12,国王が参戦したってマジですか?
「本日はね、この剣聖のお弟子様に多大なる御技をご教授頂きました。ささ、剣聖のお弟子様に礼!!」
「「「有難うございました!!」」」
俺は取り敢えず形式的に首だけ曲げてお礼をした。まぁ、こういう気分は悪くは無いがね。うん、もっと感謝してくれても良いんだよ?
そんなことはさておき、取り敢えずいち早くでも伝えに行かなくてはいけないな。
俺はそう思い立ってすぐに競技場をでて屋上まで転移した。
俺が屋上にきて案の定剣聖(笑)と賢者が簡易ベンチに座ってお茶を楽しんでいた。俺は両手を密かに握り締めた。キレそうなんだが。
俺が殺気を放っているのにようやく気付いた賢者はギギギとでもなるような首運びでこちらを青ざめた表情をして見てくる。どうしたのかと剣聖がこちらを見る。俺は笑顔で殺気に加えて覇気を放った。限界寸前まで。
剣聖の表情が色あせていく。レイラさんは耐え切れずその場で意識を手放した。
俺は追撃とでも言うようニッコリと言ってのけた。
「で?誰がこのツケ払うんだ?...アァ⁉︎」
「ヒェッ!!...まぁまぁ落ち着きたまえ『覇王』様よ。別に何か問題が起きた訳でもなかろうに。」
「問題が発生したから来てんだよっ!!おいシュベルト、第一王女の記憶消えてねぇぞ!!」
俺が、怒りのままに口走ると、シュベルトが完全凍結した。触覚みたいに出ているアホ毛が固まっている。シュベルトは崩れた表情で再度聞き直す。
「ンー、ヨクキコエナカッタナ~...はっす〜今なんて?」
なので俺は現実を突きつけるように言い放った。
「第一王女の記憶が消えてない。俺が『覇王』だって事がバレてる。」
そう言い切ると、シュベルトはようやく状況が分かってきたようで真面目な表情に戻った。気絶していたレイラさんがむくりと起き上がる。
「はぇ...私、何してたんだっけ...ってっぁあ!!『覇王』様!!ごめんなさいごめんなさい許してくださいぃ!!」
「レイラちゃん、はっす〜もう起こってないから落ち着こうね。はっす〜。取り敢えず国王には伝えたかい...?」
俺があぁ、一応なと言おうとしたときだった、
ボフンッ!!
突如として俺たちの周りに煙が舞った。
「ゲッホゲッホ!!ぁ〜あ、次から次へと一体何なんだい?」
「シュベルトてめーそりゃコッチのセリフだよ!!」
「ひぇぇぇ、こんな非常時に2人ともケンカしないで下さいぃぃ!!」
そこに一本のよく通る声が聞こえてくる。
「やめんか、お前らホントに『頂天者』か...?」
そう、その声の主は
「アークさん...なのか...?」
「いかにも、というかはっす〜に関しては昨日ぶりと言ったところだがな。何やら聞いたところによると娘が迷惑を掛けているようでな。流石に私もヤバイと思ったところだ。」
王族なのに王族らしくないジャージを着て、靴は(仕事から)抜け出す為だけに用意した某有名スポーツ企業のスニーカーを履いて現れたのたのは先日池に書類を投げ捨てていた今代の国王本人だった。
そんなアークさんにシュベルトは
「ぁあ、その格好...また仕事から抜け出してきたんでしょう?はぁ〜まったく。...いいぞもっとやれ。」
責めるのでは無く、むしろ大肯定をしていた。それに便乗してレイラさんも
「どうやったらあんなセキュリティーが硬い王城から抜け出せるんですか、怒られますよ?...私にも仕事から逃げる方法を教えて下さい」
とかなんとか言い始めたので俺は率直にこの国の行く先が心配になってきた。
そんな俺の心情を放置して、アークさんは続ける。
「あれ、ここは確か博識王もいたと思うんだが...」
それを聞いたレイラさんが申し訳なさそうにしてほそぼそとレスポンスする。
「あ...あのあの、エトワールさんは年中社畜というかこういうことに関して無能なので...多分手伝ってくれないと思いますぅ...」
「まぁ、仕方ないよね紅茶を飲むのに忙しそうだし。」
シュベルトが追撃を放ったので俺も
「そうそう、この前俺アイツに怒られたばっかなんだけど、どうせ今頃学園長室で昼の番組見て寛いでるな。」
俺たちの言いっぷりからアークさんは笑顔で言い放つ。
「よし!!博識王、まじでゴミカ...」
そう言い切ろうとしていたときだった。
「ちょおぉぉっと待ったァァァァ!!」
俺たちは何事かと後ろを振り向く。そこにゼェハァと息を切らしながらかろうじて立っているのは噂の張本人であるエトワールだった。
まさかの展開に言葉すら出ない。だって、普段「ん?殲滅作戦?あぁ、そこらへん思いっきり爆撃しとけば?僕はそこで今日の王都新聞読んでるから」とか言ってる奴が戦場に現れたのだ。
そりゃあ言葉を失うのも当然だろう?と言うか驚かない奴がいたらソイツは神だと言ってやろう。
俺は一応確認の為に訊いて見ることにした。
「お、おい今日の分の王都新聞は読まなくていいのか...?一応言っとくけど今日は紅茶の茶葉持ってきてないぞ...?」
エトワールの額青筋が走る。あっヤベ、やっちった。
「あのさぁ、君たち一体僕のことを何だと思ってるのかなぁ!?」
そう出されたその問に俺以外の3人は
「ただのサボり魔だろう?」
「ん〜、生涯新聞読み?かな。」
「聞いた話によると紅茶しか飲んでない奴、だな。」
正直にレスポンスしたのでエトワールはその場に崩れ落ち、身悶えた。口から吐き出された血を拭うような仕草をしながら起き上がると、先程の状況からして考えられないが、口角を上げて言い放つ
「グフッ...!!ま、まぁいいや。じゃあ今回は僕が協力しようじゃないか。さて、まずは忘却術使うか、記憶封印を使うか。だね。」
俺はエトワールから発せられた記憶封印と言うワードに首を傾げるのだった。




