5,もう俺に休みはないんですか?
「誰が、お堅物人間で、サイドテールの魔王ですって.....?」
何故か目の前にいるフィアット。口は笑っているが目が笑っていない。俺の思考回路が一瞬停止した。
「ぁっ...あ、あぁ、あ...」
結果、残ったのは嗚咽ともいえるような奇声が俺の口から漏れ出た。俺の体は本能的に目の前のフィアットから逃げるようにして後ろへズルズルと移動していく。俺に合わせて目の前のフィアットは近づいてくる。
「いやだぁぁぁくるなぁぁぁああぁぁ!!『フィジカル・アクセル』ゥゥ!!」
俺は恐怖のあまり即起き上がって、自身に身体強化魔術を施し、全力で逃げた。というより、飛び降りた。
『マルチウィンド』!!
俺は衝撃を最低限に抑えるため着地点に上昇気流を起こし、そのまま人目のない校門裏へ向かった。
「ふぅ...ここまでくれば流石にあのお堅物人間には出くわさないだろうな...俺の勝ちィ...!!」
俺は何とか気を取り戻し、校舎裏の花壇の前に腰かけ、先ほど食べ損ねたサンドイッチを頬張る。
「自分で言うのもあれだけど、やっぱボッチ飯美味すぎ!!最高かよ!?」
ザッ
決して寂しい訳じゃない。俺自身今までこういった経験が無かったため本当に新鮮で楽しいのだ。これぞ俺の望んだ陰キャボッチ生活というものなんだと改めて実感する。
ザッ
「というかあのお堅物人間は何で人と戯れたがるんだろう?俺にはいまいちよくわかんないや...あぁ、そうか、あのロリババアの言う『りあじゅう』ってやつか、確か、下の身分の奴らイジメて楽しむ奴だっけ?」
ザッ
いやでも実際そうなのか?と、俺はただ一人頭に手を当て考える。というか、さっきから足音が聞こえるような気がするけど何なんだ?
「足音が聞こえるくらい疲れてんのかな、俺。はぁ~、今日は早退して、家でゆっく....」
「駄 目 で す よ ?」
俺の背筋が固まる。俺は本能的に後ろを振り返ってはならないと、必死に前に逃げようとする。が、腕をつかまれている様で、逃げ出すことができない。心拍数が上がる。俺はもう無理だと後ろへ振り向かないまま、話しかけてみることにした。
「あ、あのぉ~、どちら様でしょうかぁ...ボクトモダチ一人もいないんですけど...というよりは関わってる人間自体いないと思うんですけどぉ...」
俺は完全に下に出て聞いてみる。返ってきた返答は、
「うふふ。何を言っていらっしゃるのですか『覇王』様?先日、私契約書にサインしたばっかりなんですけれども~?」
「はははっ。そんなわけないだろう、ボクの名前はアレン・ロドリゲス38世だから、多分別人じゃない?」
「何をおっしゃいます『覇王』様、アレン・ロドリゲスは今代でまだ4世でございますよ~?」
後ろの魔王の手の握り具合がどんどん強くなっていく。
「ヴッ...はははっ、気のせいじゃないかな?あぁ、そうだ、もうそろそろ次の授業が始まりそうだし、ボクはもう教室に帰らないと...!!」
「大丈夫ですよ~。私が先生に遅れると報告済みなので~。うふふ、いつまでこんなこと続けるのですか?ハスト・アーネット様?」
オワッタ。俺の人生は無事終了した。しっかりご丁寧に家名まで言われてしまった。
「というわけで、教室に戻りますよ?」
「.....ハイ....」
こうして俺は一人の魔王によって屈してしまったのだった。めでたくねぇめでたくねぇ...
それからはというもの、俺は他の生徒の前で醜態を晒すようにこのサイドテール悪魔に引きずられながら廊下を歩いた。周りの生温かい目線が極度に痛かった。
教室に入ってからというもの、俺はクラスの人たちにひそひそ話をさせられるレベルになってしまい、俺が今まで大切に過ごしてきた楽しい陰キャボッチ生活から、キチガイボッチ生活へと変貌させられそうになってしまった。
そんな完全に地獄と化した教室の中で、俺はただ一人机に突っ伏して本気で高校中退しようかなと考え始めている真っ最中だった。
俺がこのサイドテール悪魔をパートナーに選んだのは間違いだったのか...?こいつ、そのうち俺の事バラしそうな気がしてきたんだが。まぁ、面倒くさくなったらテキトーに心理作用魔術かけて俺はここを中退するからいいかな。
とかあれこれ考えていると、声が聞こえてくる。
「...ト.......スト.......ハスト君...!!」
俺がふと考えるのを辞めて横を向くと今回の元凶である悪魔がそこにいた。俺はもうこんなところに居たくないと思ったので
「なんだよ。俺気分悪いから保健室行くわ。じゃあな」
とだけ言い残し、教室を後にした。
保健室にて、
「あぁぁああぁぁああぁあぁぁぁ!!楽すぎて快適ィ!!最高かよ!?」
俺は教室から抜け出せた喜びと授業をサボることができる喜びのコンボが決まり、気分が高揚していた。
俺の今いるベッドは保健室の一番奥かつ窓際という神のようなところに設置されている。
「さて、ひと眠りでもしようかな!!おやす....み...?」
俺が布団を被って寝ようとしたとき、窓際から1通の手紙が入ってきた。俺は取り敢えず開けて中身を見てみる。なんじゃこりゃあ!?
えーと、何々、『どうせ今頃授業をサボってベッドでのんきに寝ようとしているハスト・アーネット君へ僕はキミのせいで冤罪を吹っ掛けられたどこかの剣士だけど、ご機嫌いかがかな?まぁ、そんなことは置いておこうか。単刀直入に言うね。僕がキミのクラスの実技科目の剣術講師になったからネ!!僕はキミに仕返しをさせてもらおうとするよ。はーっはっはっはっはっ!!怯えて待っているがいい、2代目覇王!!』
俺はもう終わったなと笑顔のままフリーズした。
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