2,転移ミスもありますよ?
数分して俺はようやく我に返る。まず俺の中の情報を整理しよう。
そう思って俺はアイテムボックスの中からペンと手帳を取り出す。
俺が第一王女様に声を掛けられる理由は何だ。そもそも何故目立たない俺の名前を知っているのだろうか。あのラインハルトというクラスメイトに話しかけたのは俺のクラスにうまく侵入するための口実か?
いやいやそんなことはない。何故なら俺とあのロリババアの持つ称号『覇王』は剣聖、賢者などの『頂天者』とここの校長以外は知らないはず。ましては知っていたとしてもロリババアの方だけで俺が継承されたことは知らないはずだ。
その他様々な疑問を並べている俺の頭の中を手帳に書き留めていくと段々流れがつかめてきた。結果コレは第一王女の出したハッタリだということに気が付いた。多分、彼女自身は本当に目に入ったから挨拶をしよう程
度だったのだろうと推測ができる。それを不自然に回避した俺は今頃彼女の脳内では何かは知らないが重要人物という部類に入れてしまっているだろう。今後なるべく自然な対応をすれば彼女は自分の見当違いだったと諦めてくれるだろう。
俺はニタリと口角を吊り上げる。今の俺の表情を見た者は誰しもが口をそろえて「犯罪者だ」と言って指を向けるだろう。事実、散々クラスの人が言ってる剣聖様にも、「キミは本当に良くアーネットに似てるね」と馬鹿にされたことがあるくらいだ。あの時俺は誰がロリババアと一緒だコラと言いたかった。
俺が昔の思い出に浸っているうちに、屋上のドアの方から声が聞こえてくることに気が付く。
良く耳を凝らして聞いてみると、
「王女様、この結界、賢者様相当の魔力がないと開きません!!これは多重結界の構築式が複雑に絡み合ってて構築式すら解読不可能ですので、外から飛行魔術で突破します!!」
「宮廷魔術士でも解読できない構築式...一体誰が...?」
俺は身を震わせた。あぁ、これはとても不味いと。だが、『覇王』に不可能はないこの考えはあのロリババアと同じだが、俺の捨てられない矜持だ。
俺は床に手を付き、口角を上げて心の中で魔術を叫ぶ
『Spatial transition!!』
その言葉と同時に俺は保健室の一番角ののベットに転移する。俺は転移先のベッドでローブをアイテムボックスに収納し、そのまま布団に潜り込んだ。ん~最高!!
授業を2コマほどサボり散らかして、俺は3コマ目に教室へ戻った。案の定クラスの人たちからは大量の目線を浴びる羽目になったが俺は何とか耐え抜くことができた。そう、俺はクラスの恥にいる暗くてボッチな陰キャだ。その本分を楽しむのは俺の権利であり義務だ。まぁ、この現状をロリババアに見られたら間違いなく地獄のお仕置きタイムが待っているだろう。まぁ、ありがたいことにここにはロリババアはいない。完全に勝利したと言って良いだろう。
そんなことを考えているうちにお昼休みがやってきた。俺は教室を急ぎ足で出て、屋上を目指した。
「あぁ、そうだった俺自分で面倒くさいことしちゃったんだったわ。しょうがないなぁ」
屋上の扉の前に来て悪態のような独り言を吐き、手をかざす。
「はぁ~...『Magic destruction』っと」
碧い魔力が扉を覆い、消え去る。すると扉は何事も無かったかのように開く。屋上は朝来た時より暖かくなっていて最高の環境へと変化していた。
俺はアイテムボックスからローブを取り出し、羽織る。それと一緒に朝家で作ってきたサンドイッチも取り出し、頬張る。
「あぁ~、我ながらうまくできてるなぁ。最高かよ。やっぱ王族とかクラスメイトとかかたっ苦しい奴らとかといるよりボッチの方が楽だわ~。全く、こんなとこで俺のパートナーなんて見つかるわけないだろ。何考えてんだかあの『博識者』は。俺に言うくらいならあのロリババアの方を心配してやれよと思うぜ。はははっ」
俺は誰もいない屋上でただ一人キモいと思われてもおかしくないレベルの独り言を零していた。俺は異変に気が付く。
「『覇権ソルバート』...フォルムガン」
そう呟くと俺の手には碧く燃え盛る実態を持たない銃が現れる。俺は近くの空を飛行している「人間」全員に照準を合わせ、引き金を引く。俺の撃った弾は全て「人間」の脳天にヒットし、意識を失い落下している。無論、撃った弾は実弾ではない。魔力弾だ。だからこんなので死ぬ者などいないだろう。
俺は念のため、サンドイッチなどをアイテムボックスにしまい、また保健室の1番角のベッドに転移をした。
はぁ~...面倒くさくなってきやがったな。
そう思って俺はため息をついてローブを脱ぐ。そして、俺は目の前から予想外の声が聞こえてくる。
「エっ?ハスト君....?そのローブ....」
「....!?何で...サイドテール悪魔学級委員がここに....!?」
最悪だ。このローブのままかつ、転移魔術まで見せてしまった...そして俺は一瞬で、自身がすべき行動を選んだ。
「『覇権ソルバート』...フォルムタガー....申し訳ないが、俺の正体がバレてしまったからには申し訳ないが生きては返せない...これは2代目『覇王』としてなんだ。ごめん、フィアットさん。」
そう申し訳ない顔をしつつ俺は碧く燃え盛る実体のないナイフを彼女へ向ける。
当の本人は、ようやく自分の立場に気が付いたようでかなり顔が青ざめている。彼女は意を決して口を開く。
「...わっ私が...覇王様...のことを口外しなければ問題は....ないんですよね...?」
「一般的にはそうだが、この高校で生活していて思うことがあった。まず弱い他者を見下ろすことだ。最下位だからと言って何かと俺に押し付けすぎだ。次に身分の差が出すぎている。俺は『覇王』だから、師匠、もといアーネットの名を受け継ぐ。所詮俺もあのロリババアに拾われた子供だ。だから苗字なんて元々ない。だから俺は校長に掛け合い、苗字無しで入学をした。俺はかなり周りから距離を置かれたね。最後に、俺は人が苦しむサマなんて見たくなかった。ここは王立だからと言ってシュベルト...あぁ、剣聖が勧めたところだから安心していたが、やはり予想通り、剣聖が卒業した後は名前だけのモノとなっていたことだ。」
「.....!!」
「これがただの陰キャボッチの言葉だとお前はスルーしていたが、この世の頂点と明かした後だと態度が変わるだろう?」
俺が少し、クスリと笑うように言うと、目の前の彼女は肩を震わせている。涙も流してるし....あぁ、ちょっとやりすぎたか?
「まぁ、別にお前が俺のパートナーになるなら話は考えてやらないことはないん...」
「........覇王様の元お供させてください!!」
あり得ないぐらいの即答だった。俺は「エッ」と声を上げてしまった。
「いや、お前普通拒むだろ。というか拒めよ。『頂天者』のやらせることなんてほぼろくなことないんだぜ?というか別にお前はバラさなそうだし。最後に、嘘だよって言ってから帰す予定だったのに...」
俺が引き気味にそうレスポンスをすると、彼女は先ほどとは違うワクワクにあふれた表情で
「だって、あの幻とまで言われた『覇王』のパートナー役ができるんですよ!?何があってもこのチャンスを逃すわけにはいかないじゃないですか?」
私、嬉しくて泣いているんですよ?と言わんばかりに彼女はそう言う。
俺はまぁいいかと念のため展開していた完全防音結界を解除する。そして俺はアイテムボックスからシュベルトから貰ったパートナーの契約用紙を取り出す。
「フィアットさんが本気でやるなら明日までにこの書類にサインして俺に渡してくれ。ま、俺としては別にやらなくてもボッチの方が気軽だと思ってる人種だから。じゃあな。」
そう言い放って俺は保健室を後にした。
宜しければブクマや評価等して頂けると嬉しいです!!
フィアットさん、逃げちゃうのかな?どうなんでしょうね?