7,記憶は残さないようにして
私は見てしまいました。先日のご挨拶拒否された珍しい人を。ランク18以上と思われる、私たちや冒険者たちからみても恐怖の権化ともいわれるようなモンスターを彼は一閃するだけで真っ二つにしているところを。
私はその日はたまたま迎えの車が来ない日だったので歩いて帰っていると、目の前に先日私の言うことを初めて無視した人が、人気のない道に止まっているところが見えました。私は取り敢えず気配を消して見守っていると彼は目の前に溜まっていく魔素を目にして、動こうとしなかったので私は「逃げてください」というつもりだったが、その人は出現した魔物を見て笑っておられたのです。
私は酷く寒気を覚えました。頭の中には次々に疑問が浮かび上がります。「何故そこまで余裕なのか」や「なぜ逃げないのか」「自殺でもする気なのか」と。
ですが、その人はポツリと私がギリギリ聞き取れる声量で呟きました。
「.....『覇王』」様の前に出ちゃったら、終了だぜ?....」
私は驚きすぎてその場にへ垂れ込んでしまいました。
何故彼はこの国の最重要機密事項を知っているのでしょうか?私ですらお父様に見せてもらえなかったものを、私が夜中にわざわざ禁書庫に入って勝手に読んでしまった資料に入っている『頂天者』9人目の秘匿された存在を何故知っているのかと。
私はそのまま見続けた。そして彼は何かを呟くと、彼の右手には碧い剣が出現したのです。
そのまま見ていると、彼は見たことのない剣の構え方で構えた。私が一度瞬きを挟むと、既にあのランク18以上だと思われるモンスターの胴体が真っ二つにされていたのです。
私は声すら出ませんでした。その日の夜はあの彼がどんな人なのだろうと気になって寝ることができませんでした。
そして今に至ります。私は生徒名簿などを見ているのですが、昨日見た彼はどうやら山奥で暮らしていた平民の子のようで、物静かな性格だと記載されていました。ですが、普通の生徒ならば生徒情報は基本出身地名、身体情報が記載されているのにも関わらず彼はそれすら記載されていなかったのです。
「やはり、実際にお話ししなければ分かりませんね。」
私はそう呟いて、学校の資料室を後にしました。
少し歩いていると、彼の教室を通りかかりましたが、彼の姿は見当たりません。少し肩を落としました。
すると、外で「ドオオオン」と轟音がなっているのに気づきます。私は何事かと急いで音の発生地へ向かいます。
すると、轟音だけでなく、剣が打ち合わさる音が響いているのにもかかわらず、そこには何もありませんでした。ただただこの広い校舎裏に音だけが響いている。そんな状況です。
私は混乱しました。
私が棒立ちしていると、いつの間にかそんな音は聞こえなくなっていました。よく考えてみると私は昨日から驚きっぱなしですね、あはは。
私は去り際、深刻な表情をした女子生徒と会いました。そしてその人は私に向かって聞きました。「ハスト様は何処にいるか知っていますか?」と。
今確かにこの子はハストさんではなくハスト様と呼んだ。これらのことからやはりハストさんには何か隠していることがあると確信を持ちました。
そして私のマークしておかないといけない人物が増えました。この人物の名をフィアット=セルジーネと言うらしいのです。
私は表情を崩さないように、「申し訳ありませんが、見ていませんよ。」と適当に返答をしておいた。
彼女はぺこりとお辞儀をして、どこかへ走って行ってしまった。
「これはまた、どんどんハストという人物の謎は深まるばかりですね。」
私はため息を吐いて次の授業へと向かった。
時間は進み、お昼休み。
私はまた彼の教室を立ち寄りました。やはり彼は教室には居ませんでした。
教室の方に聞いてみると、どうやら彼はお昼休みが始まるなり、直ぐに教室を飛び出していったとのこと。
男性陣にお昼一緒にどうかと言われましたが全部面倒なのでお断りさせてもらいました。
すると、またもや轟音が聞こえてきました。今回の発生源は本来誰も入れないはずの屋上からだと予測しました。
私は、前回同様に屋上に結界が貼られているか確認するために急いで屋上への扉の所へ向かいました。
「なっ...開いている...?」
何と、扉は開いていたのです。私は好奇心の赴くままにドアを開けてみてみると、
「剣聖様...?」
そう、今代の剣聖ことシュベルト先生と、ローブを羽織った誰かが剣を交えている最中だったのだ。
私は敵かと思って、慌てて剣を鞘から取り出そうとしました。
「なぁっ....!?何故!?」
ですが鞘から剣を引き抜くことができません。
私の脚は何故か竦んで、手が震えます。本能的に、ローブを羽織った人物を恐ろしいものだと悟ってしまう。
そんな私を見て、剣聖様は「ははは」と笑いながら
「あはは~、やっぱコイツの覇気には勝てないか~。まぁ、相手が相手だし?まぁね、剣を引き抜こうとすることができるだけで上出来かな。はっす~もそろそろ解いてあげないと、この子死んじゃうかもよ?」
そう剣聖様がそう言うと、ローブを羽織った人物は、覇気を消した。私はやっと呼吸ができるようになった。私がよろめきながら立ち上がると、目の前でローブを羽織った人物が剣聖様に何かを言っている。剣聖様は、途端に驚いた顔をして
「エッ!?この子はっす~のパートナーじゃないの!?あちゃ~、僕の仕返しが過激になりすぎちゃったか...ゴメンネ。....っと申し訳ないけど第一王女様、貴女の記憶を一部改変させてもらうね。まぁ、どちらにせよ記憶なくなるんだから、君もローブくらいとってやったらどうだい?」
私は恐怖のあまり、王女という立場にもかかわらずその場にへ垂れ込んでしまった。
そして、恐る恐るフードをとったローブを羽織っている人物へ目を合わせる。
「.....!?ハスト....さん....?」
私が全力を振り絞って驚きのレスポンスをすると、彼は口を開き、
「申し訳ないが、ここで第一王女様の記憶はなくなるけど、形式的に挨拶くらいはしておくよ。どうも、『頂天者』が1人、2代目銘『覇王』のハスト・アーネットです。ま、言えんのはこんくらいかな。」
「...は、『覇王』....」
私は気が付けば彼の言った言葉、私がずっと気になっていた言葉を反芻していた。
「じゃあね。第一王女様。---------」
そこで私は深い闇に落ちて行ったのだった。
初の他者視点でしょうか?
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