キャベ18
気がつくと、大きな腕に包まれているのがわかります。一体何が起こっているのでしょうか。
「あんた、頑張ったのね」
「きゅ、急にどうしたのですか??」
マリスの優しい言葉にわたしの視界がゆっくりと滲んでいくのがわかりました。
「どうして……」
「いいのよ。こんな時くらい大人を頼っても、貴女はまだ甘えたい年頃じゃない?」
「マリスさん……」
わたしは今までの生活が当たり前だと思っていました。一人でキャベツを育てて生きていく事がキャベツ農家の生き方なのだと疑った事もなく、頑張っているつもりなんて無かったのです。
辛いとか、苦しいとか口に出してはいけない。口に出したら本当に辛くなってしまうから。しかしマリスはそんなわたしを見てくれていたのです。
「ねぇ、お姉ちゃんはなんで泣いてるの?」
「リリム。お姉ちゃんはずっと一人で耐えていたのよ。だからあたし達は、お姉ちゃんを一人にしてはダメなの……」
「リリムはずっと一緒だよ。マリ姉はなんでもできるから心配しなくていいよ?」
小さな優しさは、きっとマリスが育てていたのだと思います。わたしが育てていたキャベツの様に、いや、それ以上に愛情を注がれているのだと感じました。
「一緒に作りましょう。もっと美味しく沢山出来る様に、あたし達も家族だと思ってくれていいのよ」
マリスのその言葉が、どれだけ心強いと思ったのかは口にはしませんでした。それが、彼女達と少しでも近づく事が出来る事だと思ったからです。
それから、少しずつ畑を治していきました。灰や炭になってしまったキャベツはまた新しいキャベツになるのだとマリスは言ってくれました。一人では心が折れていたかも知れません。
ですが、みんなで治したおかげで一週間が過ぎる頃には焼けたあとが土に馴染んだ畑の形が出来上がっていました。
「後は時期が来たら耕しながら植えて行くだけね、他にも準備があるのならやっていきましょう」
「手伝って貰ってありがとうございます」
「いいのよ、居候しているあたし達はこんな事くらいしか出来ないんだから!」
「メルルとパリルもありがとう。もちろんリリムもお手伝いしてくれたね!」
この一週間は毎日土を混ぜる作業でした。多分一人では心が折れてしまっていたと思います。そんな中、わたしは三人の子供達にキャベツの栽培を教えようと考えていました。
「そういえば、燃えちゃったみたいだけど予備の種はあるの?」
「はい。干ばつや不作の時の為に一応とってあります」
「せっかくだからとうもろこしやジャガイモも植えて見ないかしら? 芽が出ているのや食べきれない物は種として使えるのよ」
「いいですね! 育て方が分かれば畑の一部を使えますよ!」
今までは、一人で暮らして行ける分の量で作っていた事もあり、畑にはまだまだ余裕がありました。五人で住むとなると、キャベツをもう少し広げようと考えていましたが、他の作物が作れるのなら作ってみたいと思いました。
「とうもろこしとじゃがいもの育て方はあたしの出身地の名産品だから、ある程度なら分かるわ!」
「でしたら是非、作ってみたいです!」
「決まりね! みんなで沢山の野菜を作りましょ」
こうしてわたし達は、新しい作物と合わせて農園を作っていく事になりました。この土地には無い作物という事もあり、うまく出来るかはわかりません。ですが、みんなでするという事がわたしにとってはとても大切で意味のある物だと感じていました。
マリスから話を聞くと、とうもろこしを育てるのはキャベツと時期が被ってしまいます。ですが、一年に二回取れるじゃがいもであれば育てられるかも知れないとの事。同じ畑で交互に育てるのはリスクが有るとの事なので、種芋を増やしながら試してみる事になりました。
「芽が色々な所に生えている物を分けてちょうだい! あんまり生えていないのは芽を取って早めに頂いちゃいましょう!」
芋から芋を作るというのは少し不思議な気がします。何より、これだけの量の荷物をさりげなく持って来ていた事が驚きです。みんなで手分けして分けると、大きなリュック一つ分の種芋が集まりました。
「重いですね……」
「これくらい大した事ないわよ。ミルル、ちょっと持ってあげなさい!」
「いや、流石にミルルちゃんには重すぎますよ」
するとまるで中に何も入っていないかの様にミルルはすんなりと持ち上げてしまいます。
「これがあたしの魔法。力が強化されるからミルルでも簡単に持って行けるのよ」
これだけの荷物をサクサクと持って来ていた謎が解けました。マリスはバフの力を使い、持ち前の器用さで荷物の積み下ろしをしていたのです。
「すごいですね、わたしも魔法が早く発現しないかな……」
「そうね。魔法というのは普段の生活や、今までの人生が関係しているみたいなの。だから、お節介なあたしは補助魔法が発現したのだと思っているわ」
今までのわたしとはどんな人なのでしょう。キャベツを作っていただけのわたしには少しも予想が付きません。そんな中、家に誰かが尋ねてくるのがわかりました。
ドンドン!
普段あまり来ない来客に様子を伺います。すると聞き覚えのある声が聞こえて来ました。
「あれ? いないっすか?」
まだまだまったりします。
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