巫女の料理人 2
料理が趣味、というかジェノに料理を作るのが趣味と言うだけあって、マリエラの手際は非常に良かった。京平にいくつか質問をしながら、テキパキと調理を済ませてしまう。
「いかがでしょう?」
そう言って京平に差し出された料理は、既に遥か上のレベルに到達していた。
「美味しいです。じゃあ、早速ジェノさん達にも……」
皿を持ってジェノ達の方へ向かおうとした京平に、マリエラの鋭い声が飛んだ。
「駄目です!」
「えっ?」
その余りの迫力に動きを止めた京平が、恐る恐るマリエラの方を振り返る。
「それはあくまで手順を確認する為に作った、言わば試作品です。そんなものをジェノ様に食べさせるなんてとんでもありません!」
「いや、十分美味しいと思いますけど……」
「駄目です!今からちゃんとした物を作ります」
鬼気迫る表情で宣言されてしまっては仕方がない。ちゃんとしてない物に既に負けてるんだけど、と京平は少しやるせない気持ちを抱く。
「これ、どうしましょう?」
既に本格的な調理に取り掛かったマリエラに、京平は手に持った皿を示す。
「後で私が食べますから、そこに置いておいてください」
意識は完全に料理に向いているのか、京平の方を見ずに答えるマリエラ。その答えに、京平は少し悩む。
あの様子だと調理が済むまでそれなりに時間がかかるに違いない。せっかく出来立てで温かいというのに、冷めるに任すのは勿体ない。
「じゃあ、俺が貰っても?」
「えっ?いえ、ちゃんと京平さんの分も用意いたしますから、どうかそれはそのままで」
「でも、温かいうちに食べた方が……」
「駄目です。温かかろうが冷たかろうが、それは試作品です。味見をしてもらう為の物で、それ以上ではありません」
「あの、俺の世界にはそう言う時の為に『後でスタッフが美味しく頂きました』という万能の言葉があるんですよ。だから、俺がそのスタッフ的な感じで……」
「訳が分からない事を言っても駄目なものは駄目です」
マリエラは頑として譲る様子がない。やむなく京平は皿を置いてジェノ達の元へ戻る。
「お前、割とアレだな」
マリエラとのやり取りを見ていたジェノがおかしそうに笑っている。
「何ですか、アレって」
「いや、バードに向いてるなって思ってな。どうだ、私の弟子になるか?」
「嫌ですよ。そこまで性格悪くないつもりですし」
思わず本音で答えてしまい焦る京平だったが、ジェノ達は大笑いしていた。
「ハハハ。そうそう、そう言うところさ」
「……どういう所か分からないんですけど?」
「まあまあアレっすけどね」
「まあまあアレだけどな」
ジェノ達は京平の疑問の答えるつもりはないらしい。仕方がないので、無理やり話を変えようとする。
「で、ティファナさんは料理しないんですか?」
「アタシがっすか?何でっすか?」
ティファナは心の底から不思議そうに京平を見た。
「ジェノ様にくっついていたら自動的に美味い飯が出てくるんすよ。自分で作る必要なんて無くないっすか?」
「えっ?でも、マリエラさんみたいにジェノさんに喜んでもらいたい、とか無いですか?」
その言葉に、ティファナは遠い目をした。
「フッ……キョーヘーさん。人には向き不向きってのがあるんすよ……」
「ああ……」
その表情から全てを察した京平は、それ以上追求しようとはしなかった。
暫く三人で雑談をしていると、マリエラが次々と皿を持ってやって来る。
「お待たせしましたわ」
目の前に並べられた料理は、マリエラが本気を出しただけあってさっきの試作品とは比べ物にならない出来だった。
「こうなるんだったら、食べるなとも言うわな……」
納得したように頷く京平。
「さ、どうぞ召し上がってください」
マリエラに促され、早速箸を伸ばすジェノ達であった。




