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キャベ2

「焼いてしまったってどういう事ですと!?」

「すまないとは思っている」


「とりあえずどのくらい焼けたのですか?」

「い、一面……」


「そりゃキャベツは焼いても美味しくいただける野菜ですけんど、畑ごと焼く物ではなかとよ!」

「わかっている。だからこうして来ているのだ」


 王子様が盗賊に変わるくらいの衝撃です。

 頭のなかで、納品先や今後の生活の事でいっぱいになるととりあえず目の前で頭を下げている騎士に八つ当たりしてみました。


「あーもう、生きていけないっ!」

「そのあたりは安心してくれ」

「わたしには売るものも食べ物も無いんですよ。こんな事なら、一番水々しいキャベツを食べておけばよかったです」


 騎士様(仮)は深く下げていた頭を上げると、宥める様な落ち着いた口調でいいました。


「このルミノール領ではこう言った事故の際、補償する事になっている。だから明朝私と一緒に被害状況を確認して欲しい」

「……今です」

「いや、流石にもう外は暗い。行った所で状況は変わらないのだから明るい時に見た方がよいのではないか?」

「騎士様ですよね?」

「ああ、だからこそしっかりと対応を、」

「明るくする魔法とか使えますよね?」

「使えない事もないが、アレは戦闘用の魔法でだな……」


 少し焦りが見える騎士様(仮)は自分の手を握ったり開いたりして何かを確認している様です。


「わたしのキャベツ達が焼かれているんですよ? これが戦争で無ければ何ですか!?」

「わかった、よーくわかったから落ち着いてくれ」


 すぐに支度を済ませ、早足で畑に向かう事になりました。もちろん騎士様(仮)も一緒に。


「カトレシア、もしかしてあそこに一人で住んでいるのか?」

「そうですよ。父が残してくれた家と畑です」

「……すまない」

「見るのが憂鬱です。まだ実感がないので」

「うっ。だが、若い娘一人で畑を見ているとは思ってはいなかった」

「それを焼かれるとも思ってませんでしたけど」

「頼むからそんなにトゲトゲしないでくれよ」


 彼の態度から悪い人では無いのだと分かりました。しかし、許すかどうかは別の話です。しばらく歩くと何度も通い慣れた畑に着くと、焼けた匂いと焼きキャベツの匂いが混ざった様な匂いが漂っています。


「焦げ臭いですが、真っ暗で見えないですね」

「今明かりをだすから少し待ってくれ」


 彼はそういうと手をかざし青い光の魔法陣が流れる様に書き上げられ、光の玉が飛び出して昼間の様な明るさになりました。


 初めて見る魔法は神秘的な感動と一瞬に、真っ黒に焦げた見る影もない自分の畑を見る絶望感を与えられました。


 徐々に収穫を始めたばかりの畑。半年以上毎日見てきた子達の無残な姿には涙が止まりません。


「あーん。酷い、酷すぎるよ」

「本当に申し訳ない……」

「ううっ、わたしのキャベツが真っ黒だよぉ」


 その場に座り込んでしまったわたしは、立てそうにもありません。彼はただそれを背筋の伸びた騎士立ちで頭を下げたまま無言です。立ち上がるのをそのまま待っているのだとわかりました。


「カトレシア、今状況を纏められなくてもいい。一度家に戻らないか?」


 顔を上げたわたしに、騎士様(仮)は優しい口調でそう言いました。しかし彼は罪人。ただ、出来るだけ誠実に謝罪をしている姿に免じて一度家に戻る事にします。


「だけど、立てません……」

「ショックで腰が抜けたのか?」

「そんなところです」


 すると彼はわたしをヒョイと抱き上げ、お姫様抱っこ状態で家に向かい歩き出しました。


「あの……」

「気にしなくていい、これくらいはさせてくれ」

「手が胸を掴んでます」


 ドサッ!


「うぎゃ」

「す、すまない!」

「何で急に落としたんですか! 持てないなら無理して持たなくてもいいです!」

「まさか掴んでいるとは思わなかった、信じてくれ!」

「それはそれで思う所があります」


 暗くてよく見えないのですが、赤くなっているのはなんとなくわかりました。


「普通なら責任問題ですよね」

「そ、そうだな。責任を取らねばならない、たが私の一存では難しいので一度父に相談させてくれ」

「冗談ですよ。こんな焼畑を理由に迫りたくはないので気にしないでください」

「しかしだな……」

「名前、教えて下さい。今回はそれでいいです」


 彼は慎重にわたしを抱き上げ直すと、恥ずかしそうに小さく呟いた。


「アレク……アレク・クロマライトだ」

「クロマライト……あの英雄の?」

「英雄ヴァン・クロマライトは私の祖父だ」

「騎士の名家だったのですね」

「そうだ。だが、家の事は気にしないでくれ、これは私の問題だ」


 少し遠い目をしながらそう言った彼は、何処か寂しそうで何か言いづらい関係なあるのかも知れないと感じました。


「名家には名家の悩みがありますからね。そのあたりは詮索はしないでおきます」

「名前を聞いてきた割にはあっさりしているのだな」

「補償の時に騎士様宛にした事で受理されないのは困りますからね」

「なるほど、そういう事か!」


 そういうとアレク様は鎧の下から一つのペンダントを取り出します。青く光るペンダントトップには紋章が描かれており、それがクロマライト家の物だとすぐに気づきました。


「紋章を渡しておく。これを持って来たならカトレシアを来賓として迎えてくれるだろう」

「わかりました」

「そもそも補償する気が無いのであればこうして来る事は無いのだけどな」

「それもそうですね」

「ところで、補償の件なのだが──」


 彼の誠実な姿勢に保障は金貨百枚とだけ伝える事にしました。今年一年を過ごせるだけのお金と来年キャベツを育てられる分の金額。

 取り乱してしまったものの、アレク様は魔物を討伐した代償でそうなってしまっただけなので。


 家に着くと彼は一言だけいいました。


「本当にそれで構わないのか?」

「お金が欲しいから怒っていたわけじゃありません。わたしはキャベツ農家が出来れば構わないのですよ」


 そう言うと「すまなかった」と頭を深々と下げ、鎧の音と共にわたしの家を去っていきました。

アレクが謝罪しかしてません。

騎士なのに、貴族なのに……


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