キャベ29
確かに人目のつきやすい街に居るよりかは、ほとんど特定の人物にしか会う事の無い農家の方が正体がバレる可能性は低いのかも知れません。
マリスが居る今、入れ替わったとしてもそれなりに誤魔化してくれる事は間違いないでしょう。
「ですが……」
「何か問題でもあるんすか?」
「トーマは農家を舐め過ぎです! 美味しい野菜を作るというのは、力だけじゃできないんです!」
「じゃあ何が要るんすか?」
「……愛情……とか」
「なら、慈愛に満ちた聖女様ならピッタリっすよ」
確かに、彼女なら精霊とも話せてもしかしたら植物とすら会話する事も出来るかも知れない。それでも、なんといいましょうか、納得がいきません。
「そもそも、聖女様をわたしがやるという事の方が無理があるんです!」
「まぁ……確かに?」
「回復はともかく、精霊と話すなんて出来ませんし、ましてや祝福の儀式なんて絶対無理です!」
「それなら大丈夫よ!」
「どうしてです?」
「祝福の儀式は年一回だもの、カトレシアは特別対応したけど、次は半年後まではないのよ?」
「むむぅ……」
普段は回復さえ出来れば特に仕事は無いのだそうです。それも聖女様が出なければいけない位の回復は一週間に一回あるかないかとの事です。
「後ろにこもっていれば礼拝に来る方も特に気にはされませんしね!」
「それならとりあえず農園に連れて行って、一通り伝えてからカトレシアが影武者をすればいいんすよ!」
まだ納得はしていませんが、説得されてしまいました。すぐに元に戻って貰えれば代役をする事も無いとあくまで最終手段として了承する事にしました。
とりあえずトーマに姿を隠す服を手配してもらい、作戦を立てます。まず、わたしが聖女様とマリスの元に向かい事情を説明。トーマはその間にアレクとルミノール伯爵に説明をしてもらいます。
なるべく秘密を知っている人は少ない方がいいとの事で、それ以上の人にはバレない様にしようとの事でした。
マリスは驚くと思いますが、寛大な彼女ならあっさりと事情を飲み込んでくれるでしょう。問題はアレクとルミノール伯爵です。トーマは自信満々ですが、一筋縄では行かなさそうなのがあの二人です。
ですが、今は彼にまかせてわたしはわたしが出来る事をするしか無いと思いました。
「決行は明日の朝っすね!」
「それまで隠れていなきゃいけないのー?」
「影武者をしたならわたしなんて毎日バレない様にしないといけないのですが?」
「むぅ……」
聖女様は不服そうでしたがその日、一度宿屋に戻るとマリスに相談しました。
「あんた大変だったのね! だけど、農園に連れて行くのもかなり大変だわね……」
「そうなのです。とりあえず明日の朝一で行くしか無いかなと思っているのですがどうでしょう?」
「御者が気づいちゃうんじゃない?」
「ですよねぇ」
問題はどうやって連れて行くのかがポイントです。ローブを被せるとしても正体不明の人を乗せてもらえるのかは怪しいところです。
「トーマがアレクや伯爵に話してくれるみたいだから、もしかしたら移動手段があるかも知れませんが……」
「それはあり得るわね。彼自身部隊長なわけだし、許可さえ貰えればいい訳なのだから」
彼が問題無く説得ができれば、明日の朝に部隊を連れてくるだろうというのがマリスの考えです。確かに御者にバレずに農園へ向かうというよりはそのほうが現実的に感じました。
次の日の朝、彼女の予想通りにトーマは部隊を連れて精霊殿の前に現れました。しかし、普段とは違いどこか無理している様で、あまり気乗りしていない様にも感じます。
「一応、隊長達には言っておいたすよ」
「特に何も言われなかったの?」
「まぁ、聖女様は農園に居た方がいいだろうって、すんなり許可は出たっすね」
「そうなんだ……」
「とりあえず、人が動き出す前にでるすかね!」
トーマは騎馬と小さな馬車を持って来ていました。ですが、部隊の騎士も最小限と言ったところでしょうか、トーマを含めても三人しかきていません。
「知っている人も最小限に抑えているのね」
「そう言う事っす!」
精霊殿の中に入り、ローブで隠した聖女様を連れ出すと、すぐさま馬車に乗せます。馬車には聖女様を含めてもマリスと子供達がのると満員になってしまいました。
「キャベ子さんは俺の馬に乗るといいっすよ!」
「なんか騙されている様な……」
「き、気のせいっすよ!」
こうして走り出してみたのはいいのですが、思っていた以上に二人で馬に乗るのは恥ずかしいのです。それもかなりの時間乗る事になるというのは、なかなかの試練でした。
「キャベ子さんを前に乗せたのには理由があるんすよ……」
耳元で聞こえる声。
普段とは全く違って嫌でも意識してしまいます。
「理由?」
「まぁ、一緒に乗ってみたいというのはあったんですけど……隊長と話した内容っすね」
「え? 許可は貰えたんじゃないの?」
「許可は貰ったっすよ。ただ、先日の事件での王国兵は独断じゃ無かったんすよ」
「王国が指示を出していたって事?」
「そう。近いうちあんまり良くない事が起こってしまうかも知れないんすけど、とりあえずマリスさんには言わないで欲しいんすよ……」
何故、マリスになのかはわかりませんでした。ただ、今回の動きに何か関係は有るのだと思いわたしは息を飲みました。
怪しい空気になってきました!
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