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どうでしたか?



「……じゃあ、汗をかいてしまったので、身体を拭いてもらってもいいですか?」



 先輩はそう言って、どこか甘えるように俺を見る。


「……え?」


 だから俺は驚いてしまって、一瞬、言葉に詰まる。



 確かに先輩は熱を出して寝込んでいたのだから、たくさん汗をかいてるはずだ。けど、シャワーくらいなら浴びれるだろうし、身体を拭くにしてもそれくらい1人でできるはずだ。


「…………」


 ……しかしそれでも、先輩は俺に拭いて欲しいと言った。なら、俺の返す言葉は決まっている。


「分かりました。じゃあ、タオルを準備しますね?」


「い、いいんですか?」


 先輩は自分で言っておきながら、驚いた顔で俺を見る。


「もちろんです。先輩がして欲しいって言うなら、俺は何だってしますよ」


「そう、ですか。……あ、タオルはそこの棚に入っているのを、使ってください」


「了解です。じゃあ皿を洗ってから来るので、少しだけ待っててくださいね?」


「分かりました。……その、急がなくてもいいですから」


 先輩は顔を赤くして、またベッドに寝転がる。だから俺は努めて冷静に、皿をお盆に載せて部屋を出る。そしてそのまま早足で台所に行って、大きく息を吐く。


「……これくらいで、動揺してちゃダメだな。だって本当なら今頃俺は、先輩を口説いてたはずなんだから」


 そうなれば、もっと過激なことをしていたはずだ。なら、この程度で動揺するわけにはいかない。じゃないと本番の時に、先輩に変な気を遣わせてしまうかもしれない。


「……よしっ、まずは皿を洗うか」


 手を動かすと、少しずつ頭から熱が抜けていく。けれど不意に先輩の裸を想像してしまって、思わず皿を落としそうになる。……でも俺は努めて冷静な振りをしながら、皿を洗い続けた。


「これで終わりだな」


 皿が洗い終わったので、用意していたタオルを電子レンジで温めて、先輩の部屋に戻る。……気づけば心臓は、またドキドキ高鳴っていた。



「お待たせしました、先輩」


 俺がそう声をかけると、先輩はゆっくりと身体を起こす。


「じゃあ、その……お願いします」


 先輩はそれだけ言って、俺に背を向けてパジャマに手をかける。


「あ、待ってください。着替えのパジャマとか、用意しておいた方がいいんじゃないですか?」


「そう、ですね。じゃあさっきの棚の隣に、替えのパジャマが入ってます。そしてその下に……下着が入っているので、好きなの選んでください」


「……パジャマはともかく、下着まで俺が選んでもいいんですか?」


「構いません。……あ、でもブラはつけないので、下の方だけお願いします」


「分かり、ました」


 もうここまできたら、下着程度で引き返すことは出来ない。だから俺は覚悟を決めて、棚を開ける。そして手早くパジャマと……パンツをとって、先輩の方に持っていく。


「ふふっ。貴方はこういう下着が、好きなんですか?」


「からかわないでください。……というか俺は、先輩のなら何だって好きですよ?」


「……そ、そうですか。そう言ってもらえると、その……嬉しいです」


 2人して顔を赤くする。


「……って、あんまりゆっくりしてるとタオルが冷めちゃいますね。先輩、その……いいですか? 脱いでもらって」


「分かりました。……一応言っておきますけど、貴方ならどこを見てもいいですからね?」


 先輩は甘えるような顔で笑って、俺に背を向ける。だから俺は、慌てて目を逸らす。……けど思えばそれは、今更だろう。先輩は見てもいいって言ってくれたんだし、何より俺は今から先輩の身体を拭くんだ。ならその程度で、動揺していられない。


「…………」


 覚悟を決めて、先輩の方に視線を戻す。すると白くて綺麗な背中が、目に飛び込んでくる。


「……じゃあ、拭きますね?」


「お願い、します」


「……熱かったら、言ってくださいね?」


 ゆっくりと、先輩の背中に蒸しタオルをあてる。……先輩はその感触がくすぐったかったのか、驚いたようにビクッと身体を振るわせる。


「大丈夫ですか?」


「問題、ないです。だから、続けてください」


「分かりました。でも、できるだけ優しく拭きますね」


 先輩の背中は白くて綺麗で、見ているだけでドキドキする。……でも先輩は風邪をひいているのだから、見惚れて時間をかけるわけにはいかない。


 だから余計なことは考えず、手早く丁寧に作業を終わらせる。


「終わりました。じゃあ俺は外に出てるんで、終わったら呼んでください」


 そのまま立ち上がって、部屋の外に向かう。


「……待ってください。前も……お願いして、いいですか?」


 しかし先輩はとんでもない言葉で、俺を引き止める。


「前は、自分で拭けるんじゃないですか?」


「それでも私は、貴方にして欲しいんです」


「……いいんですか?」


「はい。貴方は、私の胸が好きなのでしょう? だから今日……、私のせいで《《できなかった》》お詫びに、私の胸を好きなだけ触らせてあげます。……ううん。私は貴方に、触って欲しいんです」


 先輩は背中を向けたまま、それでもはっきりとそう告げる。


「分かり、ました」


 ならここで俺が、引き下がるわけにはいかない。だから俺はもう一度タオルを握り、そのまま背中がわから先輩のお腹にタオルを当てる。


「そんな風にされると、背中から抱きしめられてるみたいで……凄く、ドキドキします」


「……くすぐったかったりしたら、言ってくださいね?」


「大丈夫です。……それより、上もお願いします」


「分かってますよ」


 そう答えて、でもまずはお腹から拭いていく。けど先輩のお腹はほとんど脂肪がついていなくて、すぐに拭き終わる。


「…………」


 だから俺は意を決して、先輩の胸に手を伸ばす。


「……っ」


 とても、柔らかかった。今まで触れてきた何より柔らかくて、痛いくらい胸が高鳴る。もっともっと触れたいと、そんな欲望が溢れ出す。……けど俺はその欲望を無理やり抑えつけて、あまり触れ過ぎないうちに手を離す。


 だってあまり触れ過ぎると、色々と……我慢できなくなりそうだった。それに何より先輩は耳まで真っ赤に染めていて、これ以上やるともっと熱が上がってしまいそうだ。


 だから俺は、すぐに手を離して立ち上がる。


「それじゃあ、今度こそ行きますね」


「……はい。ありがとう、ございました」


 先輩のその言葉を聞いてから、部屋を出る。そしてそのままその場に座り込み、大きく大きく息を吐く。


「すげー、柔らかかったな……」


 思い出すだけで、脳が沸騰する。それくらい先輩の胸は、柔らかかった。


「……でも先輩は風邪ひいてるんだし、あんまり変なことばかり考えててもダメだよな」


 もう一度大きく息を吐いて、思考を切り替える。……するとちょうど部屋から、先輩の声が響く。


「もう、大丈夫ですよ?」


「りょーかいです」


 そう答えて、部屋に戻る。


「私の胸、どうでした?」


 先輩はからかうように、俺を見る。……けど顔がまだ真っ赤なままなので、きっとかなり無理しているのだろう。


「凄く、柔らかかったです」


「そう、ですか。……その、触りたくなったらいつでも言ってくださいね? 私はもう貴方のものなので、胸くらい好きにしていいです」


「それは……いや、分かりました。その代わり先輩も、何かして欲しいことがあったら言ってくださいね? だって俺はもう、先輩のものなんですから」


 2人して、照れたように笑い合う。


「それじゃ、先輩はそろそろ寝たほうがいいですね。体調は良くなってきてるみたいですけど、ここで油断するとまたぶり返しちゃうので」


「そうですね。今日はもう、寝ることにします。……あ、でも、脱いだパジャマと下着は、そのままにしておいてくださいね? ……汗をたくさんかいてしまったので、流石にそれを貴方に渡すのは、恥ずかしいです……」


「……それはまあ、そうですよね」


 流石に俺が、先輩の下着を洗う訳にもいかないだろう。


「それじゃ、先輩が寝るまで手でも握ってましょうか?」


「…………」


 了承してもらえると思ってそう言ったのだけど、先輩は何故か答えを返してくれない。


「あれ? もしかして、嫌ですか?」


「嫌なわけ、ないです。……ただ、もう少しわがままを言ってもいいですか?」


「もちろんです。俺は先輩の彼氏なんですから、できることなら何だってしますよ?」


 俺の言葉を聞いて、先輩は恥ずかしがるように足をモジモジと動かす。そしてまた顔を真っ赤にして、その言葉を口にした。


「貴方にぎゅってされながら、眠りたいんです。……いや、分かってはいるんですよ? 今の私にそんなことをされると、風邪がうつっちゃうって。でも、それでも今日は……」


 今日はずっと一緒にいたんです、と先輩は言う。


「……ふっ」


 だから俺は軽く笑って、電気を消す。そしてそのまま先輩の横に寝転がって、宝物を扱うように優しく先輩の身体を抱きしめる。


「……いいんですか?」


「構いませんよ。俺は身体だけは丈夫ですし、それにもし風邪がうつったら……今度は先輩が、俺の看病をしてください」


「分かりました。じゃあ今度は、私が貴方の身体を拭いてあげますね?」


 先輩は腕にぎゅっと力を込めて、俺の胸に顔を埋める。だから俺はそんな先輩の背中を優しくさすって、身体から力を抜く。


 そんな風にして、先輩との夜はゆっくりと深まっていった。



 そして翌日の早朝。大きな問題が起こる。




 ずっと帰ってこなかった先輩の両親が、急に家に帰ってきたのだ。



 しかし今の俺たちが、そんなこと知るよしもない。だから俺たちはただ幸福に酔いしれながら、お互いの身体を抱きしめ続けた。



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