エンカウンター・ウィズ・ヴァンパイア 2
「だいたい、キョーへーさんはちょっと真面目すぎるんすよ。世の中、考えたってしょうがない事ばっかなんすから、もっと気楽にいきましょうよ」
「……そうですね」
「だから、気楽にって言ってんすけどねぇ」
真面目に頷いた京平に、ティファナはもう一撃デコピンを喰らわせようと手を伸ばしてくる。
「いや、ホント、頭割れるんで勘弁してください」
京平は慌てて頭を守るように抱え込んだ。
「ハハ、冗談すよ冗談」
「そこがキョウヘイさんのいい所でもあるんですから。あまり、からかっちゃ可哀そうですわよ」
笑いが抑えられない様子のティファナをマリエラが窘めるが、そのマリエラも小さく肩を震わせている。
「……あー、もういいですよ」
そんな二人の様子に降参だとばかりに地に身を投げ出す。その目に満天の星空が飛び込んできた。自分の世界とは随分と違う光景に目を奪われる。それと同時に今の今まで気が付けない程、自分の視野が狭くなっていた事に驚いた。
「ありがとうございます」
「ん?どうかしたっすか?」
「いえ、おかげで少し楽になりました」
京平は起き上がると、改めて二人に頭を下げる
「今更何言ってんすか。仲間なんすから当然すよ」
そう言ったティファナは京平に近付いたかと思うと、肩を抱いて顔を寄せてきた。
「それに、まあまあキョーヘーさんもいい男っすから、ジェノ様いなかったらコロッといってたかもしれないっすもん」
突然の言葉に一瞬動揺しかけた京平だったが、顔に出るより早く気持ちを落ち着けた。
「えっ?本当ですか?」
そして努めて平静に問い返す。
「えっ?冗談すよ」
「ですよね」
真顔で返された京平は、負けず劣らずの真顔で返す。これだけ何度もやられれば、対処法も分かってこようと言うものだ。
「チッ」
その反応が面白くなかったのか、軽く舌打ちしたティファナが京平の頭を叩こうとする。だが、その動きを予想していた京平は辛うじて躱すことに成功する。
「ちょ、避けるとかずるいっすよ」
ムキになったティファナが連続で手を出してくる。
「いや、ずるいとか意味分かんないですし」
そうは言ったものの、こうなると京平には手の施しようがない。為す術もなく叩かれ続ける。
「すいません、マリエラさん、見てないで何とかしてください」
たまらずマリエラに助けを求めると、笑いながら救いの手を差し伸べてくれた。
「それくらいにしておきなさいな。もう十分緊張も解れたみたいですし」
「そうっすねー。でも黙ったら、また緊張していくに決まってるっすよ?」
とりあえず手は止めたティファナだったが、それでも獲物を狙っているかのような目で京平を見つめている。何とかその魔の手から逃れたい京平だったが、図星を指されているだけに反論は難しい。
「それもそうですわね……でしたら、キョウヘイさんに何かお話しでもしてもらいましょうか」
するとマリエラから素晴らしい対案が出た。一も二もなく頷く京平。
「じゃあ、ヤキュウの話でもしてもらうっすか」
「あら、それはいいですわね」
ティファナの提案に、マリエラも同意する。
「野球ですか?……構いませんけど、そんな面白い話なんてないですよ」
「そうなんですの?それは困りましたわね……では、私達が楽しめなかった場合は、罰ゲームと参りましょう。そうですね……『せんぼんのっく』でも受けていただきましょうか」
何がでは、なのか分からないが、マリエラは優し気な笑顔を浮かべたままとんでもなくハードルを上げてきた。
「お、いいっすね。『せんぼんのっく』しんどかったっすからね」
ティファナも頷いている。どうやら守備練習の際に実施した千本ノックが、殊の外お気に召さなかったらしい。
「いやまあ、あれは……」
正直やりすぎた感が無かったわけではない。だが、一球ごとに目に見えて上達するマリエラ達に思わず熱が入ってしまったのも事実だ。とは言え、延々ノックを受けさせられた側はたまったものではないだろう。それに関しては、自分達も経験があるだけに強くは言えない。
観念した京平は、記憶の引き出しを探る。自身の体験の他にも、プロ野球の珍プレー好プレーや面白エピソードなどそれなりに話題は思いつくのだが、どれもこれも映像で紹介できないのが最大の難点だった。自分の話術でどれほど伝わるだろうかと不安になりながらも、とりあえず話し始める。三十分弱の待ち時間をもたすだけなら何とかなるはず、と信じて。




