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オスカー

俺の名はオスカー、シルヴァーク公爵家の料理人だ。

俺がシルヴァーク公爵家で庭師をしてた爺さんに引き取られたのは、親が2人とも流行病で死んじまってまだ5歳の時だった。どうやら俺のお袋は冒険者の親父に惚れて駆け落ち同然で結婚したらしく、お袋の親父である爺さんには2人の葬式で初めて会った。親父の親戚にも会ったことはなかったし、初めて会う爺さんが「一緒に来るか?」と言って荒れた大きな手を差し出してくれた時は、嬉しさよりもこれで喰いっぱぐれずに済むという安心感でいっぱいだった。

7歳になって洗礼式を済ませてたら、どこかの職人に弟子入りしてただろうから、そこに住み込みで働かせてもらうって手もあったんだろうけど、5歳の俺はまだ弟子入り先も決まってなかったから、孤児院か、下手するとその辺で野垂れ死にしてたかもしれん。


冒険者?


親父を見ていた限りじゃなろうとは思わんかったな、親父は顔は良かったからそれなりに女にもてたらしいが、冒険者としてはずっと銅カード止まりだったからあまり稼ぎは良くなかったし、お袋は腕の良い針子だったがずっと働きづめで苦労してたからな、親父が普通の堅実な職人とかだったら結婚を反対されることもなかったんだろうし。


まあそんなわけで、5歳の俺が爺さんに手を引かれて連れて行かれたシルヴァーク公爵邸ってのは、ものすごくでかかった。

俺は爺さんが貴族の家で庭師をしてるなんて知らなかったから、ぽかんと口を開けてその邸を見上げてた。俺が呆けている間に、爺さんは平民の使用人頭に俺のことを許可を取ってくれて、俺のシルヴァーク公爵邸での暮らしが始まった。

お貴族様と平民の使用人は住む場所からして違ってたが、それでもそれまで家族3人で住んでた小さな部屋に比べたら全然広くて綺麗だったし、お貴族様に出す料理で使った材料の余りで作られる食事は、どれもこれまで食べたことがないくらい美味かった。俺がこのままずっとこの家で働かせてもらおうと思うのは早かった。

幸い、他の使用人にも何人か子供はいたし、希望すれば親とは違う仕事でも弟子入りを認めてくれていた。シルヴァーク公爵家は代々のご当主様が真面目な人が多いらしく、平民の使用人に無茶を言ったり当たったりすることもなく、給料も良いので大概の使用人の子供は皆そのまま親のあとを継いで働き続けるのが多いらしいが、同じ屋敷内で親とは別の仕事を選ぶ子供もたまにはいるみたいで、正直爺さんのあとを継いで庭師になるのは俺は向いてなさそうだったから助かった、俺が植物を育てるとうまく育たないんだよ、どうやら俺に庭師の才能はなかったらしい。

結局俺は料理人になることを選び、7歳になって洗礼式を終えた後厨房で働かせてもらうことになった。

野菜の皮むきや、もし割ったらいくらするんだろう?!て思いながらの皿洗いを毎日しながら、俺は料理人達が野菜を飾り切りしたり、綺麗な花や鳥の形に作る砂糖菓子に目が釘付けだった。下町じゃあ、あんな風に見た目の綺麗な料理なんてなかったしな。野菜の飾り切りはともかく、お菓子なんて高価な砂糖がたくさん使われてるものを俺が食べられる機会は滅多になかったが、たまに味見だと言って少し焦げた焼き菓子の端の方とかを料理人がくれると、ものすごく幸せな気分になったもんだ。


俺が邸のお嬢様と会ったのは、俺が15歳、成人したばっかりの頃だった。

シルヴァーク公爵家の方々も、それに仕える騎士や側仕えの方々も皆貴族だから、平民の使用人棟になんて来ない。厨房だって勿論だ。奥様が料理やお菓子の指示を出すのだって、料理長が呼ばれて側仕えに伝えられるだけだ。俺は5歳から10年この邸に住まわせてもらってるが、公爵家のご当主様一家にお会いしたことはない、たまーに庭とかで遠目で姿を見ることがあるくらいだ。


それなのに、なんでこんな場所にお嬢様がいるんだ・・・?


厨房の扉を開けて入ってきたものすごく綺麗な子供に、俺たちはどうしたもんかと顔を見合わせた。


直接会ったことがなくても、それがこの公爵家のお嬢様だってことくらいは皆わかる、だって、着ている服が全然違うし、何よりこんな綺麗な子供がそうそういるわけない、先日洗礼式でなんと6つ名を授かったらしいお嬢様のことは、俺達平民の使用人の間でも話題になった。7歳でもうこの国の第2王子様と婚約が決まって、将来はこの国の王妃様になるのが決まったからだ。


「急に来てしまってごめんなさいね?誰か1人料理人を貸して下さる?作ってほしいお菓子があるのです。オーブンを使うのが上手な者がいいわ」


俺たちの困惑を余所に、お嬢様はにこりと笑ってそんなことを言った。

結局、生贄に選ばれたのは俺だった。

たまたま入口近くにいたというだけで!


「バターはクリーム状になるまですり混ぜてね」


厨房の粗末な丸椅子に座ってにこにこと俺に指示を出すお嬢様。それを遠目に見ながらも助けてくれない他の料理人達。くそっ!あとで覚えてろよ?!


「お砂糖を計って、それを1度篩ってちょうだい」


「ふるう、ですか?」


聞き慣れない言葉を言われる。


「あ、もしかして篩がないのかしら?それなら笊でいいわ、なるべく目の細かい笊に入れて振って。小麦粉も同じようにしてね」


ああ、勿体ない。砂糖なんて高いのに、貴族のお姫様のおままごとに使われて。

そうは思っても相手は雇い主のお嬢様、しかもこの国の未来の王妃様だ、俺に逆らうことはできない。

俺は言われるままに、バターと砂糖と卵の黄身と小麦粉を混ぜた生地を棒状にして冷凍箱に入れて冷やす。その間に卵の白身も同じように別の生地を作る。ていうか、卵の黄身と白身を別々にしたのなんて初めてだ、お嬢様に言われるままに分けたけど。


「オーブンは180度・・・温度設定ができないのね、薪だしね。まあいいわ、せいぜい焦げるくらいでしょう」


棒状に凍った生地を切って天板に並べてオーブンに入れる。まあ、何が出来上がるのか知らんが、1度やったらきっと満足するんだろうさ。こっそり厨房になんて来たことがばれたら怒られるんだろうし。


「そろそろ出してみてくださいな」


オーブンを開けると、ものすごく良い匂いが厨房に立ち込める。他の料理人達が皆こちらを気にしているのがわかる。


「ちょっと焦げたくらいですね、生焼けよりはいいでしょう。同じように卵白の生地も焼いてちょうだい」


お嬢様に言われるままに焼きあがったお菓子を皿に移して、今度は卵の白身で作った生地を焼く。ていうか、すっげえいい匂いなんだけど。貴族の子供のおままごとなのに、もしかして美味しいのか?!


「少し冷めたかしら?」


お嬢様は俺が止める間もなく、皿に乗ったお菓子をぱくりと食べる。もしおかしな味で腹とか壊したら大変だから、まずは俺が食べてみせるつもりだったのに!


「・・・うーん、オーブンの癖を掴んでからでないとスポンジ系はまだ難しいわね。先に冷菓から極めるべきかしら」


サクサクと良い音をたててお菓子を食べるお嬢様は何やら考え込んでいる。


「あ、ごめんなさいね?オスカーも食べてみる?」


「・・・はい、いただきます」


俺は覚悟を決めて1枚を口に入れたが、バターの焼けた良い香りにサクサクと軽い歯ざわり、口の中に広がる香ばしさと甘さ・・・


「まだまだ改良の余地があるわね、基本のクッキーからこれだと先が思いやられるわ。あ、オスカー?ラングドシャもそろそろ焼けると思うのよ、出してちょうだい」


「オスカー?大丈夫ですか?」


俺の目の前でお嬢様が手を振っており、俺ははっと我に返る。


「は!申し訳ありません!とても、ものすごく、最高に美味しいと思うのですが、まだ改良の余地があるのですか?!」


「いくらでも改良の余地がありますよ。でも道具も満足に揃っていないし・・・お菓子だけでなくお料理も・・・先は長いですね」


お嬢様は次に焼きあがった卵の白身の方の焼き菓子も食べてみたあと、残りは料理人達で食べていい、と言い残して出て行ったが、遠巻きに俺たちを見ていた他の料理人達がわらわらと寄ってきて置いていったお菓子を口に入れる。


「お前、いくらお嬢様が相手だからって、とても、ものすごく、最高に美味しいはないだろう、現実をしっかりと教えてやらないとまたこっそり来たらどうするつもり・・・て、うおっ?!なんだ、この味?!」


「・・・今まで俺たちが作ってきたお菓子はなんだったんだ・・・?」


「これが基本で、まだまだ改良の余地があるのか・・・?」


お嬢様が置いていったクッキーとラングドシャというお菓子は一瞬でなくなった。


それからもお嬢様はちょくちょく厨房にやってきた。

クロワッサンというバターをたくさん使ったパンを焼いた時は、それまで主にパン焼きをしていた料理人が泣いた。

ハンバーグにグラタン、パスタにピザ、クリームシチュー、オムレツにフライにコロッケ、ハヤシライスにビーフシチュー、プリンにアイスクリームにパイにタルトにパウンドケーキ。お嬢様に言われるままに作った料理やお菓子は、どれも似たような料理があるのに味は全然違ってて、お菓子に至っては見たこともないようなのばっかりで、これまで公爵家の料理人だと鼻を高くしていた俺達は全員その鼻を根本からへし折られた。


お嬢様は厨房に来る度に、料理を作らせる対価だと言って俺たちに読み書きや計算を教えてくれた。最初は勉強で習ったことを披露したいんだろう、なんて思ってた俺達だったが、教えてくれた内容はとてもじゃないがそんなんじゃなかった。


「平民の識字率を上げないとね、とりあえずお父様に相談して公爵領に学校でも作ろうかしら」


「お嬢様、よっぽど金持ち以外は平民は字を読めないのが普通ですぜ、数字くらいは買い物するのに覚えますがね」


字なんか覚えるのは面倒くさい、と言っている料理人が笑いながら言う。俺は爺さんに公爵家で働くならと言葉遣いを厳しく躾けられたが、基本的に平民の使用人は平民同士でしか話さないから、ちょっと下町の乱暴な言葉遣いの奴もいる。お嬢様も別にそれを咎めたりはしない。


「識字率の向上は治安の向上にも繋がるのですよ。文字が読めると騙される人も格段に減りますし」


「なんで字を読めたら騙されなくなるんで?」


「たとえば何かの契約の時に、自分で契約書を読めればおかしなことが書いてあればわかるでしょう?公爵家の三倍の給料を出すからと言われて公爵家を辞めて別の家に行ったものの、契約書には三分の一と書かれていて泣き寝入りとか嫌でしょう?計算も同様です。数字を読めるだけなのと、四桁、五桁の暗算ができるのとでは買い物の際にお釣りをごまかされたりするのを防げるでしょう?」


「・・・なるほど、そりゃそうだ」


契約書を使っての契約なんて滅多にないが、するとなったら信用できる字を読める奴に読んでもらってサインしてもらわないとならんしな、だから代筆屋なんて高い料金とる職業もあるんだし。

それに実際公爵家の料理人は引き抜きの声がかかることが多い。もともと他家よりも美味しいと評判だったのが、お嬢様が指示を出すようになってからは絶賛されるようになったからだ。ただ、二倍だろうと三倍だろうと他所に行く気のある料理人は誰一人としていなかったが。お嬢様の料理を作ってると、自分がまだまだ未熟で他所に引き抜かれるような腕じゃないのを実感するんだよな、それに他所になんて行ったらお嬢様の新しい料理が作れないし食べれないじゃないか。どう考えてもお嬢様はまだまだたくさんの料理を知ってるんだ。


「読み書き、計算、あと礼儀作法は出世にも繋がりますからね、覚えておいて損はありませんよ」


幸運が舞い込むと言われて高い壺を買わされたり、遠くに住んでいる親兄弟が危篤だと言われて金を騙し取られたりしないように、とお嬢様は笑っていたが、実際それを笑えない目に遭ったことのある奴がちらほらいたようでなんだか蒼褪めていた。

ていうか、なんで公爵家のお嬢様が下町の詐欺の手順なんか知ってたんだろうか?


厨房に通ってるのがばれてはご当主様に怒られていたようだったが、お嬢様の指示で作られる料理やお菓子のあまりの美味しさに、ご当主様は見て見ぬふりをすることに決めたようだ。絶対にお嬢様が考えていると他所に漏らすなと厳命された。


「あら、私が厨房に来るのはきちんとお父様と交渉して勝ち取った権利なのですよ。お勉強もせずに厨房に遊びに行くなんて!と怒られたので、お勉強はきちんとしていますから、と普段の成果を披露した結果です」


「普段の成果って何ですか?」


このお嬢様は見た目はものすごく綺麗だが、話せば結構気さくで面白いし、貴族と平民の身分差も特に気にしていないし、しかも考える料理もお菓子も絶品だし、俺たち料理人は将来お嬢様が王妃になって城に移った時、誰が一緒に料理人として付いていくかで今から争っている。


「まずは語学ですね。とりあえず10言語を使えるようになりました。この国の貴族と周辺諸国の貴族の名と特徴、この国だけでなく周辺諸国の歴史や軍事、経済状況、各ダンスの振り付けに、楽器はセディール以外に5種、成人までに身に付けるようにと言われていたことは全て身に付けたのですよ、それで余暇をどのように使おうと私の自由だと思いませんか?」


この時お嬢様は10歳、15歳までに身に付けることを既に身に付けたから大丈夫、と胸を張っているが、後にお嬢様が第2王子様に婚約破棄された時に俺は思った。


なんでも出来すぎる女を嫁にするのって普通の男はちょっと嫌だよな・・・


まあ幸いお嬢様はまるで落ち込んでもいなかったし、むしろ清々した、て感じで嬉々としてセレスティスに留学なんて決めちまったし、公爵邸ではずっと色々我慢してたんだなあ、としみじみ実感するくらい、セレスティスでは毎日楽しそうだ。

お嬢様が婚約破棄された時、なんで城からの引き抜きに応じた奴がいなかったんだ、いたらこっそり第2王子の料理に下剤でも盛るよう指示してやったのに!俺たちの美食の女神と婚約しておきながら破棄するなんて!と料理長を始めとして料理人は皆怒り狂ったもんだが、肝心のお嬢様が喜んでるからな。

セレスティスでは俺に指示を出すだけでなく自分でも料理しているし、レシピがアルトディシアにいた頃とは比べ物にならないくらい日々増えていて、公爵邸でも本当は自分でやりたかったんだなあ、と思った。

それにドワーフ族の職人に次々と細かい調理器具の注文を出しているし、魔術具でも色々調理器具作ってくれたし。

泡立てるのもすり潰すのも大変だったんだよ、ハンドミキサーにフードプロセッサーというものを作って厨房に持ってきてくれた時、俺は感動して涙が出た。

昔料理長が、お嬢様が大きくなったらきっと女神もかくやという美女になるだろうから、そうしたら美食の女神だな、と言って以来、お嬢様は俺達公爵家の料理人にとって美食の女神だ。


お嬢様には、ちょっとくらい貴族の常識から外れたことでも、お嬢様がやりたいことを邪魔せずに見守れるような度量のある男でないとだめだよな。俺達の美食の女神様が嫌な思いをしないような男でないと。

でもお嬢様、ものすごく鈍いからな。


お嬢様と専属契約している冒険者のルナールさんなんて、あからさまにお嬢様に気があるのがわかるのに、お嬢様はまるで気付いてないみたいだし。礼儀は弁えてるし、無理強いするような男じゃなさそうだから護衛騎士のお2人も静観してるらしいけど。

まあいくら金カードの冒険者でも、冒険者と公爵家のお姫様じゃあ身分が釣り合わないだろうけどな。


それに学院でのお嬢様の師だというハイエルフ。

俺は人生でまさかハイエルフと遭遇する日が来るとは夢にも思ってなかった。

ハイエルフって伝説の類じゃなかったんだ・・・

エルフ族はお嬢様と専属契約してるエリシエルさんがいるから、そっちは見慣れてるし気さくなエルフ族だけど、ハイエルフって一目でわかるもんなんだ。

正直、エリシエルさんを見た時は、エルフ族は美男美女のはずなのになんか普通だな、と失礼なことを考えたもんだが、よくよく考えると俺はお嬢様の顔を子供の頃から見慣れてるんだよ。

お嬢様の顔って美男美女のエルフ族よりも綺麗なんだな、と実感した。

だけどあのジークヴァルト様の顔は凄まじかった。

お嬢様の顔って、ハイエルフ並なんだ、と思ったね、いや、俺にとって美人の基準がお嬢様になってる時点でどうかと思うけどさ。

それにジークヴァルト様とお嬢様はなんというか、同じような空気を纏ってた。長年連れ添った夫婦が似たような気配を漂わせてるような感じだ、だからこの2人は最初から気が合うんだろうなと思った。

ジークヴァルト様の姉さんだというハイエルフの絶世の美女にも会ったが、そっちは絶世の美女ではあるけれども、お嬢様やジークヴァルト様みたいなどこか浮世離れした雰囲気はなかったから、やっぱりあの2人はちょっと違うんだな、と思った。


でもまあ、あの浮世離れした雰囲気が6つ名特有のものだと言われたら納得だ。


お嬢様と同じ6つ名だったらしいジークヴァルト様は、何故かお嬢様と神殿で2人きりで結婚してきてしまった。あのハイエルフは間違いなくお嬢様のことが大好きだから、お嬢様の料理人の俺としては別にいいんじゃないか?としか思わないが、お貴族様的にはどうなんだろうな?まあ俺はアルトディシアだろうと、リシェルラルドだろうと、その他の国だろうと、お嬢様の行くところについて行くだけだけどさ。


結局お嬢様はアルトディシアの中に料理の神ロスメルディアを奉る街を造って、そこをジークヴァルト様と一緒に治めることになったらしい。

城から修行に来ていた料理人達は、神気?てやつできらきらしてるお嬢様を見て「ロスメルディアの化身だ!」て言って感動して泣きながら祈ってたが、お嬢様が美食の女神なのは公爵家の料理人にとっては今更だ。

お嬢様が治める街には料理学校を作って、大陸中から料理人が集まるらしい。

料理長がもう年だからといって公爵家を辞めてお嬢様について行って、料理学校で基礎を教えることにしたらしい。だってお嬢様の料理の基礎ってものすごく手順が多くて複雑なんだもんな、他の料理人にとっては全然基礎じゃないぜ。

元々副料理長だった俺が料理長に昇格するという話もあったんだが、俺が20代で副料理長になったのはお嬢様の料理を1番作ってたのが俺だったからだし、俺は一生お嬢様について行くと前から決めてるからな。


「オスカー、そのうち料理の本を書くと良いですよ、印税でとってもお金持ちになれますよ」


「料理の本ですか?そもそも料理の本なんてそんなの見たこともないですけど、売れるんですかね?」


「ないからこそ売れるのですよ。基礎技術と、あと基本の料理のレシピを載せた本があれば大陸中に売れますよ」


お嬢様に会ってなかったら、俺は今頃公爵家の料理人ではあっただろうけど、字なんか読めなかっただろうし、ましてや本を書けなんて勧められることもなかったんだろうな。


「それ、お嬢様が書いた方が良くないですか?」


「私にそんな時間があると思いますか?」


ないだろうな。

この美食の都ロスメルディアができて3年、本当にここは3年前まで小さな宿屋と冒険者ギルドがあるだけの寂れた村だったのか?!てくらいの大都市になった。どの種族だろうと食べないと生きていけないからな、大陸中からたくさんの種族が集まって、近くのレナリア大森林に入るために冒険者もたくさん集まって、たくさんの店と宿屋と食事処ができている。

当然、そこを治めているお嬢様も大忙しだ。

昔から早く楽隠居したい、なんて冗談みたいな本音をよく言ってたけど、それこそ楽隠居なんてしてる暇ないだろう、集まってきた料理人や各国の商人が号泣する。


でもまあ、お嬢様は毎日楽しそうだし、それを見ているジークヴァルト様もとても幸せそうだから、楽隠居はもっと先でもいいんじゃないですかね、お嬢様。


本当はもうエピローグの予定だったのですが、せっかく美食の都なんだし料理人視点とかは?と友人に言われたので、ちょこちょこ登場しているオスカー視点を書いてみました。

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