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戦場のリアリスト 7

「……ジェノさん?」


 焦れた京平が声をかけると、ジェノは何か覚悟を決めるように一つ頷き、京平へと視線を向けた。その目は今までにない程、真剣な色を帯びている。


「よし、ニワ。この件はお前に任せる」

「えっ?」

「ジェノ様?」

「本気っすか?」


 予想外の言葉に京平だけでなく、マリエラ達からも驚きの声が上がる。


「そんなに驚くことか?クエストはニワに降ってきたんだ、ニワがやるのが筋だろう」


 三人の慌てっぷりが面白かったのか、ジェノは少し笑いながら言った。


「いやいやいや、どう考えたってジェノさん達がやった方がいいに決まってるじゃないですか」


 月とスッポン、雲泥、天地、ピンキリ。大いなる隔たりを表す言葉は数あれど、自分とジェノの差を表現するにはどれも足りない。


「心配すんなって。何も丸投げしようってんじゃない。ちゃんと私達も手伝ってやるさ」

「いや、俺、素人ですよ?素人中の素人。キングオブ素人ですよ。そんなの無理ですって!」

「何もお前にヴァンパイアを倒せと言ってるんじゃない。私達を使ってクエストを達成してみろって言ってんだよ」

「……作戦を立てろって事ですか?」

「ああ」


 それならばという気持ちが湧く反面、やはり人の命がかかっているという状況は余りにも荷が重い。

 なおも迷う京平に、ジェノが声をかける。その声は今までになく優しい。


「なあ、ニワ。神ってのは本当に面倒だよな。好き勝手にルール決めては、厄介ごとばっか押し付けてきやがる」


 神に仕える巫女とは思えぬ暴言だが、共感しかない京平はうんうんと頷く。


「でもな、やっぱり腐っても神なんだよ。一見無駄に見えたとしても、理不尽だと感じたとしても、神が押し付けてくる試練てのは、きっとどこかに意味がある物なのさ」


 言葉のチョイスはともかくとして、そこには永年神と共に暮らしてきた重みが感じられた。


「というのが、龍の巫女としてお前に言ってやれることかな。まあ、正直そうでも思ってないとやってられないってのが本当のところだけどな、クソが!」


 最後は神への怒りを爆発させて締めるあたりがジェノらしい。


「少なくともお前は、あの廃屋で、そしてクプヌヌとかいうクソみたいな化け物の前で、シスター達を守ったんだ。そんなお前に人を助けろって言ってきてるんだから、そこにはやっぱり何か意味があるんだろうさ」


 マリエラ達に宥められ落ち着きを取り戻したジェノが、そう付け加える。

 ジェノ達が居たからこそ何とかなった話だが、それでも多少なりとも自分の働きを認めてもらえたようで、少し勇気が湧く。


「なに、どんな状況になったとしても、いざとなったら力で押し通してやるから、好きにやってみな」


 またもや『死ななきゃ勝ち』の精神が前面に押し出されてくるが、さっきとは違い今度は心強く感じられた。


「……分かりました。やってみます」

「そうこなくちゃな」


 ジェノはそう言うと、改めて京平に現在の状況を説明する。

 ヴァンパイアは村から少し離れた所に建つ元は貴族の別荘だった打ち捨てられた屋敷にいると思われる事。そこにはそれなりに下級眷属がいるであろう事。そして農夫の娘が一人攫われている事。

 確かに裏がどうこう言えるほどの情報はない。ジェノ達が言うように力で押し切ってしまえるならそれでいい気もする。だが、それでも何かが引っかかる、と京平は考えを巡らせる。


「あっ、ヴァンパイアって普通に建物に入れるんですか?」


 ヴァンパイアの弱点に、誰かに招かれない限り建物には入れないというのがあった気がする。


「ん?……ああ、そういや、そう言われるとそうだな」


 ジェノの反応は、元ヴァンパイアとは思えぬほど薄かった。


「まあ、あれはどうとでもやりようがあるからな」

「そうなんですか?」


 驚く京平に、ジェノは淡々と説明する。


「何せ、入れないのはヴァンパイアだけなんだよ。仲間がいれば仲間でいいし、魔法が使えるなら使い魔でも構わない。何なら、幻術で作り出した幻に喋らせても行けるって話もあるぐらいさ」

「はぁ……」

「今回は攫った娘がいるだろ。そいつを先に入らせて、招かせりゃそれでしまいだ」

「でも、そんなことしたら立て籠られたりしませんか?」

「してどうなる、という話は置いておいて。そうならないようにあらかじめ心を縛っておくもんだけどな。まあそうでなくても、さっき言ったように入れないのはヴァンパイアたる自分だけ。魔法もぶちこめりゃ、武器だって投げつけられる。何なら建物に火を放ったっていいし、破壊したっていい。そこにいる人間に目前の死か、先延ばしにされた死かを選ばせるくらいの恐怖は簡単に与えられるさ」


 事も無げに言ってのけるジェノだったが、そこに垣間見えるのは人間とは乖離した精神だ。どれほど似ていても人ならざる物なのだと改めて実感させられる。


「ただ、今回の相手は馬鹿だからな。素直に考えりゃ、仲間がいるって可能性は高いか」


 何か思い出そうとするかのように考え込むジェノ。


「何か心当たりでも?」

「心当たりなんかありすぎでどうしようもない」


 京平の問いに早々に匙を投げた。


「そもそもが王都から逃げ出してきた奴だろ?王都の件に巫女は絡んでないから直接恨まれるようなことは無いはずなんだがな」


 それでも少しは気になるのか、首を捻っている。


「……まあ、それこそ考えたってしょうがないな。それで、どうする?」


 結局、考える事を諦めて京平の判断を待つことにするジェノ。

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