キャベ8
祝福を受けたところで、三人で祈りを捧げます。こうする事で精霊と対話していける様になるらしいのですが祭壇を降りてからは自分の精霊以外はぼんやりとしか見えなくなっていることからまだまだ対話が足りない様です。
「きっとこの子は貴方に素敵な魔法を与えてくれますよ!」
少女の様な笑顔で聖女はそう言いました。テンプレの様な言葉に本当にそう思ってますかと聞きたい所ですが、聖女からは全く悪意を感じないので信じようと努力する事にします。
この不安を打ち明けたくてなりません。精霊殿を出るとすぐに二人に聞いてみる事にしました。
「精霊でどうすれば魔法が使えるのですか?」
「基本的には精霊が教えてくれるんだけど、いつかはわからないす。最初の魔法が出てからなら教えられるんすけどね」
騎士の話を聞いた時に言っていたのを思い出しました。出てきた魔法を如何に使うかを騎士学校では習うという話でしたのでまずは魔法を出さなければなりません。
ですが……本当に出るのでしょうか?
「魔法の発動に関しては焦る必要はない。そのうち必ず掴むタイミングがある、あまりに発動しない様ならまた聖女に聞いてみるといい」
「そういう物なのですね」
「力はありそうだから焦らなくてもいいっすよ!」
経験者二人に励まされたおかげで、あまり気にしない事にしました。精霊と言ってもいつも出ているわけではなく時々ひょっこりと現れる。その姿がキャベツに似ている事もあり可愛らしいと思いました。
精霊に夢中になっていたからか、あたりはすっかり日が沈みかけています。帰りの便には間に合いそうもないです。
「そしたら、今日はありがとうございました。また、会う事がありましたら……」
「もう帰りの便は無い。今日は客間に泊まって行くといい」
「ですが、お金もあるので宿を取りますよ」
「こんな時間になってしまったのは私の責任だ。それくらいの事はさせてくれ」
「隊長はキャベ子さんと一緒に居たいんすよ!」
「そ、そんな事はない!」
「なら俺もお邪魔しよっかなー」
「す、好きにするといい」
補償金で財布は潤っています。ですが無駄遣いをしてはいくらあっても足りません。トーマも行く様なので今夜はお言葉に甘えようと思いました。
「あの……夜は酒場に行きませんか? 市場街に美味しい店があるのです!」
「いいねぇ、隊長もいきましょうよ!」
「酒場か、悪くない。今日はそこにしようか」
貴族街から少し下ると、昼間に市場が開かれている通りがある。お得意様や注文された分以外のキャベツは時々場所を借りてここで販売している。
だが、夜は酒場の立ち並ぶ飲食街になるのがこの街の特徴だ。遠くから来ている者も多い為、宿をとり市場を出す者が少なくはないのです。
普段は市場の人と来る事がある店。場違いな二人にも庶民の味を知って貰いたかったのかもしれません。店に入ると顔馴染みの女将さんが声をかけてくれました。
「キャベ子じゃないかい! 大変だったねぇ」
「本当に、ご迷惑をおかけします」
「焼けちゃった物は仕方ないからねぇ、来年もまた作るんだろぅ?」
「そのつもりです」
「また、仕入れさせてもらうよ」
「よろしくお願いします」
農園が焼けたというのは女将さんの耳にも届いていたみたいです。席に着こうとすると見慣れない二人に気付きました。
「ちょっとあの二人、貴族様なんじゃないかい?」
「はい、ルミノール騎士団の方です」
「どうしてまた、こんな所に?」
「農園の件で知り合いになりましたので、誘ってみたんです」
「あらまぁ……腕によりをかけないとねぇ」
「普段通りでいいと思いますよ。女将さんのご飯は美味しいですから」
「嬉しい事言ってくれるじゃないのさ!」
普段こんなに小さなテーブルで食事をする事が無いのか、アレクは少し戸惑っている様に見えます。
「隊長はあんまり来たことないんじゃないすか?」
「トーマはあるの?」
「もちろんあるっすよ。俺は志願兵上がりだから騎士になる前は良く来ていたんすよ」
「私は……初めてだがいい店だ」
アレクはやはり負けず嫌いなのでしょう。トーマに張り合っている様にも見えます。
「志願兵というのは、騎士とは違うのですか?」
「騎士は貴族だからな。小さい頃から騎士学校に通っていたりして戦術や訓練をして騎士団に入る」
「志願兵は独学になるから、基本的には日雇いの騎士のサポート役っすね」
「なるほど……」
トーマが庶民出というのを知り、なんとなく親近感がある理由がわかりました。
「大きな功績、つまりはルミノール領の危機などで活躍した者が叙勲されると騎士に上がるのだ」
「俺の二つ名はその時の奴っすね」
「閃光の騎士?」
「恥ずかしいからやめて欲しいっすけどね」
わたしは庶民から貴族になる事があるのを初めて知りました。ほとんど歳の変わらないトーマが貴族になったのは四年前の事……一体彼はそんなに若い歳で何をしたのだろうと思います。
「アレクは元々貴族なんですよね?」
「私は祖父の代からだな。ルミノール領の貴族はそう言った者が少なくない」
「実際、隊長の爵位は後を継いだら伯爵。ルミノールの領地はクロマライト家の領地を預けてこの規模になっているんすよ」
住んでいるのに知らない事があるのだと知りました。ただ、一つだけ気になっていた事を聞く事にすると二人は少し険しい顔で話し始めました。
祝福とは契約みたいなものですね!
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