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自殺の動機は基本よくわからないものだ。芥川龍之介は自分の将来に対するただぼんやりとした不安がそれにあたるように、僕にとってもそうだった。僕の場合はなんだろうか、とりあえずここでは空があまりにも綺麗だったからとでもしておこう。風邪で二日ほど寝込んだ後久々に見た朝の世界が美しいまでに白く光り輝いていて、『よし、死ぬか』と思いつき行動に移してしまったのだ。決して世に不満がなかったわけではない。そこらで歩いている同じ高校生と比べて大差ない程度の不満は持っていた。だからこそ僕が死んだ理由は世界の美しさ以外に思い浮かばなかった。
気が付くと目の前には美少女が安楽椅子に座っていた。
「ややっ、最近は多いですね…」
僕は自殺したのだ。つまり彼女は天使や神といったようなそういう事だろう。
「君自殺したでしょ?昔も少なくはなかったけど、若干増えた気が…。あー、気のせいかな最近こっちの人員減らされたっぽいし」
「はぁ」
「時間押してるしちゃちゃっと始めますか。えーと、今君には2つ選択肢があります。1つは地獄行き、魂に付いてる罪を浄化して生まれ変わってもらうんだけど、大体浄化する前に自我や記憶がなくなる程度に時間かけて苦しむからお勧めはできないかな。もう1つは異世界行き、自殺という罪のあるこの世界から離れて異世界に行き世界を救って罪を償う、これはこれでお勧めできないけど、まあ幾つか特別な力を渡す規約になってるので何とかなりますよ」
「あ、はい。ならそれで」
「お、話が早いね~。それじゃあ特別な力はどうしよっか?なんかイメージとかあるかな?」
「そうだな、目的を果たすまで若く死なない体とかその敵に対抗できるまで成長する力とかそのあたりかな」
「うんうん、なるほど!それじゃそれっぽいの与えときますね」
彼女は首を大きく縦に振りながらテキトーな笑顔で返事をして右手を持ち上げると、僕の足元に立体的な幾何学模様が浮かび上がった。
「そういや言い忘れてたけど君が倒さなくちゃいけない相手は―」
そこで全てを聞く前に僕は異世界に飛ばされた。