴り殺していたのだ。メアリーが車を持ち上げるくらい何ともないのかもしれない。

 穂波は深く考える事をやめ、女王の後を追う。何せここは異世界なのだ。少々の事で驚いていては体がもたないだろう。

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