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キャベ10

「どうしたのだろう……」


 わたしがそう言って聖女様の顔をみると、可愛らしい顔に少し違和感を感じます。


「ん? どうかしましたか? 顔に何かついてますか?」

「あ、いや……」


 わたしはこの時、彼女の目を見て初めて聖女様が人間では無い事に気づきました。


『龍人』


 人化した龍の末裔。彼女の力はその遺伝によるものだったのです。気づかれない様に目線を彼女のコサージュに移します。


「あ、これ可愛いでしょ?」

「そうですね……」

「精霊殿と同じ、水晶で出来ているの」


 そう言うと彼女は、コサージュを外してわたしにつけてみました。


「うん、可愛い! あげるねっ!」

「こんな高価な物……」

「いいの、これは祝福を受けたお祝い。私からも祝わせて?」


 純粋な彼女の笑顔にそれ以上断る事はできませんでした。本来なら貴族でも庶民でも祝福を受けるというのは親族から祝われる物。身寄りのないわたしには二人の言葉で充分でしたので、聖女様の振る舞いに驚いてしまったのです。


 わたしの精霊も気に入っているのか、コサージュの中に出入りしているのがわかります。


「精霊のおうちみたいな物だから、街を歩く時にもきっと役立つわ!」


 トーマもブレスレットを、アレクは剣に付いている石を同じ様に使っているとの事で、聖女様からもらったコサージュを同じ様に付けておこうとおもいます。


「力はまだ、発動していないみたいだけど精霊と共に過ごしていればすぐに発動するわ」

「ありがとうございます、早く発動できるように頑張ってみます」

「あんまり気を張らないで、気軽にその子と仲良くしてあげてね!」


 そういって、彼女は逸れていた精霊を抱えると、精霊殿へ連れて帰るとの事で、わたしたちと別れる事になりました。


「聖女様は龍族の方なのですね」

「キャベ子は気づいたっすか?」

「はい。目が違う感じがしたので」

「あの方は随分と前に、この地に来られた龍族の末裔なのだ。聖女としてあまり人の前に出ない事もあり、精霊を使わない者はあまり知らないがな」


 龍族については小さな頃に父に聞いた事が有りました。その昔、人間と魔族が戦っていた頃に龍への信仰に答え魔族と戦うために精霊の祝福を教えたとの事でした。


 ですが、魔族と龍族が戦う事となり双方はほぼ壊滅的なダメージを負い純血種は滅んでしまったのだと言い伝えられていました。


「この街にその末裔がおられたのですね」

「あまり知られては行けないのだがな」


 龍族は特別な力を持つとの事で、その力を欲する者も少なくはない。だから聖女様はあの様に人前にほとんど素顔を見せずにひっそりと暮らしているのだろう。


 その日、アレクの客間に泊らせてもらう事となった。明日にはまた、農園にもどり来年に美味しいキャベツを作る事が出来る様にしなくてはいけない。


 やる事が沢山ある事もあり、帰らなくてはいけないと言う気持ちと、もう少しこの街の事を知りたいという気持ちで揺れています。


 後1日なら……いや、やっぱりわたしは農園の事を優先して、この数日の出来事は夢だったのだと心にしまっておくのがいいのです。


 広く手入れの行き届いたベッドは、心地よいのですが色々考えてしまうと落ち着かなくなりました。立ち上がると大きな窓の外は暗く、街も眠っているのか月明かりでぼんやりと青白く光っています。


 ふと、庭の方に視線を向けるとトーマの散歩している姿が見え、わたしは散歩がてらに会いに行ってみる事にしました。


 鎮まりかえった屋敷の中を抜けて、庭の方に向かいます。別に出てはダメとは言われていませんがなんとなく悪い事をしている気分になります。


 庭に出ると、やはりトーマの姿がありました。何か集中している様な少し近寄り難い雰囲気で、やっぱり部屋に戻った方が良いかと考えます。


「誰すか?」


 気配に気づいたのか、トーマはこっちを向きました。


「キャベ子さん! どうしたんすか? もしかしてふかふか過ぎて眠れないとか?」

「……はい」

「やっぱり。俺も最初はそうだったんすよね」


 そう言ってトーマはこちらにゆっくりと歩いて来ます。


「トーマは何をしてたのですか?」

「ふんっ、イメージトレーニング!」


 そう言って、剣を振るうとしたり顔で笑顔を見せました。


「努力家と言うのは本当なのですね」

「うーん、努力って言うよりは動かないと行けない時に動ける様にしておきたいだけすね」

「動かないといけない時?」

「騎士っすからね。目の前で助けられ無いとかだけは避けたいんすよ」


 彼はきっと、その様な場面に何度も出くわしているのだろう。強い意志が見える彼の言葉に少し見直しているわたしが居ました。


「トーマは強いですね」

「まだまだっすよ。精霊が見える以外は才能は無いので工夫していかないとダメなんすよ」

「そう考えられるだけで充分、強いです」

「キャベ子さんの方がずっと強いすけどね」

「そんな事……」


 そんな事ない。そう言おうとすると、トーマは思っていた以上に真剣な顔をしている。


「キャベ子さんは、隊長の事が好きなんすか?」

「え、アレクの事? 嫌いじゃ無いですし、いい人なのはわかってますけど……」

「好きじゃ無いなら……良かったら……」


 そう言ってトーマは俯き、月明かりでよくわからないですが、赤くなっている様な気がします。


「良かったら?」


 そう、聞き返すと急に金属がぶつかる様な音がして、叫び声が響きました。


「トーマ、何やってんだ! カトレシアを連れて隠れろっ!」


 目の前にはアレクと、何者かが鍔迫り合いわたしはトーマに引っ張られるのがわかりました。

攫われてしまいました。


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