8,フィアットしょげる
「はぁ~...ホント疲れたよ、この件、国王に言ったらお前終了するかもしれないぞ?分かってんのか?」
俺が呆れた表情をしながら目の前でニコニコしているシュベルトを見る。
「いや~、まさかココまで発展するとは思ってなくてねぇ~...あはは。何か色々とゴメンね?」
「まぁ、一大事にならなかったから取り敢えずは良いとして、だな。.....お前、第一前戦どうした?」
「あぁ、それは今レイラちゃんに全部任せてるんだ!!」
サラッととんでもないことを言いやがったぞコイツ。
「おいおい流石にそれは賢者さんの扱いが雑すぎないか....?....じゃあそろそろスタンピードは止まりそうな感じか?」
「あぁ、多分数日後くらいには終わると思うよ~。彼女わりかし余裕そうな顔してたし。どこかの2代目『覇王』様が出てくれたら本当は数秒で殲滅し終わるだろうけどねッ!!」
シュベルトはそう言いつけるように僕の肩をトンと叩く。
「まぁ、俺にとて社会経験はしてみたいもんなんだよ。たった3年間くらいいいだろ?というか、お前に関しては10年近く社会経験をしてるくせに。」
「ヴッ...そこを突かれると流石の僕も反論できないねぇ...まぁいいや、そろそろキミの本来のパートナーが来そうな気がするよ?まぁ久々に君と朝と昼と授業の3回も剣を交えられたし、僕は満足かな。」
シュベルトがそう言い切ると、屋上のドアが勢いよく開けられた。
「ハスト様!!.....良かった...!!無事で...」
「お、おう...どうしたフィアットさん...?俺はいつでも無事だけど...?」
俺が少し引き気味にレスポンスすると、フィアットは涙をほろりと流して、
「私が...私が隠蔽魔術を習得していれば、ハスト様は国王様を頼らずに済んだのに...」
俺は驚きのあまり、「ぇ...」と嗚咽のような声を発してしまった。何故フィアットが国王に頼ったことを知っているのかと俺は記憶と言う記憶をたどってみるが決定づけられるものが無く、顎に手を当てる。
フィアットは続けて
「私、剣術の授業の時ハスト様と剣聖様が戦っている時、気が付いたんです。今私が見ているモノと皆が見せられているのモノが違うことに。私から見てハスト様が圧倒的に優勢なのにも関わらず、周りのクラスメイト達は剣聖様の方を見て、強いと言っていたのです。」
その発言を聞いて、シュベルトがあちゃ~と自身の額に手を当て、苦笑いを浮かべながら
「あぁ~、そうかアークさんの専門分野だからなぁ...僕もおかしいと思ってたんだよね~。くぅ~、君に一枚上手に行かれたよ。ははっ。それにしてもアークさん、特定の人物ごとの指定もできるようになったのか~、流石、旧幻術帝のアークと言われたレベルだね。」
「えぇ...アークさん、フィアットさんにはこうやって落ち込まれるから絶対に見せないようにって言ったのにぃ...あ~あ。俺のやったことがおじゃんになっちゃったじゃないか...まぁ気にすんなよ。」
「いいえ、国王様のせいではありません、ただ私が他の『頂天者』の側近が必ず習得している幻術の類を学んでいなかったのが悪いんですから...」
俺は落ち込むフィアットを慰めようと、カバーをしようとしても、沈み込んでしまっている。
俺はお前のせいだぞコラとシュベルトへトゲの利いた目を向ける。シュベルトは少しビクつきながら
「ま、まぁ、こうなったのも僕自身のせいでもあるからさ、う~ん、レイラちゃん連れ戻して指導してもらう?...でもなぁ、第一戦線がなぁ、...何処かの『覇王』様が行けば秒速で終了するんだけどね~?」
と、無理やりにでも意地を張って俺の方を向く。
俺もまぁ、フィアットに幻術の類は向いていないだろうなって勝手に決めつけちゃってたからな。面倒くさいけどこれくらいのことはしてやんないとな。
「はぁ~、分かった分かった俺がでりゃあ良いんだろ?フィアットはフツーにここで待ってろ。良い先生を連れてきてやるから。シュベルト、誘ったのはお前だからもちろんお前も出るよな?」
俺が目だけが笑っていない笑顔を向けると、当の本人は無論反論の権利などなく
「ワカリマシタ....」
としょぼくれた声で一言呟いた。
この状況についていけていないフィアットは
「ハスト様が行くところは私がお供しなくちゃならないのでは?」
と不思議そうに聞いてくるが、ここだけ優秀になったシュベルトは
「スタンピード第一戦線はパートナーは連れていけないんだよね~。ゴメンね?でも秒で終わって帰ってくるから。」
と相変わらず憎たらしいと思えるほどのイケメン感あふれるレスポンスをする。
「そういうことで、フィアットへ初任務?かな。内容は俺が帰ってくるまでのお留守番兼ここの守護だな。よろしく頼んだぞ!!」
フィアットはようやく状況が分かったようで、花の咲くような笑顔で
「...っ!!はい!!分かりました、その任務必ず成功させます!!絶対に帰ってきてくださいね?」
と言ってくるので、流石に恥ずかしくなった俺は顔を少し反らしながら
「おうよ、じゃあな。」
と言い残し、シュベルトと屋上から飛び降りたのだった。