キャベ13
「一般庶民を巻き込むとはどう言うつもりだ?」
「すまない、巻き込むつもりは無かった」
ヴァンのその言葉に、アレクは拍子抜けしたのか剣を下ろしました。
「ならば直ぐに返して貰おうか?」
「もちろんだ。だか、返した瞬間に斬りかかられてはこちらともよろしく無い」
「ふむ。我々に手を出すなと、そう言いたいわけだな?」
アレクはわたしの方を見ると、小さく頷いたのが分かりました。
「まぁそう言う所なのだが、先程ルミノール伯爵と話していてな。こちらもただリスクを負うためにこんな事をしている訳ではない」
「それで、ルミノール伯爵はなんと?」
「お前を説得しろとの事だ。さすればこちらの要求は飲まれるつもりらしい」
まさか話を付けているとは思ってはいなかったのか、アレクは眉をひそめた。ですがこの状況、わたしの事がメインのはずが、交渉に使われているのが少し気になってしまいました。
「ちょっと待って下さい!」
「おい、何を言う気だ?」
「構わない、カトレシアに話させてくれ」
ヴァンは小さく舌打ちすると、顎を向けて話しをしろと伝えている。
「アレク。わたしの事はかまわないからヴァンの話を聞いて判断して?」
「しかし、カトレシアの安全が……」
「あんた貴族やろ? 平民一人の人質で領地を動かす気なんけ?」
「そうは言ってもだな……」
「この街の事を一番に考えんかったら誰が街の事考えるとね?」
するとアレクは剣を鞘に収めました。
「カトレシアの言う通りだな。ヴァン・フレデリック、お前の話を聞くとしよう。わたしは自らの意思で内容を判断する」
ヴァンはわたしをチラリと見るなり小さく囁きました。
「なぁ、お前どこの出身だ?」
「何がですか?」
「その訛り、どこかで聞いた事あるんだよな。まあいい、一応目的はあいつと話す事だからな……」
多分、この話が纏まれば街が変わります。特にわたしが関わっていた人たちの生活にも影響する話なのだというのは分かりました。
だからこそ、アレク自身に判断して貰いたかったのです。今後決断した責任を負う事になるのはアレク本人なのですから。
ヴァンの話を聞き始めるまでにそれほど時間は掛からなかったと思います。ですがわたしは彼等が真剣に話す姿を見て、あのキャベツ農園を引き継いだ日の事を思い出していました。
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「カトレシアにはワシしかおらんのだ!」
「しかしだな、ダンカン……元共和国の戦士の力を借りたいのだ」
「ワシはもう戦士ではなかよ。妻が残してくれた娘の父であり農園を営むキャベツ農家やけん」
「だがなぁ……」
当時はもう少し大きく感じていた家。父は旧友と酒を飲み交わしていました。
「何度も言わせるな。娘が起きるけん、帰ってくれ……」
友人の男は「また来る」と言葉を残して去っていきました。小さいながらも父が兵隊に誘われている事、もしかしたら居なくなってしまうかも知れないと思っていました。
「妻の頼みじゃけん……」
いつもそう呟いていたのを覚えています。きっと私にはわからない大きな問題が父にはあったのでしょう。わたしはそんな父を見て何かできる事はないかと考える様になりました。
「パパ……いえ、お父さん?」
「どうした、カトレシア。パパで構わんで」
「キャベツを作るのって大変なの?」
「ああ、気を抜くとすぐダメになるけん大切にそだてないかん」
それを聞いたわたしは父の力になれる事を探していました。それはほんの少しだけ背伸びがしたかったのかも知れません。そして十歳を迎えた頃、父にいいました。
「わたしもキャベツを作ってみたい」
小さいながらの興味でもあり、お手伝いをしたいという気持ちが『キャベツを作る事』で、力になれると考えたのです。
「うーむ。カトレシアもそういう年頃かもしれんのう。明日畑に連れて行くけんやってみるのもええかも知れんな」
こうして翌日からわたしは父を手伝う事になりました。それから父は育てていく上での色々な事を教えてくれます。
この土地の気候に適している事。
種からの育て方。
害虫が着きやすくちゃんと見ておかないと直ぐにダメになってしまう事。
重たいキャベツを手で押して芯を切る事で小さなわたしでも収穫出来る事。
残った根を取り除かなくてはいけない事……。
毎日教わる事ばかりで、ですがこれらを覚える事で父と少しづつ分かり合えている様な気がしてわたしは『キャベツを作る事』に夢中になっていきました。
そんなわたしは次第に農園の人達と仲良くなり、市場にも行く様になった事でさまざまな人と会う様になります。強面の父とは違い話しやすかったのかそれまでとは違った形で関係を築いていきました。
最初の頃は『ダンカンさんの娘』と呼ばれていた所から『キャベツ農家のカトレシアちゃん』になり、誰が言い出したのか『キャベ子』と関係が深まるに連れ呼ばれ方も変わっていきます。
キャベツ農家として色々な事を任される様になったある日の事、わたしを見ていた父は思い詰めた表情で夕食時に言いました。
「カトレシア。お前はもう一人でも農家をやっていけるけん、パパもやらんといかん事をしようと思うとるのだが……」
十三歳の春。突然切り出された話は、父がこの領地の戦士として戦場に出るという話でした。
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