第11話:ゲーム開始
私が想像する以上に、田中君はゲームが上手だった。
一発も魔物の攻撃に当たることなく、攻撃をし続けている。
私と南は、同じエリアで、ひたすら踊り続け狂戦士の攻撃力を上げる。
「田中マジで魔物の攻撃当たらないじゃん」
南は楽しそうに笑っている。
笑いたくなるのも当然だ。
それぐらい田中君が魔物を圧倒している。
「当たり前だろ。防具も武器も揃ってきたから、すぐに最高ランクまで行けるだろう」
この調子であれば、修くんもコンタクトを取ってきてくれるだろう。
「篠宮先生が来ても困るから、今日はこの辺にしておこうか」
私はゲームに夢中で気づかなかったが、もうすぐ下校時間だ。
「意外とゲームも楽しいねぇ。それで、明日もやるの?」
「今日で最後だ。篠宮先生にパソコンを返さないといけないからな」
確かに部室にでかいパソコンが3台もあれば流石に怪しまれるだろう。
篠宮先生のパソコンを借りているとあれば、いつ部室に来るかも分からない。
「これからはどうするの?このままだと修くんとコンタクトが取れないよね」
「綾瀬さんと南は、今まで通り部室にいてくれたらいい。
こっから先は、俺一人でもゲームを進めることは可能だろう」
そう言い、篠宮先生のパソコンと修君のパソコンを梱包している。
「万が一誰かが部室に来た場合、俺のパソコンで動画を作成していると言っといてくれ。
パソコンを返しに行くから今日はここまでだ」
「じゃあ結衣帰ろうよ。後は田中に任せてさぁ」
「本当に大丈夫なの?元は私が提案したことだし手伝うよ」
「コンタクトが取れた後は3人で行動する。そのときに手伝ってくれたらそれでいい」
これ以上押しても、田中君の意見が変わることはないだろう。
「分かった。頼んだよ」
「それじゃあ田中後はよろしく。」
私と南は、部室を後にした。
「田中君本当に大丈夫かな?」
「大丈夫でしょ。三人で部室でゲームをずっとしてるわけにもいかないじゃん」
「そうだけど……」
「大丈夫だって。修くんとコンタクトが取れたときに私達は頑張ろ」
私は南の言葉に頷いた。
自宅に帰ってからもどうも嫌な予感がする。
田中君は、目的達成のためなら手段を選ばない。
ゲーム内で探すことが不可能だと感じ、違う手段を内緒で取るのではないだろうか?
正直私は心配だ。
そして私の嫌な予感は見事に的中した。
学校だけではなく、部室にも田中君は来ていないのだ。
「結衣は田中から、何も聞いていないの?」
「聞いてないよ。本当に大丈夫かな……」
「大丈夫でしょ。友人の家でも行ってゲームを一緒にしてるんじゃない」
田中君に友達がいるとは思えない。
それともひょっとしたら、私が知らないだけで友達がいるのだろうか?
何かをしているとしたら、単独行動だ。
田中君に電話をしても繋がらないため、もう学校に来るのを待つしかない、
私達は、いつものように紅茶を飲みながらボーッとしている。
あれから3日が経って、ようやく田中君が学校にやって来た。
いつもと変わらず授業を受けている様子から、トラブルなどは起こっていないはずだ。
私達はご飯を食べ、部室に集まった。
田中君は、部室にあるパソコンでゲームをしている。
「久しぶりじゃん。3日間も引き凝ってゲームでもしてたの?」
「当たり前だろ。これを見てみろ」
ゲーム画面を覗くと、防具や武器に変化がある。
正直私はゲームが得意ではないため、見ろと言われても何も分からない。
私とは対照的に南は、ゲーム画面にとても食いついている
「南は武器や防具の変化が分かるの?」
「分かるわけないじゃん。けど頑張ったのは分かるね」
南が画面に指を指した。
私は指の先にある数字を見て、目を疑った。
プレイ時間が77時間と表示されている。
「もしかしてだけど田中君……寝ないでずっとゲームをしていたの?」
「当たり前だろ。それぐらいやらないと修君に近づけないからな」
「そ、そうなんだ。それで修君と連絡は取れたの?」
「修君らしき人物から連絡が来ている。後は、居場所を特定して連れて帰れば依頼は完了だ」
田中君が、ゲーム上にあるメッセージ画面を開くと複数件のメッセーが届いている。
メッセージ内容のほとんどが、キャラクターのデザインを褒めるような内容だ。
「これじゃあどれが本物なのか分からないじゃん。本当に本人なの?」
南が腕を組みながら質問する。
確かにその通りだ。
これだけメッセージが届いていれば、修くん本人からなのか分からない。
田中君は、どうやって特定したのだろうか?
「連続ログイン日数が途切れているプレイヤーが一人いる。
それにこのゲームは、ギルドカードがあるんだが、作成日がパソコンを購入した日付と一致する」
そう言い田中君が、私達にパソコンの保証書を差し出した。
確かにギルドカードの作成日と数字が一致している。
100%ではないが、修君である可能性はかなり高いだろう。
「綾瀬さんと田中に頼みたいことがある。今日でこの依頼は終わらせるぞ」
そう言い田中君は、鞄からスタンドマイクとノートを取り出し、私達に差し出した。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
明日も読んで頂けると幸いです。