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エンカウンター・ウィズ・ヴァンパイア 1

 作戦を決めた一行は早々に敵地へと馬を走らせた。

 京平にしてみれば朝を待った方がという思いがない訳でもなかったが、時間が経てばそれだけ攫われた女性の命のリスクが高くなるのも事実である。ジェノ達が夜でも問題ないと判断したのならば、信用してついていくだけだ。

 やがて目的の廃墟が見えてくると、ティファナが感嘆の声を上げる。


「いやあ、なかなか雰囲気のある館っすねぇ」


 彼女の言う通り、その館はまさに不死者の居城と言っていい不気味な雰囲気を漂わせていた。


「じゃあ行ってくる。そうだな、三十分もあったら十分だろ。それくらいで適当に始めてくれ」


 馬から降りたジェノは軽く館の方を見遣ってから、マリエラ達にそう告げた。


「承知いたしました、ジェノ様」

「気を付けてくださいっすよ」


 マリエラは軽く頭を下げ、ティファナは手を振ってジェノを見送る。ジェノは軽く手を振り返したかと思うと、すぐに闇の中へと姿を消した。


「さて、と。じゃ、しばらく休憩っすね」


 ティファナはそう言うとさっさと地面に座り込んだ。


「そうですわね」


 マリエラもそれに続く。休憩と言ったはずの二人だったが、ティファナは廃墟から目を離さないし、マリエラは辺りを油断なく見渡している。


「つか、やっぱ、ああいう廃墟って残してたらダメっすよねー。さっさと取り壊さないから悪の巣窟になっちゃうんじゃないすか?」

「それはそうですけど、誰かが手を付けてしまうと領地問題になりますからね。そう簡単にいかないんじゃありません?」

「あー、なるほど。宙に浮いた領地っすか。まあ、確かに面倒な問題っすけど、先送りにして別の面倒を呼び込んでるようじゃ、ざまぁないっすね」


 やれやれとばかりに肩を竦めたティファナだったが、そこでようやく京平が所在なさげに立っている事に気付いた。


「あれ?キョーヘーさん、何、ボーっとしてるんすか?」

「いや、別にそういう訳では……」


 どちらかと言えば緊張して落ち着かないだけだったのだが、平静を装おうと努力する京平。


「ああ、緊張してんすね。どうせもう暫くは待機なんすから、ゆっくりしてて下さいっす。そんなんだと、後々大変すよ」


 だが、ティファナに簡単に見透かされる。とりあえず自分も座ってみるがやはり落ち着かない。

 その姿を見たティファナはおもむろに立ち上がり、ゆっくりと京平に近づいていく。


「えっ?」


 何となくただならぬ気配を感じた京平が思わず後退ろうとするが、ティファナに肩を掴まれてしまう。殆ど力を入れていないように見えるが、京平は全く動くことが出来なくなった。

 そのまま見下ろすように京平に顔を近づけたティファナは、少しばかり不服そうな表情を見せていた。


「何すか、何すか、キョーヘーさん。そんなにアタシらの事が信用出来ないってんすか?」

「いえいえ、そんな事はないです」


 全力で首を横に振る京平。ジェノとマリエラの実力が抜きん出ている事は知っているし、そんな二人と行動を共にするティファナも遜色のない実力の持ち主だろう。

 問題なのは、そんな三人が自分のプランで動くという事だ。宝の持ち腐れ、豚に真珠、猫に小判。嫌な言葉ばかりが頭に浮かぶ。


「ったく、もうキョーヘーさんの仕事は終わったも同然なんすよ。後は大船に乗ったつもりでドンと構えててくれりゃいいんすよ」

「あら?もしかして、キョウヘイさんには泥船に見えてるんじゃないかしら?」


 悪戯っぽく口を挟んできたマリエラを、ティファナが睨みつける。


「ああん?何すか?このタイミングで自己紹介とかいらないんすけど」


 だがマリエラも全く怯まない。


「あら?てっきり鏡を見た事がないのかと思って言って差し上げたのですけど」


 睨み合う二人。


「ちょ、ちょっと!俺なら大丈夫ですから、落ち着いてください」


 突然自分のせいで険悪になった空気に京平が泡を食う。何とか割って入って止めようとするが、それより早く二人が笑い出した。


「冗談すよ冗談。今更マリエラと喧嘩して何の得があるんすか」

「……やめてくださいよ、心臓に悪い」


 心からホッとした様子で呟く京平。二人が本気で殴り合いを始めた日には、ただ黙って見ているだけしか出来ないだろう。


「ハハ、悪かったっす。でもまあ、大船に乗ったつもりでいろってのはホントっすからね」


 ティファナの言葉にマリエラも頷いている。

 二人の心遣いはよく分かる京平だったが、それでも心の重石は取れない。そんな京平の耳にティファナの大きなため息が聞こえて来たかと思うと、額に鋭い痛みが走った。


「いってー!!!」


 たまらず額を抑えて転げ回る京平の目に、広げた右手を不思議そうに見つめるティファナの姿が映った。


「……あれ?右手でやったんすけどね……」


 転げ回る京平と自分の右手を交互に見比べながら首を捻っている。どうやら強烈なデコピンを喰らったらしい。


「もうちょっと自分の馬鹿力を自覚した方がいいんじゃない?」


 そんな二人をマリエラは呆れかえった様子で見ていた。


「ちょっと、いったい何なんですか!」


 流石に京平も抗議の声を上げるが、ティファナは全く悪びれた様子もなく答える。


「いや、口で言っても分かってもらえなかったっすから、その、ちょっと実力行使的な?」

「何がですか!」

「いや、少しは緊張も取れたっすよね?」


 確かに頭蓋に割れんばかりの衝撃を喰らえば緊張も吹っ飛ぶが、それにしたってもう少しやり方と言うものがあるだろうと思わざるを得ない。

 そんな思いを恨みがましい視線に乗せてティファナを見る京平だったが、全く通用する様子はない。


「こんなの痛い間だけじゃないですか」

「つまり、ずっと痛みが欲しい……キョーヘーさん、Mっすか?」

「いや、違いますし、ジェノさんにお仕置きされるって喜んでた人だけには言われたくないです」

「お、言うっすねぇ」


 文句を言われたにもかかわらず、ティファナは楽しそうだ。少しとは言え、京平から緊張の色が消えたからだろう。

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