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最新型部品

作者: 折鶴ミケヂ

20××年。科学は発達し、生活はより快適に過ごしやすくなった。ロボット工学は新たな人型アンドロイドを生み出してより進化を遂げていた

 

 そんな時代の話である。

 ある男は車の営業マンをしていた。

 彼は、最新型アンドロイドだった。

 彼は接客することを想定してあらゆる対応を学習していた。

 客が見て安心する顔のデータにより、彼の顔はあらゆる笑顔を再現できる。

 そして、物事をより詳しく知っていて、あらゆる知識を説明できる。そして一番大事なのは疲れないでいられることだった。

 試験的な運用で小さな車修理屋の営業を任された。話が出来て明るい彼はいろんな客に好かれており、彼目当てに店に来る人もいた。

 爽やかな笑顔は人に安心感を与えた。売り上げは彼がトップだった。

 それから他の人間の営業マンが疲れていく中で彼一人は眠らずに事務作業ができる。小さな車のディーラーはそんな彼に全て任せておけばよかった。


 そして3日後に、彼は客に怒鳴られていた。

 彼の上司で、管理責任者の男はこの場にはいなかった。管理責任者は大事な出張があり、他の社員はその時間出払っていた。つまり彼は一人の状態だったのだ。

 それでも最新型で話ができるのならばと、他の社員は安心してそれぞれの仕事に出かけた。

そしてお昼を回った頃。

一人の客が、怒鳴りながら店に入ってきた。


「ちょっと、ちょっと」

「はい!どうされましたか!」

「アンタのところで買った車が壊れたから修理を頼んだのよ。」

彼はその客に笑顔で答える。

「僕は、車を製造した工場ではありません。」

「アンタのとこの車が故障したからわざわざ教えてやったのにな、ん、で、製造したとこのことなんて説明してんの?」

 彼は清々しい声でこう答える。

「それは、お客様の車の買い替えをご検討されてはと思いまして。お客様がそれはひどい使い方をされたのでしょうね。僕は思ったのです、車を買い換えたのなら、怒りが収まるのに...と。気持ちを切り替えられるのなら安いものです。だ、か、ら最新型の説明をしているのです!さぁ!カタログをどうぞ!」


(客が怒鳴っている時はクレーマーだ。そんな時はお前のトークでだまらせてやれぇ〜!)

お酒で気分が良くなった責任者はそう言っていた。それになぜ、と聞かれたのならあらゆる手を使って説明をしなければならない。

だからいつものトークをしたのだ。


 これは、売り上げが一位になったお祝いをした時に管理責任者から学んだことだった。


 そして、これはクレーマー対応の時の笑顔だった。クレーマーが来た時に安心できる顔を学習していたのでこういう時に役に立つ。

しかし、客は怒鳴った顔を崩さない。

「うぅう!お前にはもう頼まない!」

「わかりました、お車はどうされますか?スクラップにしましょうか?」

客は、ははは。と笑い声をこぼす。ようやく笑った。

「お前より偉い奴を呼んでくれ、お前じゃ話にならん。話をする奴を変えろ!」

彼は自動的にその言葉を読み取り、自分の管理責任者を呼ぶように言われたようだと解釈した。

 たしか、今この店にはいない筈だ。

 大事な出張があると言って出かけた筈だ。

彼は言った。

「わかりました、責任者を優先しましょうか?今出張ですがそれでもちゃんとこの世にいますので。あはは。それともお客様の車をスクラップにしましょうか? ダメな車が潰れるところを見たら、 きっと気分も爽快ですよ?」

 客はとうとう出て行ってしまった。


数日後

 彼は車製造工場で検品の作業をしていた。

 責任者は彼をなんとかクビにしないでほしい。そう言っていたが、何かまた問題が起こっては困るということでこの工場に移転させられたのだ。

 あの日から感情を出すことを禁じられた。そういう処置を取らされたのだ。

最新型ということで能力的には優れていたので

製造の仕事に回されたのだ。

アンドロイドということで作業は早く、工場の人間は彼をよく認めていた。

しかし、彼は納得が行かなかった。

自分がやるべきことがあの客のせいで台無しだった。自分はさまざまな知識がある。今運んでいるこの部品の使い道だってわかる。これをもっといい方向に使える。とこんなことを思っていた。

やがて慣れが出始めた。彼は豊かな感情よりも自分の機械としての機能を使われることに嫌気がさしてしまった。

 しかし、部品の生産を止めるわけにはいかない



 彼は失敗を続けていた。考えることをやめなければならない。工場長は彼に怒りをぶつけた。しかし、この部品を良い方向に使えると言っても彼は工場長にその意見を無視される。

なんどもなんども意見したが彼はあの日のようにははは。と笑うと言った。

「お前はスクラップにでもなっていろ、そうしたらその部品をどう使うか考えてやる」

彼はそうか、僕はスクラップになるべきなのだ。と思考して判断を下した。

彼は工場で最新型のスクラップ機に横たわる。

休まず動き続け、優秀な成果を残すスクラップ機は彼の体をいつも通り潰した。

そして、彼は工場長の前でスクラップになった。


工場長はどこかへ電話をかける。

「また、アンタのところのアンドロイドが壊れました。

どうしてくれるんですか? うちの機械がダメになっちまいそうですよ。」

 電話の主は答える。

「わかりました、すぐに伺います。ところでダメになる機械はどうなりましたか?買い換えは考えております?」


すぐに不良品を引き取ってくれと言って工場長は電話を切った。


「これで五十件目だよ。なんとかならないかなぁ」

工場長は呆れたようにため息をついた。


 あたりには彼と同じ顔のアンドロイドがいつも通り働いていた。

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