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巫女の料理人 3

「いやぁ、やっぱりマリエラの料理は美味いっすね」

「ありがとう。でも、行儀悪いわよ」


 食べ過ぎて動くのも億劫なのか、全身を全力で椅子の背凭れに預けているティファナをマリエラが窘める。


「マリエラが調子に乗るからっすよ」


 ティファナの言う通り、マリエラはニンニク料理だけでは飽き足らず、様々な料理を提供し続けたのだ。


「こんなに色々な食材が揃う事なんてありませんし……」


 聖が獲得した野菜セットは、それほどまでに種類が豊富だったのだ。


「しかしあれだな。こうなるともう少しバリエーションが欲しいな」


 ジェノはジェノで満足そうな表情だったが、そう言いつつ京平の方をジッと見ている。


「……言いたいことは分かります」

「察しがいいな」

「まあ、一週間以上一緒に過ごしてきた訳ですからね」

「別に作れるようになってこいとは言わないさ」

「覚えてこい、でしょ」

「分かってるじゃないか」


 京平は最近よくある、とある出来事を思い出していた。現世の話をすると、どうしても上手くイメージが伝えられない事が出てくる。何とか言葉で説明はしようとするのだが、どうにも伝わらない場合、最終手段として魔法で思考を読まれるのだ。

 最初こそ魔法をかけられる事にビビっていた京平だったが、かけられてみると意外にどうという事はない。そのせいもあってか、最後の方は寧ろ積極的に思考を読まれていた。


「まあ、努力します」


 そう答えた京平を、マリエラは期待に満ちた目で見つめていた。


「ニンニク料理以外も、是非お願いします」

「分かりました」


 そう答えつつ立ち上がる。そろそろ還るにはいい頃合いだ。


「じゃあ、そろそろ……」


 京平がそう言うと、ジェノがティファナに目配せをした。あっと言う表情を見せたティファナは、のろのろと立ち上がると京平に小さな袋を手渡した。


「餞別っすよ」


 中を確認すると小瓶が三本入っている。もの問いたげな京平に、ジェノが言葉をかける。


「ポーションだよ。それぞれ別の種類だけど、どれも病気には効く」


 驚く京平に、ジェノは難しい顔で言葉を続けた。


「所謂マジックアイテムだ。話を聞く限り、お前の世界では魔法も神の奇跡も思うような効果を発揮できないらしい。だとすれば、それもお前の世界ではただの水でしかないかもしれん」


 ジェノの見立ては間違っていない。その世界の理から外れた物は正常に働かない。ジェノの言う通り、このポーションも元の世界に帰ればただの水になってしまう可能性が高い。


「ま、それでも試してみて損はないだろ。万が一上手くいけば儲けもんだ」

「いいんですか?貴重なものなんじゃ……」


 ゲームでも、病気を治せるポーションは傷を治すだけのポーションよりもレアに設定されている事が多い。それを効くかどうか分からない世界で試すだけに貰っていいのかと思う。


「いやいや、キョーヘーさん、アタシらを誰だと思ってるんすか?こう見えてもアタシもマリエラもパラディンなんすよ。アタシらがいれば、ジェノ様にそんな物必要ないっす」

「そういう事だ。気にせず持って帰れ。それに、お前には色々と教えてもらったからな。その礼だと思ってくれればいい」


 マリエラもティファナも頷いている。


「ありがとうございます」


 言われてみれば、確かにティファナの言う通りだ。それにしても貰いすぎな気はするが、ありがたく貰って帰る事にする。


「色々お世話になりました」


 京平が頭を下げる。


「ああ。幼馴染が助かるといいな」

「遠い空の下から回復をお祈りいたしておりますわ」

「元気で頑張るっすよ」


 三者三様の励ましを背に、この世界からの帰還を選択する。




 いつもの一瞬意識が飛ぶ感覚に襲われ、気が付けば元の自分の部屋に戻って来ていた。

 目の前には何か大事なものを抱えるようにして穂波が座っている。


「穂波?」

「京平?」

「どうした?大丈夫か?」


 自分を見上げる目が少しばかり赤い気がした京平がそう尋ねるが、穂波は何でもないという風に首を振った。


「うん、大丈夫。聖は?」


 京平が、聖はパラディンと出会って修行中である事を告げると、穂波は驚きを隠そうともしなかった。


「うっそ!ホントにパラディンと出会えたんだ!ちゃんと当たりあるんだね……」


 感慨深げに呟く。


「じゃあ、京平も一緒に残れば良かったんじゃない?だって、パラディンいたって事はファンタジー世界な訳でしょ?」

「まあ、色々あるんだよ」


 延長したとしても、その大半はヤキュウに費やされるに違いない。そこにはファンタジー感など無いも同然だ。


「そ。まあ、京平がそれでよかったなら、それでいいんだけど」

「穂波こそどうだったんだよ。何かあったか?」


 その言葉に穂波は少し考えて、そして微笑んだ。


「うん。色々あったよ」

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