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エンカウンター・ウィズ・ヴァンパイア 3

「さて、そろそろ時間ですわね」


 ずっと辺りの様子に気を配っていたマリエラが、何かを確認するかのように空を見上げて告げる。無我夢中で話し続けていた京平がつられて空を見上げると、月が僅かばかり天頂へと移動しているのが見えた。


「そっすねー」


 廃墟の様子を窺っていたティファナもチラッと月を確認すると、立ち上がって背伸びをした。なんやかんやで二人とも大して京平の話を聞いていない。


「……いや、まあ、いいんですけどね」


 自分が喋る事によって緊張しなければそれでいい話であって、確かに二人が耳を傾ける必要はない。とはいえ、全く聞いてもらえないのもそれはそれで辛いものがある。京平は憮然とした表情で二人に続いて立ち上がった。


「何すか、キョーヘーさん。ちゃんと聞いてたっすよ、ねえ?」


 意味ありげにマリエラと頷きあうティファナ。


「ええ、勿論ですわ。特に味方が死球を受けたならば、乱闘をしかけてもいいというのは大変役に立つお話でした」


 その言葉に京平は思わず天を仰ぐ。余りに二人の反応が薄いが為に危険と分かりつつ切った乱闘話のカードだったが、物の見事に悪い方に出た感じである。


「いや、乱闘すると退場処分になったりするので、あんまりやらない方がいいかと……」


 無駄と分かりつつも説得を試みる。


「……つまり、一人で全員倒せば、一人の犠牲で勝てるって事っすね。名付けて犠牲乱闘」

「犠牲フライみたいに言わないで下さい!ホント、野球のルール内で勝負してくださいよ」


 もはや哀願と言っていい京平の口調に、二人が噴き出す。


「もう、冗談に決まっているじゃありませんか」


 マリエラがそう言うが、二人の目は笑っていない。故あればやりかねない、そんな危険性をはらんでいる目だ。


「……ならいいんですけどね」


 それ以上深くは追及せず話を打ち切る。今集中すべきなのは目の前の事件であって、野球ではない。

 マリエラ達はそんな京平に軽く肩を竦めると、各々動き出す。


「ジェノ様が暴れた様子もないですし、今のところプラン通りっすかね」

「そうですわね」

「どういう事ですか?」


 納得し合っている二人に、京平が尋ねる。


「人質の娘さんに差し迫った危機は無さそうという事ですわ。仮に何かイレギュラーな事態が発生していたとしたら、今頃大騒ぎになってますもの」

「なるほど」


 ジェノに限らずこの三人ならば状況次第で臨機応変に動いてくれるだろう、という安心感は京平にもあった。そんな彼女達が慌てていないという事は、今のところ順調に進んでいるという事だ。


「さ、そろそろ参りましょう。あまりジェノ様を待たす訳にもいけませんし」


 マリエラはそういうと廃墟の方へと歩き出す。ティファナに促された京平も、遅れないようにとその後に続いた。

 月明りを頼りに廃墟へと近づく三人。忍ぼうという意思がないのか、マリエラ達の鎧は割と大きな音を立てっぱなしだ。ティファナに至っては得物のグレートアックスを引きずる音まで立てている始末だ。


「もうちょっと隠れようとか努力はしないんですか?」


 京平が一応聞いてみるが、芳しい答えが返ってくるとは思っていない。


「一応、灯りを使わない程度には努力していますのよ」


 視覚的には努力をしているという事なのだろうが、鎧の音はそれを台無しにしている。


「……ただ歩きにくくなってるだけじゃないですか?」


 現に道無き道を歩くことに慣れていない京平は、幾度となく躓いていた。


「慣れっすよ、慣れ」


 ティファナに軽く言われてしまうが、そんな数分で慣れられるものでもない。


「まあ、どうせ気付かれているでしょうから、灯りをつけましょうか」

「そっすね。どのみち遅かれ早かれ殴り合う訳っすし」


 マリエラはそう言うや否や、荷物から灯りを取り出すと京平に手渡した。


「えっ?これ持ったら武器持てないんですけど……」


 左手は既に盾で埋まっていたところに灯りを持たされたのだから当然である。


「キョーヘーさんの攻撃なんて期待しないんで、それでいいっす」


 ティファナの答えにため息を吐いた京平は、視線を明るくなった前方へと向けた。

 うっすらとだが、目前に迫っていた廃墟を囲う鉄柵が照らし出されている。その奥は庭園だったのか、手入れされなくなって久しい植栽が荒れ放題に生い茂っているようだ。京平の目にはそれ以上何も映らなかったが、マリエラ達は何かを感じ取ったらしく、二人の間に緊張が走る。


「おーおー、えらく歓迎してくれる気満々っすね」

「……外へ出てくる気はなさそうですけどね」


 二人は軽口を叩きながらも、それぞれ武器を構える。


「見えるんですか?」


 目を凝らしてみる京平だったが、何も見つからない。


「んー、見るんじゃないんす、感じるんす」


 そう言われても京平にはピンとこない。


「パラディンになるなら、これくらい出来ないとダメっすよ。感覚を研ぎ澄まして、純然たる悪意を感じ取るんす」

「あら?キョウヘイさんもパラディン目指されるんですか?」

「いや、無理ですよ。現に今も何も感じられてない訳ですし」


 何故ティファナはそんなに自分をパラディンにしたがるのか、そして何故マリエラは期待に満ちた目で自分を見るのか、分からない事だらけだ。だが、自分がパラディンに向いていないであろうという事だけは確実だと言える。


「じゃあ、今から特訓でもするっすか?」

「……人質助けないと駄目なんですよね?そんな時間あるんですか?」

「お、正論」


 ティファナにしてみてもいつもの冗談だったのだろう。それ以上は何も言わず、視線を前方に戻す。


「心配しなくとも、あの柵を越えれば嫌というほど見ることが出来ますわ」


 マリエラが嬉しくない保証をしてくれる。


「さて、それじゃ行くっすかね。ま、キョーヘーさんには指一本触れさせないんで、ゆっくりとヴァンパイア見物するといいっすよ」

「私達から離れないようにだけしてくださいね」


 二人の言葉に頷く京平。

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