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巫女の料理人 1

 翌日。

 京平は緊張した面持ちで教会の食堂に立っていた。目の前のテーブルにはジェノ達三人が席についている。その前に並べられているのは、京平の手料理だ。


「ペペロンチーノと餃子です。どうぞ」


 どうして料理をする羽目になったのかと言うと、ジェノにニンニクの正しい使い方を教えるよう言われたからに過ぎない。普段から自炊しているとはいえ凝った料理を作っている訳でもない京平にしてみれば、これが精一杯の内容だった。


「いただきます」


 三人が料理に手を付ける。そもそも何故自分が審査されるような立ち位置になっているのか、今更ながら不条理だと思わないでもない京平だったが、結局のところジェノ達に振り回されている時点で不条理しかないのだと気付く。

 黙々と食べ続ける三人を見つめる京平。別に不味いと言われたところで問題はないのだろうが、作った以上評価は気になるところだ。

 やがて三人は完食すると手を合わせた。とりあえず、こんなもの食えるかとちゃぶ台をひっくり返されずに済んだことに安心する。


「なるほど、あれがこうなるのか……」


 昨日、生のニンニクを体験しているジェノが感慨もひとしおといった感じで頷いている。


「美味しかったっすね」


 ティファナの感想はあっさりしたものだ。それに対しマリエラは食べ終わった後も首を傾げて何か考え込んでいる。


「えっと、何か気になる事でも?」


 不安げな京平の質問に、マリエラは何でもないという風に手を振る。


「いえいえ、大変美味しかったですわ。ただ、このギョーザですか?こちらの皮は、もう少し薄く仕上げてパリッとさせても美味しいのではないかと考えていたところです」

「あー」


 納得の表情で頷く京平。何せ普段は出来合いの皮を使っているのだ。初めて作った割には上手くいったと思っていたのだが、マリエラの好みからは少し外れていたらしい。


「皮作ったのは初めてなんで、そこは単純に腕の無さですね」

「いやいや、十分美味しかったっすよ、ねぇ?」

「まあな」


 ティファナの言葉に、何か考え込んでいる様子のジェノが生返事をする。


「美味しくないとは言ってません。後は、ちょっとした好みの問題です」


 ティファナの言い方に少しムッとした表情を見せるマリエラだったが、ティファナは知らん顔をしている。そんなマリエラにジェノが声をかけた。


「マリエラ、作れるか?」

「私がですか?え、ええ。一応、一通りキョウヘイさんの作業は見させてもらいましたから、少しアドバイスを頂ければ出来るかと……」


 いきなりの無茶振りに面食らうマリエラだったが、自信はのぞかせている。


「よし。ニワ、頼む」

「別に構いませんけど……どうしたんですか、急に」


 ジェノが何を考えていたのか気になる京平が尋ねた。


「いや、別に大したことじゃないさ。ただ、大量生産するなら使い道は押さえておかないと駄目だろ?」

「大量生産するんですか?」

「ああ。こいつがヴァンパイアに効いてみろ。これほど安価で手軽なヴァンパイア除けはそうそうない」


 確かに銀の武器や聖水よりかは手軽だろう。


「ただ、効かなかった場合、そこに残るのは大量のニンニクだからな。せめて食えるようにはしとかないと」

「……効くかどうか試してから育てては?」

「試す為だけにヴァンパイア探すのも面倒だろうが」

「……そうですね」


 ジェノが言うのだからきっとそうなのだろう、と京平は深く考えないことにする。


「でも、大量生産なんて出来るんですか?俺も育て方までは知らないですよ?」

「野菜なんだろ?じゃあ、ドルイドに任せりゃ何の問題もない」

「ああ」


 異世界らしさ満点の説得力に溢れた答えに、京平は頷くしかない。


「ついでにどこかで自生してないかも探るつもりさ」

「……誰がですか?」

「誰って……冒険者雇うに決まってるだろ?こんな面倒な事、人に任す以外の選択肢があると思うか?」

「ですよね」


 一週間も付き合っていれば予想の出来る回答に、またしても頷くしか出来ない京平。


「でも、あるかどうか分からないニンニク探すって、色んな意味で大変じゃないですか?」

「だろうなあ。まあ、それなりの報酬を設定すれば何とかなるだろ」

「儲かってるんですね、龍の巫女って……」

「あん?そんな訳あるかよ。お前んところの神は、金くれるのか?」

「いや、無いですね……」


 寧ろお気持ちという名の下に毟られる側である。


「だろ?」

「じゃあ、いったいどうやって……」

「まあ金は無くても、それ以上の価値がある物はそれなりにあるからな」

「ああ」


 戦利品が置かれた部屋の事を思い出す。自分に対しても何の躊躇いもなく高価そうなマジックアイテムを装備させてくれたくらいなのだ。それなりという言葉に収まる質量ではなさそうだけに、冒険者にしてみれば喉から手が出るほど欲しいアイテムも埋もれているに違いない。


「まあ、使い道だって料理人雇えば何とかなるかも知れないけどな。せっかく美味い飯に出会えたんだ。押さえておかない手はないさ」


 美味い飯、と言われて悪い気はしない京平だったが、どうしても解せない事が一つだけあった。あえて触れないでおくことも考えたが、結局訊いてしまう。


「……今日、俺の送別会なんですよね?何で料理している側なのか不思議なんですけど」


 教会の外からは賑やかな声が聞こえてきている。京平の言葉通り、庭では近隣住民を招いての京平の送別会が行われているのだ。


「……行きたいか?」


 ジェノが不思議そうに尋ねてきた。そう改めて訊かれると、確かに返答に困る。実際、特に近隣住民と接点があったわけではない。せいぜい龍の巫女と一緒にヤキュウという謎の遊びに興じている居候として認識されていればいい方で、大半の住人は存在すら知らないだろう。


「別に行きたいなら行っても構わないんだぞ」


 外からは微かに肉の焼けるいい匂いが漂ってくる。最初は本気で野菜だけで実行しようとしていたジェノ達だったが、流石にそれはどうかと言う話になり、結局肉が追加されて普通のバーベキュー大会になっていた。謎の人物の送別会にもかかわらず、大勢の人が集まっている理由はそれだ。


「よく知らない連中の中で謎の主賓として気まずい時間を過ごすか、多少は気心の知れた私達と過ごすか、好きな方を選べ」


 そう言われてしまうと京平に選択肢は無いも同然だった。


「はいはい、分かりました。じゃ、始めましょうか」


 マリエラを誘って調理台の方へと向かう。


「よろしくお願いしますわ」


 マリエラは深々とお辞儀をすると、京平と共に調理に取り掛かった。

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